ねえ見てる?伝わった?伝わったよね、私の気持ち。
あたしね、好きな人がいるの。ううん、好きだけじゃない、恋してるし、愛してる。
もし彼のためにあたしが死ななければいけないとしたら、あたしはすぐにでも死んでみせるわ。ううん、それだけじゃない、彼のためになら、彼を殺したっていいの。
それくらい好きなのよ。
どこが好きかって聞かれると、あたしは困ってしまうの。だって、答えている間に逃げちゃう人とか、寝ちゃう人とかばっかりで。
だからね、今度はちゃんと答えてあげようって、一週間くらいあたしの部屋のベッドに繋いでね、話して聞かせてあげてたのだけど、なんだか最後には泣かれちゃった。もしかしたら、あの子も彼のことが好きだったのかもしれないわ。ああいけない、もしそうなら早くあの子を、
それどころじゃなかったわ。今はもう彼の事を考えるのに精一杯なの。
彼の顔が好き。彼の体が好き、彼の心が好き。電車のつり革を握る手が好き。授業中に居眠りしてる時の微かな肩の動きが好き。友達と喋ってる時でも、あたしと目が合うと笑ってくれるのが好き。家に帰る途中にアイスを買って食べる時のあの口元が好き。制服の襟に隠れる後ろ髪が好き。彼のぬくもりが残ってる椅子が好き。
彼だってね、あたしのことが好きなの。
笑ってくれるし、話してくれるし、肩についた埃を取ってくれるし、落とした消しゴムも拾ってくれるの。おはようって言ってくれるし、またねって言ってくれるの。
でもね、きっと彼にはなにか事情があるのね、あたしのことがとても好きで好きでたまらないのに、あたしと付き合うことができないの。あたしに好きだって言ってくれることもないの。だからあたしの方からも言えなくて、だって、彼の方から言ってくれるのを待つべきじゃない?だからね、だからね。
だからね、彼を呪うことにしたの。
ありとあらゆる方法を試したわ。大抵のことはやったわ。
藁人形作ったり、紙を人型に切り取ったりしたものを、ちょうどいい具合のところよ、重傷にはならないくらいの場所をね、釘を刺してみたりハサミで切ってみたりしたわ。そしたら彼、人形とおんなじ場所を怪我したからね、あたしはここぞとばかりにお見舞いに行ったり、差し入れしたりしたわ。
でもだめだったから、今度は彼にね、あたしの髪の毛とか血とか、あんまり言えないようなものをね、彼にあげたお菓子にこっそり入れて食べさせてみたの。どきどきしたけど、彼はにっこり笑って食べてくれたわ。もしかしたら分かってたのかも。それなら早くあたしに好きって言って欲しいのに、恥ずかしいのかしら。
結局彼は言ってくれなかったわ。
だからね、今度はあたしを生霊として彼のところに飛ばすことにしたの。そうすれば、彼だって、あたしが彼のことを好きだってちゃんとわかってくれるし、決心してあたしのところに来て、告白してくれるかも知れないでしょ?
あたしは自分の体を痛めつけたわ。だってそのほうが生霊の力が強まるとか、本で見たんですもの。それでね、ライターで腕を炙ったり、カッターで太ももを切りつけたり、それから足の爪を引き剥がしたり、ハンマーで指を砕いたりしたわ。彼への思いをもっと高めるためにね、彼が授業で居眠りしてる時に切っておいた彼の髪を食べたり、彼の座っていた椅子を舐め回したりもしたわ。
生霊の他にもね、彼のご両親だとか、弟さんだとか、あとは仲のいい友達とかをね、人質に取ってみようかなとか、生贄にしてみようかなとか思ったんだけどね、それじゃあ彼が悲しむかなって思ってやめたの。もちろん、他に方法がないなら実行するわ。あたし、彼のためなら誰だって殺せるわ。
だからその前にね、最後の手段よ、あたしが直接聞き出すことにしたの。あたしはね、彼の口から最初に「好きだ」って言ってくれればそれでいいの。だからね、あたしが好きなのは彼も知ってるはずだけど、それは言わないようにして、まず彼の口から言わせようとしたの。
それでね、私、今彼の家の前にいるの。ああ、どうしよう、緊張してきちゃった。きっと今の時間だと、彼はもう部屋着よね。やだ、あたしったら、想像しちゃったわ。
さてと、インターホンを押したの。するとね、ほら、ドアノブが回って、彼の匂いと一緒に、彼が現れるの――そしてね、あたしは、あたしはね、
私。
私はね、あたしを殺したの。だって仕方ないじゃない?彼を好きな人なんて、私ひとりだけであるべきなのよ。それをあたしったら、彼のところまで来て問いただそうなんて、私、いてもたってもいられなくなって、あたしを殺しちゃった。あたしだって満足よね?私はあたしだもの。彼のことを本当に好きなのは、あたしのもとを離れてからずっと彼のそばにいた私なんだもの。あたしだって、彼のことがもっと好きな私が変わってあげるんだから満足よね?あたしの傷とか、血とか、いろんな体液とか、痛みとか、苦しみとか、叫びとか、喘ぎとかを犠牲にして生まれた私だもの、さっきまでのあたしよりももっと強く深く彼のことが好きなのよ。だから変わってあげたの、殺してあげたの、あたしが私になるようにね。
私は思わず足から崩れ落ちたわ。すぐには重力に慣れないわね。
でもね、そしたら彼、私を抱き起こしてくれたの。ああ、どうにかなってしまいそう、彼が私に触れてる。彼の匂いが私の匂いと混じりあってる、彼の手の菌と私の手の菌が混じりあってるの。私は今すぐに彼の手を舐めたかったけど我慢したわ。だって聞かなきゃいけないもの。ねえ、
私のこと、好き?
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