クレイドル
みゃも
発端
──西暦2219年3月26日──
【州合体】
この日、地球圏内軌道上で、突如として内戦が勃発した。
『警告する! こちらは《地球連合艦隊》である。直ちにここより退去せよ。命令に背いた場合は、速やかに砲撃を開始する。
繰り返す、こちらは《地球連合艦隊》である』
しかし……その警告をまるで無視し、三基もの《高機動型【
「くそっ、敵の規模はどれほどだ!」
「光速艦16、攻撃型強襲空母4、レーザー艦8、マスター級大型艦船1……まだまだ、ゲートから出てきます!」
「──艦長! 艦隊所属識別コード、判明しました。惑星ファシスです!!」
「な、ファシスだとっ!? くそっ、ナメおって……。
おいっ、何をやっている! 早く、迎撃部隊を出せ!! ──な?!」
地球連合艦隊の主力艦の艦長が檄を飛ばしたが、状況は既に遅く、敵ファシス艦船より光速宙戦闘機UAFAが先手を打ち次々と発艦され、首都惑星を守る軌道上の僅かばかりの駐留艦隊は、攻撃を一方的に受け、瞬く間に次々と轟沈する。
地球圏内軌道上は、敵味方、次々に爆散する多数の艦船または宇宙戦闘機から出る大量の
こうして、権益を我が物顔でこれまで独占して来た《地球連合》は、ここに崩壊を遂げる……。
……それから二年後。
──西暦2221年9月15日──
その星を我々が旅立ってから、約百年以上もの歳月が経ち。銀河の各地へと散っていた人類が再び、合流を果たした。
【州合体】
それまで独自に発展させてきた技術交換を行い。産業交易を開始し、ここに新たな歴史の始まりを宣言したのだ。
人々はそれに歓喜し、新しい時代の幕開けに期待をし、熱狂していたのである。
しかし……時代は再び、誰一人気付かないほど緩やかではあったが、確実に狂い始めていた。
いや、歴史がまた繰り返そうとしている、とも言える。
一部の恵まれた、知的・既得権益のある強者たちによる、合法的経済植民惑星政策と金融政策。それにより、幾ら働いても働いてもそれ以上に搾取され続ける惑星の我ら民たち。
不景気を理由に、冷徹なまでの合理化を理由に、市場原理を理由に、段々とあらぬ方向へと時代は導かれ誰刃向かうこともなく向かい。いつしかそれが、今はそうした時代なのだ、と錯覚をする。
そうまでして行った搾取の末に、富有る者らの過剰とまで言える豊かな生活が守られていた。
貧困……見せつけられる、差別的格差。
この、格差が無ければ……いや、この格差がもっと手短で、気付かれない程度でさえあれば。まだ、救いがあったのかもしれない。それならばまだ、みんな同じなのだからと気付かない振りをし、諦めもついたかもしれない。
もっと頑張って、今よりももっとみんな豊かになれるようにと頑張れたのではないか? 所詮、自分が出来ることなどそれを自分の目に見える手元のところにまで持ってくることが限界なのだから……、と。
しかし、現実は……。生活するにも困り、ただ生きるが為だけに犯罪に走らざるをえない人々。中には集団となり、テロリストになる人も居る。
え? テロリストなどとんでもない?
ああ、そうだな。確かにそれは正論だろう。私も馬鹿げているとは思う。
しかし現実は、その正論が本当に正論なのか?
本当に言い切れるものなのか? いや……いけない事なのは解る。が、ではどうすれば良いのか? どうすれば、皆が幸せで豊かに過ごせるのか?
と……時に考えさせてくれる。
なにか、根本的な何かが違ってやしないか? そう感じ考えさせられる度に……。
ここで一つ、興味深い話をしよう。
ある家庭の一人が病になり、医者にかかる金もろくに払えない。それどころか満足に家族で食すことさえも叶わない家庭で、しかしそれでも無理して医者を呼びその医者から告げられた言葉がある……。
「残念ですが……。恐らく、飢餓状態から来た、緊急心不全……ではないかと思われます」
医者にかかるお金もろくに払えやしない。それどころか、満足に二人で食すことさえも叶わない貧しい家計である。
しかし、それでもやっとの思いで医者を呼び。期待したのも束の間、その医者から告げられた言葉が……まさに、それだった。
「ば、ばか…な……そんな…」
痩せ細った妹の身体。そして、骨と皮ほどにやつれ果てた自分の手足。片足は、この前の事故で余りいうことを利かない。
しかしそれでも、妹だけは! と懸命に守ってきた彼の努力の結果が、それだった。
「た、助けてやってください! 金ならなんとか作って、必ず払います!! ですから、お願いします!!」
彼はそう言うが……その身体は既に痙攣までも起こし、目も虚ろで、焦点も合っていない程に疲弊していたのは誰の目にも明らかだった。
医者は困り顔に頭を振り、この家を出て行った。
彼は一旦、その場で泣き崩れるが、直ぐに起き上がり妹の傍へと寄り添う。
「大丈夫だ。医者が、単なる疲れだって言ってた! まったく大したことないからな。ハッハッハ!」
「ん……ありがとう……兄さん」
だが……その日のうちに、彼の妹は静かにこの世を去っていった。結局、最後まで満足な食事を与えてあげることが出来なかった。彼は悔い嘆く。もっと何か、自分を犠牲にしてでも守ってあげるべきだったのではないか、と……。
彼は、妹のささやかな簡素な葬儀を済ませ。その夜、ひと言親類に告げると、ふらり街へと足を向けた。
心の寂しさを、少しでも和らげられはしないか? そう考えたのかもしれない。
街には、よほど貧困とは無縁な見るからに幸せで裕福そうな家族が何組も居た。
彼は、そこでこう考えたそうだ。
『彼らと、自分らとの違いはなんなのだろうか?』と。
しかし、考えても彼には解らなかった。また、彼に解る訳もなかった。彼は、既に作られた社会システムの中で、ただがむしゃらに頑張ってきただけの人だった。だから、社会システムの中のことは幾らかわかっても、何故しかし自分はこうだったかの社会システム外での事情など知る由もなかったからである。
不幸は今、まさに起ころうとしていた……。
彼はこの時、たまたま目の前を走りゆく女の子と自分の妹を透過したのかもしれない。
その子の両親が一時目を離し、その子は自分が興味ある目新しい洋服のある店へと彼の目の前をただ走り向かっていたのだ。
彼は、その女の子に声を掛け、なけなしの金で買ったお菓子をあげようとした。それは、妹に対し自分が最後にしてあげることが出来なかった、という彼なりの悔いた意識からだったのかもしれない。
その女の子は、そのお菓子を渡そうとする男の子を見つめ、その姿格好を二度ほど見て、笑みを浮かべるとこう言ったそうだ。
「なに? 貧民。恵んで欲しいの?」
するとその女の子は、彼が持つお菓子の乗る手のひらの上に。彼がどんなに頑張っても、手にするのに数ヶ月は掛かるだろう一枚の金貨を乗せたそうだ。
そして、軽蔑めいた目を、彼に軽く投げかけていた。
彼は……その時になって、少しだけわかった気がしたそうだ。
少なくとも、自分は貧民なんだ、と。だからどんなに頑張っても貧しさから抜け出せないのだと。仕方ないのだと……。
目に見えない、超えられない壁の存在。彼のような家庭で産まれた者には、単純な努力だけでは超えられない壁。
生活のため。残された妹ととの生活を少しでも豊かにする以外に夢も見たこともない彼には、それは想像するにも難しい壁だった。超え方を知らない。それがどのような性質の壁なのかも知らない。聞いたこともない。
ただ一つ分かったのは、その壁の存在を今ようやく"気付いた"ということだ。
彼は瞬間、混乱していたのかもしれない……。または、刹那、絶望したのかもしれない。
少なくとも、それまで目にしてきた普通の、普段の彼を知る私の目から見て通常の温厚なまともな彼ではなかった。
手のひらの上に乗っていたお菓子と金貨。彼はそれを固く握りしめ、潰し。刹那、その女の子を殴っていた!
その子は鼻と口から血しぶきを出しながら数メートルも飛び、倒れ……そのままぐったりとしたままだった。
彼はそこに至って、はじめてとんでもないことをしたと自らの行為に驚き。介抱しようとその子の傍へと近づき、助けるため試みようとしていた。だが、
──タン!
……彼の胸から、なにか赤いものが流れた。彼はそれを一瞬手に取り、そして……その赤いモノを見、何かを悟った表情で顔を綻び弛ませ、その場に倒れたのである。
『私もいつ、彼のような境遇に陥るか……これは決して、他人事であるなどとは思えない。
私は、ここでこう宣言しよう。
不平等を是とする彼らから全てを奪い取り、自由と繁栄を君ら全ての者達に与えることを!』
【州合体モンゴメル】代表ロッシュ・シアナは、州議会にてそう宣言し、大勢の民衆から熱狂的喝采を浴びていた──。
……これもまた、一つの発端なのかもしれない。それは、あくまでもポジティブな宗教的『狂気』という名の。
クレイドル みゃも @myamo2016
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