少年

『前略

 まずは君に感謝したい。僕の命を救ってくれてありがとう。僕は今、病気にかかる前と同じように生活できている。

 「君」という大きな存在を失った以外は。

 真実の話をしよう。僕は、君が言うように頭がよくて優しい幼馴染だったかもしれない。でも、それは僕が元からそうだったわけじゃない。

 僕が良い点を取ると、君は必ず解けなかった問題を聞きに来た。それが嬉しくて、僕は勉強を頑張った。君の笑った顔が見たくて、気付いたら優しくなっていた。いつも一緒にいたのだって、君が僕のところに来てくれるからだ。

 全部、君のおかげ。そのことに気付いたのは、君が心を失ってからだった。

 

 「君」がいなくなって二年がたった。僕はこうして生きている。あの子とは結局うまくいかなかった。ただひたすらに、「君」を求めていた。

 その時、気付いたんだ。君が感情を売った店に行けば、何か変わるかもしれない。僕は、探して、探して、そしてその店を見つけた。

 中に入ると、店主らしき人が僕に言った。

「お望みは寿命をのばすことですか、それとも、感情を蘇生させることですか」

 僕は即答した。何でも差し出すから、幼馴染の感情を戻して欲しいと。

 すると、店主はこう言った。

「感情を蘇生させるには、お客様の一番大切なものの記憶をいただく必要があります」

 一番大切なものの記憶。僕にとってのそれはいったい何だろうか。僕は、店主に聞いた。僕の一番大切なものとは、何か。店主は笑って、僕にとっての一番大切なものを教えてくれた。それは、二年前まで当たり前にあったものだった。

 僕はこれから、君の感情を取り戻すために、君の記憶を売りに行く。君は二年前までの「君」に戻り、僕は君のことをすべて忘れてしまうだろう。本当は君のことを忘れたくなんてないけれど、方法はこれしかない。

 どうか、君にお願いがある。君を忘れてしまった僕に、君のことを教えてほしい。そして、僕が死ぬまで、一緒にいてほしい。二年前と同じ、あの笑顔で。

 それでは、どうか、お元気で。

                                                                                                                                                 草々』

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