第11話 八十神(やそがみ)

 八十神はヤガミヒメに求婚した。しかし、

「退屈な奴らばっかり」

 ボンボン育ちで空気の読めない八十神に、ヤガミヒメはウンザリした。

「八十神なんて全員ダメですよ。私の調査では、最後にやって来る男が一番のお勧めです」

 白兎はヤガミヒメに耳打ちした。

 お嬢ちゃん育ちで他人の意見を聞かないヤガミヒメであったが、執事兼占い師である白兎の言葉だけには素直に耳を貸した。

 そして、オオナムヂがやって来た。

「ふんっ、悪くないわね」

 ヤガミヒメもまた世間知らずで空気の読めない女だった。

 こうして、特に理由も無くオオナムヂは花婿に選ばれた。


「おいおい、冗談だろ」

「ちょームカつくな」

「あいつ、殺っちゃわね?」

「殺っちゃおうぜ」

 納得がいかない八十神はオオナムヂを殺害する計画を立てた。


 八十神は手間の裏山にオオナムヂを呼び出した。

「今日のサバゲーは赤猪捕獲作戦だ。俺たちが山の上から赤猪を追い立てるから、オオナムヂ、お前は下で待ち構え赤猪が来たら捕まえろ」

 オオナムヂは八十神に命令されるまま山の麓に待機した。

 ゴゴゴゴゴ

 しばらくすると、山頂から赤猪が転げ落ちてきた。

「そりゃっ」

 タイミングを計り、かけ声とともにオオナムヂは赤猪に飛びついた。と、

「うっえ熱っちー」

 赤猪と思った物体は、真っ赤に焼けた大きな岩だった。

 大間抜けなオオナムヂ。

 オオナムヂは真っ黒こげになって絶命した。

「へっ、調子に乗ってるからだ」

 八十神はせせら笑った。


 オオナムヂの死を知り、母刺国若比売サシクニワカヒメは高天原の別天津神カムムスヒ(※「天地開闢」参照)に大金を積み、息子を救ってほしいと訴えた。

 お金を懐にしまったカムムスヒは貝比売キサガイヒメ蛤貝比売ウムギヒメを地上に派遣した。

 やって来たふたりは、オオナムヂの死体の前でザオリクの呪文を唱えた。

 オオナムヂは簡単に生き返った。


 オオナムヂの生還を知った八十神は、今度は体育館にオオナムヂを呼び出した。

 開け放たれた入り口からオオナムヂが中に入ろうとした瞬間、八十神は両サイドから重たい扉を力まかせにスライドさせた。

「ひでぶ」

 低い叫び声を残し、オオナムヂは扉に挟まれペチャンコになった。

「どうして、こんな、仕打ちを、する、の?」

 オオナムヂはうめき声をあげる。

「大人は質問に答えたりしない。それが基本だ」

 八十神は利根川ばりの演説をした。

 オオナムヂは圧死した。


 もうお金が無い母サシクニワカは天津神に頼むことができず、今回は自分で蘇生を試みた。

 しかし、国津神のサシクニワカはザオラルしか唱えられない。

 サシクニワカは呪文をくり返しMPが無くなる寸前でオオナムヂは生き返った。

「お前、雑魚相手に二回も死んでんじゃないよ。ゲームが先に進まないじゃないか」

 呆れたサシクニワカはオオナムヂにコントローラーを投げつけた。

「これ以上は付き合えないから、どこへでも行っておしまい」

 母親にも見捨てられたオオナムヂは、木の国(紀伊国)の大屋毘古神オオヤビコノカミ(※「神生み」参照)の元へ逃げていった。

「匿ってほしい」

 オオナムヂはオオヤビコに頼んだ。

 しかし「厄介事はご免だ」と、オオヤビコはにべも無く断った。

 そうこうしてるうちに八十神が木の国まで追い駆けてきたので、オオナムヂは仕方なく根の堅州国(根の国)へ向かうことにした。

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