第14話 御門1

 正面はテニスコートが入りそうなくらい広い吹き抜けのリビング。お酒の缶や瓶がそこら中に散らばっている。

 その向こうは草が伸び放題の広めの庭、そして新しいレンガで象られた花壇。花壇には花も野菜も植えられておらず、やはり雑草が伸び放題。

 左手は洗い物が溢れかえったオープンキッチン。右手にはリビングの側面一杯を使って2階へと続くオープンステアー。


 建物内部、目に映る全体的な色調は白、ゴミやヤニが何とかその白を駆逐しようと頑張っている。

 そんな場所に御門は一人佇んでいた。正確にはもう一人、人であったものがオープンステアー上部からぶら下がっている。


 ここは……。そうか、私の記憶の中……

 そして、私の世界が終わった場所……。


 御門が俯く。澱んだ目が一瞬寂しげに翳った。

 と、予兆無く突然場面が切り替わる。

 真っ暗な闇、羊水の中、規則正しく感じる鼓動、鼓動のたびに伝わる温もり。


 ここは、私の世界が、始まった場所……

 そう、私は……、本当は……っ!。

 静流は目を背け、更に目を瞑った。

 本当は知ってる。

 私は、望まれて生まれてきた。



□□□□□□□




 最初に知った感情は「愛情」だった。

 愛情という概念を理解していたわけではない。

 ただ、それがひどく温かく心地よいものだということは理解していた。

 まだ外の世界に出る前、規則正しいリズムで、生きるための栄養と共にそれは送られてきた。鼓動を感じるたびにそれは私に降り注いだ。


 元気に育ってね

 早く大きくなって

 早くあなたの顔が見たい


 毎日、外からの想いも届けられた。


 大きくなるんだぞ

 早く君の顔が見たいよ

 

 たまに私は、返事代わりに壁を蹴った。

 それだけのことだ。

 それだけのことで二人は大喜びしていた。

 日々、その時、その瞬間、無限の愛情が私に注がれ、私はその全てを貪欲に蓄え続けた。

 そして、私はついに明るい世界へ導かれる。


 瞬間

 今まで以上に温かく心地よい想いが、今まで以上にたくさんの想いが、私に向かって一気に押し寄せた。

 私は、まだよく見えない目で二人を見ようとした。やはり二人の顔は見えなかった。

 

 しかし私ははっきりと理解していた。

 この人達が私のお父さんとお母さんだ。と

 

 そして私ははっきりと理解していた。

 私は望まれて生まれてきたのだ。と


 私は、蓄えた想いの全てを解放した。




 二歳の時、妹が生まれた。

 お父さんもお母さんも、愛情を分けるのではなく、さらに大きな愛情で私達2人をつつんだ。私達はことごとく愛され続けた。

 私はお返しができないもどかしさを感じていた。与えてもらった愛情に何とかお返しをしたいと考えるようになっていた。

 そしてついにお返しが出来る機会が訪れる。

 三歳の時、お父さんに近付いて来る男達がいた。男達はお父さんを騙そうとしていた。

 私は必死に説明した。男達の考えていることを画用紙八枚に書きなぐり、足りない言葉で必死に訴えた。


 結局男達は、私の訴えとは関係なく逮捕された。

 「御門、あの人達が悪い人だってどうしてわかったんだい?」お父さんは言った。

 「だってあの人達、悪いこと考えていたもの」私は言った。

 お父さんとお母さんは驚いていた。


「じゃ、じゃあお父さんが今考えていることはわかるかい?」

「お母さん、さいきんふとったなあ」


 お父さんはさらに驚いて言った。


「せ、正解だ!」

「なんですってぇ!?」


 その日、お父さんとお母さんが少し喧嘩をした。


 私は嬉しかった。私が視たことを口に出したら二人が喜んだからだ。

 だから私は、お客さんが来るたびに、帰った後、その人が考えていたことを口にした。

 お父さんもお母さんも、「御門は超能力者だ!」と言って喜んでいた。

 

 私は有頂天だった。

 天にも昇る気分だった。もっと喜んで欲しい。もっと褒めて欲しい。

 私は調子に乗っていた。致命的な勘違いに気付かず、ただただ視えたことを話せば喜ばれると、そう思っていた。

 だから四歳になったある日、私は自覚無いまま決定的な一言を口にする。



「お父さん、裸のおねえさんとだっこした!」



 悪意は無かった。無邪気に褒められると思った。いつものように「御門はすごいな~!」と褒められる自分の姿を想像しての一言だった。

 そんな安易な一言で、たったそれだけのことで


 私の一家は崩壊した。





 お父さんは出て行った。

 お母さんは昼間からお酒を飲むようになり、家事もしなくなった。家は汚れ庭は荒れた。

 私はお母さんを喜ばせようと、視えたことを一生懸命言い続けた。

 最初はぎこちなく笑ってくれていた母も、私が口を開くたびに顔を引き攣らせるようになり、そしてとうとう私を無視するようになった。

 その時の私は、気持ちの細かい移り変わりなど理解していなかった。お母さんが私に向けるのドロドロとした気持ちすら、違和感を感じつつも愛情だと解釈していた。いや、そう思いたかっただけなのかもしれない。

 だから私は視えたことを言い続けた。


 喜んで欲しかった。褒めて欲しかった。

 だけど結局お母さんは一度も笑ってくれなかった。




 五歳になった年のある日、幼稚園から帰ってくると、家がウソみたいに綺麗になっていた。

 その日の夕方、お母さんが知らない男の人を連れてきた。

 私は一目見てわかった。この人はお母さんを騙そうとしている。

 

 許さない!

 お母さんを騙すなんて絶対に許さない! 絶対にお母さんを助ける!

 私は必死に説明した。画用紙一二枚に書きなぐって必死に訴えた。

 あの人はお母さんをだまそうとしてるの。お父さんから貰ったお金をぬすもうとしてるんだよ。

 お母さんは私にこう言った「黙りなさい」。私はお母さんの足に取り縋って訴えた。

 

 三日くらいたったある日、懸命に訴える私に、お母さんは

 「うるさい! もうしゃべるな!」と怒鳴りつけ、引っ叩いた。

 私はトボトボと2階にあがり、一人泣いた。お父さんに買って貰ったぬいぐるみに鼻水を擦りつけて泣きじゃくった。妹が「ねーねどうしたの?」と私を慰めてくれた。

 それでも私は言い続けた。男の悪意が膨らんでいくのがわかったからだ。

 私は毎日言い続け、毎日引っ叩かれ、毎日泣いた。

 

 そして六歳の誕生日の昼。

 近くの公園から帰ってくると、また汚れ始めていた家の中が更にめちゃくちゃになっていた。

 そしてお母さんがリビングのソファーの上で突っ伏して泣いていた。


 「お母さんどうしたの?」私は言った。

 「うるさい、しゃべるな!」お母さんは言った。


 私は具体的に何があったのか理解できなかった。ただ、お母さんがあの人にいじめられたということだけはわかった。

 だからいつものように、あの人はお母さんを騙そうとしていると言った。あの人と仲良くしないでと言った。

 今ならわかる。私はその時、言ってはならない事を言ったのだ。

 母は、見たこともない凄まじい形相で私を睨みつけ、怒鳴った。



「お前なんか生まなきゃ良かった! この化け物っ!」



 化け、物……?

 私は生まれて初めて向けられた高純度の憎悪に身を強張らせた。私のことを最初に愛してくれたお母さんは、私のことを最初に憎悪した。

 私は家を飛び出した。泣き喚きながら走った。

 信じられなかった。信じたくなかった。

 だから間違いだと思った。お母さんはちょっと気分が良くなかっただけだと思った。私が悪い子だったから怒ったんだと思った。仲直りしてくれると思った。


 私は決めた。

 良い子になろう。お母さんの言い付けは全て守ろう。黙れと言ったら黙る。見るなと言われたら見ない。どこか行けと言われたらどこか行く。

 言うことを聞こう。ごめんなさいしよう。許してもらおう。

 夕方、私は家に向かって走った。

 お母さんごめんね、私が悪かったよ。ちゃんと言うこと聞くから嫌わないで。何でもするから私のこと捨てないで。

 家のドアを開けてリビングに掛け込んだ、そして私は精いっぱい大きな声で叫んだ。


「お母さん! ごめんなさい!」


 返事は無かった。

 お母さんはソファーにもいなかった。


「お母さん!?」


 不安が爆発した。

 生まれてから、いや、生まれる前から一度も途切れたことのないお母さんの思念が感じられなかったからだ。


 出て行った……? 私が悪い子だから、私を捨てた……?

 私なんか生まれてこなければよかったから……?

 化け物、だから……?


「お母さん!」


 私は再度叫んだ。その時


――ぴちゃっ


 後ろから音がした。

 私は振り返った。床に水たまりが出来ていた。

 そして視界の隅に、なにやら何かが揺れているのが見えた。私は少し視線を上げた。

 吹き抜けのリビング、二階へと続くオープンステアーの一番上の手すり、そこから……



――お母さんがぶら下がっていた。



 なんで?

 どうして?

 お母さん、考えてることが視えないよ? どうしたの?

 お母さん、なんでぶらぶらしてるの? なんで変な顔してるの?

 お母さん、おしっこ漏れてるよ? おトイレいかなきゃダメだよ?

 

 お母さん?

 お母さん!

 お母さん……

 おかあ…………


「いやああああああああああああああああああ――――ッ!」


 私は全てを解放した。



□□□□□□□



 二日後、私はお母さんの下で眠っているところを、妹と一緒に保護された。

 そしてさらに1週間後、黒いスーツを着た男達が何人もやってきて私を連れて行った。

 いくつかテストをさせられた後、全くの無表情、存在感の薄い影のような男が私に言った。


「私達の言うことを聞かないと妹が死ぬ。君が死んでも妹が死ぬ」


 私は必死にその人達の言った通りに働いた。

 私は罵られ続けた。蔑まれ続けた。

 視認するだけで流れ込んでくる悪意が、私の心を削ぎ落としていった。

 八歳の時、他人にはっきりと面と向かって化け物と言われた。

 九歳の時に、お前は生まれてきたのが間違いだと言われた。

 一〇歳の時に、なに人間のふりをしてるんだ? と思われた。

 少しずつ、本当に少しずつ、

 何を言われても、何を思われても、幾度潜っても、何も感じなくなっていった。


 そしていつしか、私は《闇の姫》と呼ばれるようになった。











「――っ!」


 御門は粘つく赤黒い海を漂っていた。どうやら知子の思念の中にいるらしい。呑まれてしまったがまだ沈んでいない。

 いつもだったら、この程度の波に呑まれたりするわけがない。理由は解っている。

 目の前に、泣きじゃくる知子がいた。


同調してしまったんだ……

親の死を目の前で見てしまった。そしてそれを自分のせいだと思っている。


 知子ちゃん、あなたは私と同じものを見たんだね……

 だから魅入られてしまった。中てられてしまった。

 感情の奔流にもみくちゃにされ、呑み込まれた。

 危なかった、と思う。

 でも取り込まれなかった。自我を失わなかった。それは……


 化け物だから……

 そう、自分は化け物だ。

 みんなそう言う、そう思っている。母にもそう言われた。自分だってそう思う。

 親の死を目の当たりにして壊れた少女。そして壊れなかった自分。

 何が結果を分けたのか。

 理由なんて一々考えるまでもない。単に自分が化け物だっただけだ。

 それでも目の前の知子に言うべきなのかも知れなかった。

 あなたのせいではないんだよ。と

 あなたは悪くないんだよ、と抱きしめてあげるべきなのかも知れなかった。

 しかしそれは出来ない。


 私は化け物だもの。お母さんは私のせいで死んだんだもの……

 かける言葉なんて持ち合わせていない。怖がらせるだけだ。怯えさせるだけだ。

 自分に言われて嬉しい人間なんているはずが無い。ましてや自分に触れられて喜ぶ人間なんて存在するわけが無い。

 御門はすすり泣く少女に背を向け、光が射す出口に向かって泳いだ。

 そして御門の精神が現実世界に戻った時

 御門が最初に目にしたものは、自分に触れようとするアキラの姿だった。


       

□□□□□□




 それは御門が知子を見つめ始めて5秒くらい経った時だった。

 御門が小さく呻き、苦悶の表情を顔に浮かべて、フラッとよろめいた。

 アキラは、尋常ではない様子の御門にびっくりしつつ、よろめく彼女を支えようと手を伸ばした。その時


「さわらないでっ!」


 御門が叫んだ。

 両目を恐怖に見開き、顔面を蒼白にした御門は鬼気迫る美しさを纏い怯えている。そしてもう一度「……私に、触らないで」と擦れた声で呟いた。

 アキラは同世代の女の子の明確な「拒絶」にただ立ち尽くす。

 警護の男も何事かとこちらを見た。

 アキラは、そこまで言わなくても、と思ったが、消え入りそうに小さくなっている御門に何も言えず、ただ


「あ、あの……ごめん、なさい」


 とだけ言った。

 すかさず御門が首を振る。


「……ちがうの」


 そしてもう一度、ちがうのと呟いて悲しげに俯いた。

 どうしていいかわからずオロオロするアキラの耳元で静流が囁く。


「御門は生まれつき高レベルのテレパスでね、視界に捉えるだけで思念を読めるし送れる。それは完全に制御出来るようになったんだが…… 直接触れると一方的に相手の思念が流れ込んでくるんだ。そこはまだ制御出来ていない。だから直接触れられることを極端に嫌がる。この子も苦しんでいるんだ、理解してやってくれ」


 御門が、その濁った瞳にさらに暗い色を湛えながら


「……私なんかに、こころを、覗かれたら嫌でしょ」


 と言った。

 ああそうか、アキラは思った。

 静流は「制御出来るようになった」と言った。

 ということは、以前彼女は視認しただけで勝手に他人の思念が流れ込んできたのだ。

 

 少しだけ想像してみる。

 世間知らずの自分だって世の中が善意だけではないことくらい知っている。同世代の子供が集まる学校ですら様々な本音と建前が交錯し、目を背けたくなるような感情を胸に秘めている者だっているはずだ。

 そして自分はこの一週間で、より濃厚で醜悪な悪意を知った。きっとそれすらもこの世界ではありふれたものの一つなのだろう。

 みな他人と距離をとり、心に殻をかぶせることで自身を守っているのだ。

それなのに御門は愛憎渦巻く坩堝の中に、心を剥き出しにしたまま一人放り込まれた。

 

 彼女の目には世界はどう映っただろう。

 正直、想像すらしたくなかった。そこはまごうこと無き地獄なはずだ。

 だからアキラは言った。


「僕は……嫌じゃないです。」

「……えっ?」

 

 言わねばならなかった。

 アキラには御門がどんな闇を抱えているかなど、想像すらできない。

 彼女は心を閉ざしているかも知れない。もう既に心自体が壊れているのかもしれない。

 しかしアキラは、今日、今、ここで、彼女に言わねばならないはずだった。

 温室で育ったお坊ちゃんの戯言と思われるかもしれない。

 価値観を押し付ける偽善者と言われるかもしれない。

 それでもアキラは言わなねばならなかった。

 少し困惑した御門の視線を捕まえて、アキラはもう一度言い放つ。


「僕はいやじゃない」


 そしてアキラは無造作に右手を差し出した。

 御門は茫然とした様子で、アキラの顔と右手に何度も視線を往復させ、その顔を俯ける。

 俯き、前髪で隠れた彼女の顔にはどんな表情が浮かんでいるかアキラにはわからない。

 御門は震える声で


「……ごめん、なさい」


 と、アキラの手に触れることを拒絶した。

 そして、「そっか」と微笑んで右手を下ろすアキラに「でも……」と告げ、続けてはっきり言った。

 「ありがとう」と

 よく見なければ気付かないだろうという程度。

 少しだけ、本当に少しだけ御門の顔は笑みを形作った。

 

 アキラは照れる。

 御門は人間離れした完璧な美貌ゆえ、他人に威圧感すら与える女性だ。

 しかしその彼女がかすかに微笑む顔は、年相応のただの少女のそれであった。

 ひどく可愛かったのだ。

 アキラは頭から湯気を出す勢いで真っ赤になる。こちらは年相応の少年の生理現象だ。

 静流だけが驚愕に目を見開き、そんな二人を眺めていた。


          


□□□□□□



 アキラは考えていた。 

 自分には何が出来るだろう……

 静流は「君に見せたかったものはこれで全部だ」と言った。

 そしてその言葉の通り、今静流はアキラの自宅へ車を走らせている。


 だけどそれでいいのか……?

 アキラは思う。

 単純に考えれば、このまま日常に戻り、多少の制約を受けつつも普通に生活していくのが一番いいように思える。三日後に始まる新学期に普通に学校に行き、彼女が欲しいと級友に愚痴をこぼすのがきっと正しいのだ。

 しかしアキラは見てしまった。

 大事な人を守るため、歯ぎしりしながら残酷な宣告をする静流を

 一心不乱に人形にハサミを突き立てる幼い少女を

 そして自身の力と闇に怯え、隔絶した世界で生きようとする御門を

 見てしまったのだ。

 この世の悪意に晒され、権利を奪われ、逃げ場の無い状況に追い詰められてもなお捨てきれなかった真直ぐな心が、それでいいのかとアキラを駆り立てる。

 自分にも何かが出来るはずだ、自分なりのやり方があるはずだ。

 アキラは迷う。

 だからアキラは一つの決意を静流に告げた。


「僕も連れて行って下さい。最後まで見届けたいんです」





 静流は考えていた。

 アキラに連れて行ってくれと言われた時は即座に却下した。

 そもそも戦闘任務に素人がノコノコ出ていくのは危険だし、特に今回は不確定要素が多い。

 しかし、双眸に決意の炎を灯し、絶対に付いて行くと宣言するアキラに静流は頭を悩ませる。

 御門の話によると、今回の事件の動機は怨恨、そして木村以外の目標が多数存在し、その手掛かりとして、何らかのデータを入手しようとしていた……。

 この事実だけで、藤枝は九年前の事件の犯人像と著しく異なることが伺える。

 そして違和感を決定付ける情報としては、『被害者の四肢が、何に触れたわけでもなく切断された』ということだった。

 公安から降りてくる情報では、藤枝はレベル3程度の肉体強化の能力者だったはずだ。


 公安が、何かを隠している……

 しかも、執務室では何らかの戦闘の跡があった。それが木村の身内とは考えにくい。

 ということは、表に出てこない何者かの襲撃を受け、これを撃退している……。

 楽観的に考えても相当キナ臭い事案だ。

 身内の恥を隠しているならまだいい、感謝されはしても疎まれることは無いだろう。


 しかし、藤枝が何らかの背景を持っていた場合、そしてそれを知ってしまった場合、自分達に逃げ場は無い。ますますアキラを連れて行けるものではない。

 しかし、と思う。

 優しくて弱い、でも強くあろうとするこの少年は、閉塞感に苛まれる自分達を変えてくれるのではないか、そう思うのだ。

 今まで御門に手を差し出す者など誰もいなかったのではないか、彼女の異能を知る能力者ならなおのことだ。それをこの少年は平然とやってのける。

 そしてその少年が何かを決意して、一つの答えを出そうとしている。

 アキラの発見者として、それを見届けるのが自分の義務だと静流は思う。

 そして、それを見届けたいと静流は思うのだ。

 だから静流は一つの決意をアキラに告げた。



「自分の身は自分で守れるか?」

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