butterfly

きのみのる

第1話

『butterfly』



己の唾液で巣を張る蜘蛛がいた

罠とも呼ばれる棲家だけれど

綺麗な蝶が食べたくて

一心不乱に絵を描いた


ある夜きらきら耳元で

はたはた閃く音がして

潜めながらに覗いてみれば

綺麗な娘が抗えず罠に掛かっておりました



「こっちにこないで」

「私を放して」

嗅いだ事のない

蜜に似た匂いがしたから

少し休めたの

少し休めただけだったの


息を殺して 

食べられるのはドコから望む?



興味本位が命とりになることくらい

賢い娘は知っていたから

過去に身を攀じることなく

その身を剥いで


飛び去りました

遠く 遠くへ

抜け殻残して



独りぼっちに取り残された蜘蛛は

罠に掛からぬ者があるのかと

娘の抜け殻掻き集め

強く抱いては欲しがった


さめざめ泣いた幾度目かの陽

ひらひらはためく音がして

泣き腫らした瞼を開けば

綺麗な娘が哀しく笑っていました



「お腹は空かせたまま?」

「なんにもしないで?」

朝露に光る

貴方の棲家は美しいのよ

朝を味方に

夜だけじゃいやなの


描き続けて

誰かのために描いて魅せたら?



自分本位が命とりになることぐらい

賢い娘は知っていたから

朝火に身を焦がすことはなく

その身を濡らし


抱き寄せました

強く 強く


興味本位が命とりになることくらい

賢い娘は知っていたから

過去に身を攀じることなく

その身を剥いで


蜘蛛にくれました

ほんの少しだけ 「私も愛して」

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butterfly きのみのる @Asmi10

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