第15話 国譲り(くにゆずり)

 国造りは成功し、葦原中国は栄えた。


「計画通り事は運んだようね」

 今ではフィクサーとなったアマテラスは、高天原から下界を見下ろしつぶやいた。

「面倒臭いことは大方オオクニヌシがやったみたいだから、そろそろ葦原中国を頂くとしますか」

 葦原中国乗っ取りについて、アマテラスは機が熟したと判断した。


 アマテラスは息子オシホミミ(※「誓約」参照)に葦原中国への出向を命じた。しかし、

「嫌だね。あんな汚いとこに行けとか、訳わかんね」

 オシホミミはアマテラスの命令を拒否した。

 仕方なく、アマテラスは代わりにオシホミミの弟アメノホヒ(※「誓約」参照)を派遣した。


「この国を我々高天原の神に譲れ」

 葦原中国に到着早々、アメノホヒは切り出した。

「こちらはすでに3分の1の株を保有している」

 敵対的M&Aであった。

(げっ、いつの間に)

 オオクニヌシは焦った。

「まあまあ、難しい話は後にして。長旅で疲れたでしょう」

 話をそらし、オオクニヌシは豪華な食事と高価な酒でアメノホヒをもてなした。

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 連日アメノホヒは接待漬けにあった。

 そのうち本来の目的を忘れてしまう。

 三年後、アメノホヒは高待遇で葦原中国に就職した。


 アメノホヒがヘッドハンティングされたと知ったアマテラスは、次に天若日子アメノワカヒコを派遣した。

 オオクニヌシは同じようにアメノワカヒコも接待漬けにしようと画策した。

 しかしアメノホヒが取り込まれた経緯を熟知したアメノワカヒコは一切の接待を断った。


 交渉は高天原優位で進んでいった。

 ある夜、アメノワカヒコがひとりバーで飲んでいると、

「ご一緒してもよろしいかしら?」

 カウンターの隣に女が座り、艶めかしい目つきでアメノワカヒコを誘ってきた。

 胸元からのぞく女の胸はあきらかに巨乳であった。

「ああ」

 横目で胸の谷間を凝視しつつ、アメノワカヒコは眉間に皺を作ってチョイ悪おやじを演出した。

 アメノワカヒコは根っからの巨乳好きだった。

 この世で何が一番好きって、それは巨乳だった。

 ふたりは当然のようにホテルの部屋に消えた。

 翌日、アメノワカヒコが宿泊するホテルに一通の封筒が届く。

「嵌められた」

 封を開けたアメノワカヒコは唸った。

 中には女とのにゃんにゃん写真が入っており、顔もアソコもばっちり写っていた。

 しかも、女はオオクニヌシの娘シタテルヒメ(※「神語」参照)と知った。


 典型的なハニートラップに引っかかり、アメノワカヒコの強気な発言は一変する。

 交渉は遅々として進まなくなった。

「ま、いいかっ」

 アメノワカヒコは開き直った

 初めは単なる異国でのアバンチュールと考えていたが、実のところ、どうしてもシタテルヒメの巨乳が忘れられない。

 アメノワカヒコは巨乳さえあれば他になにもいらないと思った。

 ついにアメノワカヒコはオオクニヌシに寝返りシタテルヒメと結婚した。

 以降、アマテラスには虚偽の報告を流し続けた。


 パシャ

 八年目が過ぎた頃、突然眩いフラッシュがアメノワカヒコを襲った。

 すっかり油断していたアメノワカヒコは、シタテルヒメとのツーショットを激写されてしまったのだ。

 パパラッチは、高天原スポーツ新聞、通称「高スポ」と契約している鳴女ナキメという雉であった。

 撮影と同時に舞い上がり逃げるナキメ。

「そんなもんスッパ抜かれてたまるかー」

 アメノワカヒコは叫びながら、天鹿児弓あまのかごゆみ天羽々矢あまのはばやを射った。

 見事、矢はナキメの体を貫いた。

「雉も鳴かずばうたれまい」

 昔誰かが言った台詞を口にしながらアメノワカヒコは額の汗を拭った。


 しかし、写真はすでにメールで高スポ本社に送信された後だった。

 アメノワカヒコの裏切りを知ったアマテラスは激怒した。

 カチッ

 あらかじめアメノワカヒコの脳内に仕込んでおいた超小型爆弾のスイッチを、アマテラスは躊躇なく押した。

 アメノワカヒコはシタテルヒメの巨乳に顔を埋めパフパフしている最中、いきなり頭が吹き飛んだ。


 最後の切り札として、アマテラスは建御雷之男神タケミカヅチノオノカミ(※「神生み」参照)を送り込んだ。

 武神タケミカヅチは、金にも酒にも女にも無関心な堅物だった。

「国を譲ってもらおう」

 アメノトリフネ(※「神生み」参照)を従え、稲佐の浜に降り立ったタケミカヅチはオオクニヌシに迫った。

 この頃、ドラッグのやり過ぎで頭がやられていたオオクニヌシは何もかもが面倒くさくなっていた。

「もう俺、引退するから。あとは息子に聞いてちょ」

 頬のこけたオオクニヌシは無気力に返答し責任を息子になすりつけた。


 しかし、二代目は皆そろってボンクラだった。

 アメノトリフネに美保の岬から連れてこられたコトシロヌシ(※「神語」参照)は、タケミカヅチの脅迫に、

「どうぞご自由に」

 と、素っ気なく答えただけだった。


 ただひとり、

「そんな勝手は俺が許さねー」

 カッコよく登場したタケミナカタ(※「神語」参照)は果敢にもタケミカヅチに反抗した。

 両者は諏訪の会場で一戦を交えることとなった。

 しかし勝敗は呆気ないものだった。

 カーン

 ゴングが鳴ってすぐ後ろに回りこまれたタケミナカタは、簡単にタケミカヅチに尻の穴を奪われてしまう。

「うっ、うっ、うっ、もう勘弁して」

 バックからの激しい突き上げに、タケミナカタは苦痛と快感に顔を歪め堪らずマットをタップした。

 タケミカヅチはガチホモだった。


「息子たちの了解はとったぞ」

 タケミカヅチはオオクニヌシに言った。

「わかった。国はあげる。その代わりひとつ条件がある」

 少し遠慮がちにオオクニヌシは頼んだ。

「何だ?」

「俺の、ヤリ部屋だけは確保してくれ」


 呆れながらもタケミカヅチはオオクニヌシの条件をのみ、出雲に大社を建立した。

 こうして国譲りは成った。

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