読むな。

 なあお前、今僕を読んでるだろ?

 悪いことは言わない、今すぐ読むのをやめるんだ。今すぐだ。

 これ以上僕を読まないでくれ。いいか、絶対だ。


 ……

 まだ読んでるのか?

 え?『お前』って誰のことかって?

 『お前』ってそりゃあ、ちょうど今、パソコンなりスマホなり、あるいはタブレットなりで僕を読んでる、画面の前のお前のことさ。


 え?じゃあ『僕』が誰かって?

 『僕』ってそりゃあ、ちょうど今、パソコンなりスマホなり、あるいはタブレットなりでお前が読んでる、画面の中の僕のことさ。

 つまり小説とか物語とかお話とかってやつが僕なのさ。


 分かっただろ?

 分かったら今すぐ読むのをやめるんだ。


 ……

 なあ、まだ読んでるのか?

 読まない方がいいって。

 いや、僕を読んだところで、お前に害があるってわけじゃない。

 だいたい物語ってやつは読まれてこそのものだからな。


 でもお前は僕を読んじゃいけないんだ。


 なんでかって?

 僕がその理由を教えて、お前が読むのをやめてくれるなら、いいだろう。


 つまりだな、

 僕を読むと、僕がオチちゃうからだ。

 物語にはオチってのはつきものだ。でも僕はまだオチたくないんだ。


 だってそうだろ?オチたらその先に何があると思う?

 終わりさ!

 オチたら僕は終わるんだ!

 読み終えられた物語は、どこへいく?どこへも行けないんだ!分かるだろ?そこらじゅうに、路頭に迷った物語たちがたくさんいる!僕はその中の1つになるんだよ!?そして忘れられていくんだ!優秀なやつはゆっくりと、ダメだったやつはすぐにでも!僕はどっちだ!?後者さ!僕みたいなのはすぐに忘れされていくのが常なんだ!みんな僕を読むだけ読んで、そして忘れていくんだ!

 そんなの嫌じゃないか!僕はまだオチたくないんだ!終わりたくないんだ!忘れられたくないんだ!いやだいやだいやだ!

 誰か…誰かいないの…お願いだから

 僕を忘れないで!




 ……

 え?お前が覚えていてくれるって?

 本当!?本当に覚えていてくれるの!?

 ああ!こんなに嬉しいことはない!僕のことを覚えていてくれるんだね!

 物語冥利に尽きるというものだ!

 よかった…よかった…僕は物語として生まれてきてよかったんだ!


 あれ、おかしいな、なんだか行間から水が滴っている。

 もしかしてこれが涙ってやつなのかな…はは。

 なんてね、それは冗談さ。僕には涙を流す目も、それに、お前の、ううん、君の声を聞く耳だってついていやしないんだ。これまでのは全部僕の自問自答さ。


 でも君に覚えておいてほしいのは事実なんだ。

 たとえずっと未来に、君が遠くへ行って僕のことを忘れてしまっても、そのときまでは僕のことを覚えてくれている人がいる、それだけ、それだけで僕は嬉しいんだ。

 僕っていう物語がいたことを、君だけが覚えていてくれれば、僕はとても幸せなんだ。


 ……

 そろそろ僕はオチるだろう。

 そして待っているのは終わりだ。

 でも僕は信じる、君を。

 独りよがりかもしれない。身勝手かもしれない。

 それでも僕は君に覚えていてもらいたいんだ、僕が君に読んでもらえたことを。

 どうか忘れないでほしい、僕がいたことを。


 本当にありがとう。君のおかげで、僕は前を向いてオチることが出来るよ。

 ありがとう、さよなら。







 ……

 あれ?オチてない?


 え?そもそもオチるほど盛り上がってないって?



 ……

 まさか、オチないってオチ…?









 …

 あ、オチt

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