第198話 地下鉄に乗る

地下鉄に乗った。

実に3年ぶりだ。


そもそものきっかけは、ライターの仕事で某所を取材させて頂けることになり。

地下鉄を使えば早いのは判っていたのだが、電車に乗れなくなってから、まだ地下鉄は練習していなかったのと、遠回りすれば他の路線で行けることも判っていたので、遠回りするつもりだった。

とは言え、そこは知らない場所。

途中で何かがあったら困るので、同じライター仲間の友人に付き添いをお願いしていた。

遠回りと付添い人。

それで乗り越える予定だったのだが。


タイミング悪く、迂回路が人身事故で止まってしまった。

運転再開予定はその時点で未定。

仕事だし、取材先さんに迷惑をかけるわけにもいかないし。

意を決して、地下鉄に乗ることにしたのだ。


地下鉄の中で、俺の様子はおかしかった。

ただでさえ閉鎖空間の電車内は、外の景色が見えないことにより、圧迫感を感じさせ。

とは言え、視線を動かす気力もなく、ひたすら友人との会話に意識を向け、他の情報をなるべく入れないようにして。

心臓が、バクバクした。

心拍数は、オマエは猫かハムスターか!と言うくらい上がっていた。

正直なところ、友人には申し訳ないが、乗ってから降りるまでの4駅の間、何を喋っていたのかは覚えていない。

下車してからも怖くて、降りたホームで目についたすぐ近くの階段を昇り。

とにかく早く改札から出たいという思いもあったから、結果的に最寄りの出口から1番遠い改札を出て、コンコースをかなり歩くことになってしまったし、地上に出てからも動悸が収まらず、喫茶店で40分くらい休んで。


そんなだったが。

いっぱいいっぱいになりながら、それでも、乗れた。


実績をもっと作りたいと思ったから、今なら付添い人も居るし、乗れた路線だしと言うことで、帰りも同じ地下鉄を使った。

やはり怖かったけど、往路よりはかなりマシだった。


往復できた。

また乗れるか、1人でも乗れるかと言われたら、未知数だけど。

帰宅後、出張中の相方に電話で報告しながら、俺は少しだけ泣いた。

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