第102話 閑話 古きサスティの史書




  << 古シャルストイ開拓史 >>


     著・オ……=ク…ウド





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[ ………年…月…3日:シャルル隊長率いる第六中隊、開拓任務に着任 ]


 地上第16方面基地より西方未踏域を切りひらく命を受け、

ハーフエルフエルフ×熊獣人のシャルル中隊長は早朝、1500の兵と共に出立。


 同日午後、エミラ―・スモー山脈ドアオラ山地へと到着。

 山地内を探索し夕刻、山越え可能なルートとしての窪地くぼちを発見した。



                             ページ003

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[ ………年…月…7日:ドアオラ山地の先に、目的地を発見 ]


 山中を西進すること、およそ200km。

 ついにドアオラ山地を西側に抜け、

 ダートワール海の西端を望む開けた臨海地を発見。

 

 広大なエミラ・スモー山脈の中にあって、隠れるように存在するその地は、

 一隊が受けた命、敵に襲撃されにくい新たな駐屯基地の

 建設候補地の捜索に条件が合致。


 隊長シャルルは早速、この地に新たな前線基地を築かんと、

 地上第16方面基地に打診した。



                             ページ006

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[ ………年…月15日:新たな開拓地をシャルストイと命名 ]


 開拓地域は隊長シャルルの名を元に、シャルストイと命名される。

 ドアオラ山地より木材と石材を切り出し、砦の建設が始まった。


 臨海絶景オーシャンビューを望むロケーション…

 兵にとってこの地は最高の配属先となるだろう。



                             ページ010

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[ …23年…月1…日:神魔大戦の勃発 ]


 地上世界にて押し込まれていた我が軍は、

 本大戦にて領土境界線を優位に押し返した。


 特に、地上第16方面基地管轄戦域は、北へと一気に前進。

 神界側の軍勢は、天然の地形の中に抱かれたシャルストイ砦の存在に気付かず、

 奇襲戦と物資貯蔵任務を中心とした、

 シャルストイ砦に配備された部隊が目覚ましい活躍を見せた。



                             ページ022

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[ 1…0年7月……日:大地震による山の沈下 ]


 この日、シャルストイ地域周辺一帯に大地震が発生。


 幸い、該当地域における被害は軽微であったが、

 ドアオラ山地の窪地が沈下現象を起こし、

 シャルストイ砦と地上第16方面基地を繋ぐ山道が谷間となった。


 まるでドアオラ山地が

 エミラ・スモー山脈から切り離されたかのようなこの現象のおかげで、

 シャルストイ砦と地上第16方面基地の往来は、

 今までのような困難な山中の獣道を行き来する労が軽減されるだろう。


 比較的平坦な峠道を整備することが可能になったと判明し、

 輸送路の整備計画も策定されはじめた。


                             ページ034

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[ 21…年…月24日:ダートワール海、西端開拓の開始 ]


 先ごろ、魔界側の領土境界線が大きく北方へと動いたことにより、

 シャルストイ砦配備部隊に、

 海岸線に沿ってダートワール海西端臨海地域の探索、

 および開拓と開発を進めるよう命が下る。


 この命を受けて、

 エミラ・スモー山脈とダートワール海に挟まれた深い森林地帯。

 これを伐採してひらき、木材の生産計画が持ち上がった。


                             ページ085

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[ …19年7月06日:新たな拠点の設営 ]


 シャルストイ砦よりダートワール海の海岸沿いに

 北西へと森を切り拓くことおよそ50km、

 この地に木材確保のための新たな生産拠点の設営を開始。


 開拓責任者スキュールの名を元に、この地をサーキュレアと命名。



                             ページ087

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[ 255年11月29日:シャルストイ砦の壊滅 ]


 砦が完成してより200年近い歳月の間、敵に発見されなかったこの地が、

 ついに神界側に認識されてしまったらしい。


 この日、およそ1000ほどの敵奇襲部隊による、

 突然の襲撃を許してしまう。


 シャルストイ砦に駐屯していた部隊、

 およそ2000名のうち8割が戦死。

 備蓄物資の半分が焼失。

 防壁、居住棟、監視塔、司令部など、砦の設備の7割が全壊。

 当時の現地最高責任者、ジョーズ=ロストイン(魔族)の戦死も確認される。


 この地を切り拓いて以来、最大の損失となった。



                             ページ135

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[ 256年2月10日:監視態勢と防備の強化策の実行 ]


 シャルストイ砦の再建中、

 北西のサーキュレアが襲撃を受けたとの一報が入る。


 僻地ではあったものの、

 比較的安全な任地と言われた当地域の危険度は

 大きく増したと、軍上層部も認識を示す。


 新たに赴任した指揮官の提言により、襲撃への備えの一環として、

 シャルストイ砦の西、サーキュレアの南の位置、

 山を登った高台に新たな望遠監視用の小規模拠点建設が決まる。


 また、そこよりさらに西、エミラ・スモー山脈を越えた先にある、

 ユークレース海の調査を1個小隊が命じられた。

 イザという時に備え、物資備蓄を隠しておく兵站拠点を新設する計画との事。



                             ページ139

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[ 260年5月1日:サーキュレアの拠点化に着手 ]


 木材の生産拠点であったサーキュレアだが、

 かつてすぐ北方に広がっていた、

 およそ70km四方の森はすっかりと姿を消す。


 同地が草原へと変わって久しいことから、

 シャルストイ砦の前哨基地として、本格的な拠点化転用計画が始まった。


 神魔大戦終結直後のタイミングでの計画開始は、

 次の大戦を見越して、以前より既に計画があがっていたようで、

 指令が下った同日に、さっそく多くの資材が投入された。


 これに伴い、シャルストイ砦を中心に、この地域に配備される部隊の数が増加。

 地域は、本格的な軍事の要諦ようてい色を帯びつつある。



                             ページ143

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[ 30…年3月15日:ユークレース海の沈下 ]


 ユークレース海が沈下し、海原の規模が縮小。


 それでも数百km規模の巨大な水地であるが、

 もとより淡水であった同海は、ユークレース大湖と名称変更された。


 また、この沈下現象により、

 ユークレース海あらためユークレース大湖の沿岸に新たな土地が出現。


 これを受けて、隠し拠点として同地にあった

 ファヴラーゾ兵站拠点の規模拡大計画が持ち上がる。

 設備の拡充および、備蓄許容量の増大化工事が手配された。



                             ページ188

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――――――とある日、ドンはミミにお願いし、この地の本格的な勉強のための書物を紐解いていた。


「聞いたことのない地名が多いですが、内容はこの辺りのことで間違いないんですよね?」

 ページをめくっていたドンは、一度本から視線あげて問う。


「うんそう。ものすごーく古い史書だからね、今と地名の違うところが多くて分かりにくいかもしれないけど、間違いなくこの辺りの歴史をつづった書物の一冊だよ」


 半壊状態の領主の館からシュクリアの借り屋へと運び出した古書物の中の1冊を教科書に、この地の歴史についての知を深める。


「コレもボロボロだった原本から分かるところだけを抜き出して編纂へんさん復刻されたものらしいけどね。内容の大元は当時の手記や日記らしいよ」

「それで日付が飛び飛びなんですね」

「ちなみに書かれている地名は、今のに直すとこんな感じかな―――」


 ―― エミラ―・スモー山脈 → エミラ―・スモー山脈(変わらず)

 ―― ドアオラ山地 → ガドラ山脈

 ―― ダートワール海 → ドウドゥル湿地帯

 ―― シャルストイ砦 → サスティの町

 ―― サーキュレア → シュクリア

 ―― ユークレース海/ユークレース大湖 → イクレー湖

 ―― ファヴラーゾ兵站拠点 → ハロイド



 ミミがスラスラと書いて渡してくれた紙を見て、ドンは驚く。


「じゃあ、この辺りで最初に建設されたのはサスティの町だったのか。それに、あの湿地帯が海だったなんて驚きですぜ……」


「ちなみに256年2月10日の内容にある “ 望遠監視用の小規模拠点 ” の場所が今、倒壊しそうになってる領主の館が建ってるところ。サスティの町にしても、シャルストイ砦が跡形もなくなってからイチから作り直された町で、場所以外の接点はあまりないかもね。年数からしてこの本の内容は、地上世界開拓の黎明期くらいの話っぽいし」

 あくまでも記載されている年数が、地上世界に魔界や神界勢が進出を開始した頃をゼロとしてのものならばの話。


 いつを起点とした年数表記なのかも分からないので、魔界の公に残る歴史書と照らし合わせるのも難しく、時代に関しての正確なところは何とも言えなかった。


「なるほど……もしそこまで古い話でしたら、海も湿地帯に変わっていておかしくはありやせんね」

「むしろエミラ・スモー山脈が変わらず同じ呼び名だっていうところが凄いかもね。途中の編纂へんさんで、現代名に訳してしまったりしてなければだけど」

 軽く百年オーバーを生きる種族が多いおかげか、非常に古い書物などが残りやすい世界。

 保存・保管・修復・修正等もたびたび施されるので、魔界本土の何千万年クラス単位の歴史も根気と熱意があれば、調べようと思えば調べられるほど古い史書は長く残り続けている。


 だがその過程において途中、編纂のやり直し等を経たときに、固有名などが現代訳される事も少なくないため、それによって当時の名称が分からなくなってしまうようなケースも生じている。


 特に地上世界の、近代では辺境の田舎扱いな地域の史書ともなると、書物の扱いが雑になっている可能性は高かった。



「この “ 古シャルストイ開拓史 ” も編纂一つ前は “ 第六中隊発史 ” ってタイトルだったしね」

「正確性に欠けるところがある、ってわけですか」

 ミミは頷きつつ、書物のとあるページを開く。


「たとえばここ。143ページの “ サーキュレア北方の70km四方の森 ” は、編纂前の方だと “ 60km四方の丘陵地に生い茂る森 ” って記載されてたからね」

「現在ですと……該当する場所はシュクリアとオレス村の間、薄い丘陵の広がる草原地辺りですかね?」


「うんそう。どっちがより正確な記述なのかっていうのもあるけれど、もしかするとそれぞれの書物がまとめられた時期の差で、地殻変動や大戦影響での地理変化があったかもしれないし、完璧に正確なところっていうのは、今じゃもうよく分からないんだよね」

 そうしたちょっとした違いが、長い年月をかけて少しずつ積み重なり、やがて大きく違ったものへと変わってしまう。


  今、ミミ達が読んでいる “ 古シャルストイ開拓史 ” にしても、最後に編纂された時期を考えれば、その内容は数百年モノの古書だ。

 現在とこの書物が出来た頃とでは、また少し現場は違っている事だろう。


「だからあくまで書物コレは、この地の地理歴史を知るための参考程度って考えておいて」

「わかりやした」


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[ 538年7月15日:ダートワールの消失 ]


 地上世界において、幾度となくぶつかり合った神界勢と我が魔界勢。

 しかし今次大戦はその戦史において特に苛烈さを極めた、激しいものだった。


 その戦いの結果、ダートワール海に深い爪痕が残る。

 海水がすべて消えてしまったのだ。


 原因は、地面に残った戦いの痕……巨大かつ長大で、深き大地の亀裂であった。

 この割れた地面がダートワールの水を全て吸い落してしまったのだ。


 シャルストイ砦より北に望んだ風光明媚な美しい自然の光景は一変。

 この大変化により、何とも殺風景な景観へと変わり果ててしまった。



                             ページ248

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[ 560年2月06日:新たな開拓計画の開始 ]


 ダートワール海を失ったことは、

 このシャルストイ地域に新たな可能性をもたらした。

 

 これまで臨海地域だった地はその土の領域を広げ、

 更なる開拓の余剰を我々に見せたのだ。


 サーキュレアよりさらに北方へ開拓の手を広げるべく、

 魔界より林業の達人と名高い山羊獣人のオー兄弟を呼び招く。


 干上がったダートワール海の、かつては北側の海岸であった辺りより

 更なる北方に広がっている大森林の伐採開発が、同兄弟に一任された。


 この北部の大森林は、オー兄弟の名にちなんで

 後に、オーズの大森林と呼称されるようになった。


                             ページ260

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[ 564年10月27日:湿地化による開発の断念 ]


 元ダートワール海は海水こそ干上がったものの、その後の湿地化が著しく、

 当初予定していた新たな拠点の建設計画は断念する事となった。


 調査の結果、

 現地は土中の水分が浮きあがりやすい質の土壌が広域にわたっており、

 雨が降るたび、その水分と共に柔らかい土が浮き上がり、まとまって混ざり、

 水泥化してとどまってしまうとの事。


 元沿岸部付近の土壌は乾きつつあるが、それなりに沖合いであった場所は、

 残念ながら今後も開発は困難であるだろうという結論が調査隊より出された。


                             ページ266

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[ 582年3月08日:オーズ大森林の開拓拠点 ]


 オー兄弟によるオーズ大森林の開発は順調そのものと言えた。

 新たな開拓拠点としてオーズ生産村が成立し、

 林業に明るい生産者の移住が本日より始まった。


 さらに計画が加速していくであろう中、

 今後の伐採計画がオー兄弟より提出された。


 しかし、ここで一つ問題が発生する。

 伐採計画は兄と弟それぞれから提されたのだ。


 兄の計画は、エミラ・スモー山脈の麓に沿い、

 山脈と大森林を切り離すような形で北西へ向かうもの。


 一方の弟の計画は、元ダートワール海が干上がったことを利すべしとし、

 北東へと伐採を進め、

 切り拓かれた伐採跡地を活用し、平坦地を増やす目的を加味した一石二鳥案。


 オーズ大森林は大戦時、

 シャルストイ地域を敵の目より隠す天然の防壁の意味合いもあるため、

 軍部では、兄の計画に支持が偏った。


 これがオー兄弟の後の不仲の原因となる。


                             ページ275

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[ 584年4月21日:大規模地殻変動の発生 ]


 先の大戦の影響か、

 エミラ・スモー山脈南方を中心に大規模な地殻変動が発生。


 サーキュレア西および南方において、

 かつて壁のように見上げた山脈が、その標高を下げ、

 山の尾根は凸凹でこぼこになる。


 山向こうのユークレース大湖の水位が更に下がった。


 さらなる被害調査報告によれば、サーキュレアの南にかつて築かれた、

 望遠見張り用の小規模砦が、この近く変動により倒壊。

 同地の山々は沈み、ヒビ割れ破砕したように無数の谷間が走る、

 小高い丘山が密集したような地形へと変わり果てているという。


 現時点では砦再建のメドが立っておらず、索敵能力低下が憂慮されている。



                             ページ277

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[ 587年2月19日:オーズ大森林のV字刈り ]


 日を重ねるほど、オーズ兄弟の確執は深刻化の一途。


 オーズ生産村に移住した他の林業生産者たちも、

 二人の空気の悪さに耐えきれず、

 作業を中断、あるいは村を出ていきたいと願いでる者が増加している。


 軍部は当事者での解決が困難と判断し、

 仲裁案として、弟の伐採計画を承認する事とした。


 その判断の裏には、オーズ兄弟の高齢化も要因としてあるようで、

 特に弟は持病が悪化したという報告も上がっており、

 二人に残された時間はあまり長くはないようだ。


 最後に兄弟で競わせ、

 有終の美を飾らせようというのだろうかと呟く者もいた。


                             ページ280

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[ 590年9月20日:ダートワール小城の竣工式 ]


 2年の歳月をかけてついにここ、ダートワールの地に城が完成した。


 サーキュレアから東、シャルストイ砦より北東に位置する。


 ドアオラ山地を背負い、ダートワールの大湿地帯を眼前にするこの城は、

 これからのシャルストイ地域における主要な軍事拠点となる。


 かつては隠れるように僻地の秘たる地だったシャルストイ地域だが、

 この城の完成を持って、これからはこの地においても

 神界勢を堂々と迎え撃つ、激しい戦いを常に強いられることとなるだろう。



                             ページ286

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[ 661年12月03日:シャルストイ砦・廃砦 ]


 軍上層部の見立て通り、シャルストイ地域における

 大戦における軍事拠点の主役は、シャルストイ砦からダートワール小城へと移り、

 この砦は維持の手間と余分な消耗を避けるため、

 廃砦・解体されることが決定した。


 この地を切り拓いた歴史ある最初の地がその幕を下ろす。


 今後はドアオラ山地を抜け、ダートワール小城へと繋がる輸送路の中継地点として

 簡素化された後方兵站地とする予定、とのこと。



                             ページ290

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「もしかしてこのダートワール小城っていうのは、現在のドウドゥル駐屯村で?」

「うん、そう。正確にはダートワール小城が建ってたのはもうちょい南の、地面がもっとしっかりした場所だけどね。今はそんな跡は小石1つ分も残ってないから、正確な位置はこういった記録を複数参照して、推測からしか判断できないけど」


 そして、書物の最後の1ページが閉じられた。


 この “ 古シャルストイ開拓史 ” の最後の時点でも、現在のサスティ、シュクリア、オレス村、ハロイド、領主の館、ドウドゥル湿地帯、同駐屯村、アズウールの爪痕、領主の館、イクレー湖、ガドラ山脈などの地に関するルーツが伺え、ドンはなかなか濃密な地理史だったと満足感を覚える。


「ちなみに―――」


 ―― オーズ大森林 → ロズ丘陵の大森林

 ―― オーズ生産村 → オレス村

 ―― ダートワール小城 → ドウドゥル駐屯村


「―――ってところだね。ドウドゥル駐屯村の位置って思いっきり開けてるから、大戦時はこっち側に侵入してきた敵に見つかりやすくって。実際に前大戦でも1個小隊から攻撃受けたし、軍事拠点としては悪くない場所なんだとは思うけれど」

(※「第一編 閑話2 かつての軍闘」参照)


 いかんせん、湿地帯は湿気が強くて居住環境がよろしくない。

 ダートワール小城がなくなってしまったのも、その辺に理由があるのだろうとミミは推測する。



「まあ平時でも部隊が駐留し続ける軍事拠点となりますと、居住環境は大事ですからね。兵士の士気にも関わりやすし」

「もしドウドゥル湿地帯が今も海だったなら、臨海の古城として残ってたかもね」

「はは、そいつぁ絵になる光景ですね」

 観光名所の一つもあれば助かるのに―――そんな皮肉。


 実際、ドウドゥル湿地帯がダートワール海だった頃、その海岸沿いからの景色はとても良かったのだろう。

 魔界本土の高位貴族が軍事拠点だったシャルストイ砦の視察に訪れた時、この地に保養の別荘を建てたいと個人的願望をのたまったほどだと、別の記録に残っている。



「(今はもうそんな話とは完全に無縁だけどね……は~ぁ)」

 この地の歴史の勉強をすればするほど、今がどれだけ衰退した後なのかが感じ取れてしまい、つい消沈してしまう。


 苦労は尽きない――――――ため息しか出ない現状に、それでもやっていくしかないと自分で自分を納得させつつ、彼女は次の書物を手に取った。








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