事務所は三鷹で元とうふ屋。
大塚ギチ
第1話 出会い。
事務所を移転する。
そんな話が持ち上がったのは春も終わりに近づいた
とある日の夜のことでした。
会社設立13年を迎えるにあたり、これからどうしていくべきか。
そんな話し合いのなか自然と移転についての話題になりました。
当時の事務所は東京は中央線を西に行った三鷹駅と吉祥寺駅のあいだのちょっと三鷹駅寄りにある3LDKのマンションにありました。
会社設立してからの一年を新宿駅の西口にある雑居ビルで過ごしましたが、手狭になったことから武蔵野市に移転し、気がつけば11年ちかくの月日が経っていました。
静かな住宅街にあるこのマンションでの生活にとくに不満はありませんでしたが、スタッフの独立や業務内容の変化にともないスペースが大きく空いたことや他室よりも家賃が高くなってしまっていることなどが気になっていたのは事実です。
とはいえ移転はなにかとお金のかかるもの。
会社とはいえ、中小企業の小であるわたしたちにはそれなりに勇気のいることです。
なので、ひとまず物件探しをしてから考えてみよう。
そういうことになりました。
条件については驚くほど簡単に一致しました。それは
「店舗物件」。
雑居ビルとマンションを仕事場にしてきたわたしたちには同じような物件への移転はどうにも興味が沸かなかったのです。
なので、まずは「三鷹」「店舗」とインターネットで検索してみるとあまりいい物件が見当たらないこと、あってもなかなか相場が高いことがわかりました。
それからしばらく検索条件を変えていろいろ探してみるとひとつ興味深い物件がヒットしました。
「元とうふ屋/内装自由」。
内装自由!
普通の賃貸物件に慣れ親しんだわたしたちにとってそれはとても魅力的な言葉でした。
というのは、事務所内のインフラなどを考えるとどうしても既存の賃貸物件に限界を感じていたからなのです。
そんなわけで、わたしたちはその夜、好奇心も手伝って、その物件の様子を見に行ってみることにしました。
お店は三鷹駅南口から歩いて数分の場所にありました。古くからある飲食店が並ぶ小さな路地のなかでした。
木造二階建てのちいさな一軒家。それがその物件でした。
夜遅くだったこともあり、詳細は見ることができませんでしたが、それでも相当古い建物であることだけはわかりました。
その日は閉められたシャッター越しに店内を想像するにとどめ、翌日に物件を管理している不動産屋に行くことを決めました。
こうして春のとある日の夜。
わたしたちはひとつの物件と出会ったのでした。(つづく)
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