第8話 五穀(ごこく)

 高天原から葦原中国あしはらのなかつくにへ命からがら逃げる途中、スサノオはオオゲツヒメ(※「神生み」参照)の元に寄った。


「匿ってくれ」

 息も絶え絶えでスサノオは言った。

「噂は聞いてるわ。まあ、ゆっくりしていきなさい」

 オオゲツヒメは優しく答えた。

「何か食べる?」

 オオゲツヒメに言われ、スサノオは自分が空腹だったことに気が付いた。


「パクパクパク、おかわり」

 スサノオは一気に料理を平らげた。

「ちょっと待ってて」

 オオゲツヒメは台所に引っ込んだ。

 ホジホジ、ペッ、ブリブリ

「はい、たんとお食べ」

 新しい料理をオオゲツヒメはテーブルに並べる。

「パクパクパク、おかわり」

 まだスサノオの空腹は満たされない。

「ちょっと待ってて」

 再びオオゲツヒメは台所に引っ込んだ。

 ホジホジ、ペッ、ブリブリ

「はい、たんとお食べ」

 また新しい料理が並んぶ。

「パクパクパク、おかわり」

「ちょっと待ってて」

 ホジホジ、ペッ、ブリブリ


「台所から聴こえるあの奇妙な音は何だろう?」

 スサノオは疑問に思い、そっと台所を覗いた。すると、

 オオゲツヒメが、「ホジホジ」と鼻くそをほじり、「カ~、ペッ」と痰を吐き、「ブリブリ」とウンコをして、それを材料に料理を作っていた。

「ゲロゲロ~」

 それを見たスサノオは気分が悪くなり激しく嘔吐した。

「お前、なんちゅうもんを食わしてけつかんねん」

 胸のムカつきを抑えながらスサノオは唸った。

「あら、お気に召さない?」

 オオゲツヒメは悪びれることなく冷静に訊ねた。

「俺はそんなマニアじゃないわっ」

 システムを理解できないスサノオはいきなり剣を取った。

「なぜ? 涙を流して喜び、むしゃぶりつく男もいるのよ。大金をはたいてほしがる男もいるのよ」

 オオゲツヒメにはスサノオの怒りが理解できなかった。

「黙れっ、この変態」

 スサノオはオオゲツヒメを叩っ切った。

 オオゲツヒメにとっては理不尽な仕打ちであった。

「極上のおもてなしをしてあげたのに~」

 これがオオゲツヒメの最後の言葉だった。


 このとき、オオゲツヒメの頭から蚕が生まれた。そして、

 目から稲

 耳から粟

 鼻から小豆

 マ○コから麦

 アナ○から大豆

 が生まれた。

 それらを真性マニアの神産巣日命カムムスヒノミコトが集め、五穀の種を作った。


「頭おかしい奴らばっかりや」

 恩を仇で返したスサノオは、半べそをかきながら葦原中国に帰って行った。

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