第7話 天岩戸(あまのいわと)

 高天原に住む神たちはスサノオと関わろうとしなかった。

 寂しさを覚えたスサノオは皆にかまってほしくて、畦道をバイクで走り田んぼを壊して回った。

「ヒャッハー」

 奇声を発しながら暴走するスサノオ。

 しかし、その存在は基本的に無視された。

 神殿では皆の気を引きたくて、廊下でウンコをして壁に投げつけた。

 しかし誰にも相手にされなかった。

 どこに居ても完全にシカトされるスサノオ。

 それでも目立ちたいスサノオは、今度はアマテラスが経営する服屋のショーウインドウに馬といっしょにバイクで突っ込んだ。

 もはや病気だった。

「ひ、あー」

 その際、壊れて飛び散ったガラスの破片が、なぜかショップ店員のマ○コに突き刺さり、不幸にも店員は死亡してしまった。

「あのガキ、調子にのりくさって」

 流石にアマテラスは激怒した。

 周辺住民からの苦情も殺到しスサノオを放置していられる状況ではなくなった。

 しかしアマテラスは誓約のため表立って文句を言うことができない。

 二進も三進もいかないアマテラスはとうとう耐え切れず、天岩戸に引き篭もってしまった。

 太陽神であるアマテラスが引き篭もったせいで、高天原はおろか地上までが暗闇に閉ざされた。

「姉弟そろって、まったく迷惑やな」

 神たちはふたりを罵った。


『アマテラス引退!?』

 そんな記事が週刊誌に踊った。

 突然の引退報道に、ネット上では『熱愛発覚!』『薬物疑惑?』と勝手な憶測が書き込まれ、各地でお祭り騒ぎとなった。

 メディアも連日取り上げる。

「勝手なことをしくさって。とにかく、彼女にはまだまだ働いてもらわにゃ困る」

 アマテラスが所属する芸能事務所の社長思金神オモイカネノカミは苦虫を噛みつぶしたような顔でつぶやいた。

 オモイカネは業界きっての切れ者だ。

 事務所は一計を案じ、一大イベントを開催することに決めた。


 天岩戸前特設会場には勾玉を散りばめた鏡張りのステージが用意された。

 これは大道具伊斯許理度売命イシコリドメノミコトが『八咫鏡やたのかがみ』を、小道具玉祖命タマノオヤノミコトが『八尺瓊勾玉やさかにのまがだま』を、それぞれ製作したものだった。

 コケコッコー

 長鳴鳥にわとりの鳴き声でライブは始まった。

「レディース、アンド、ジェントルマン」

 司会者天児屋命アメノコヤネノミコトが高らかに声をあげる。

「本日の(仮の)主役、アメノ・ウ・ズ・メ~」

 今回大抜擢されたのは、事務所が売り出し中の新人天宇受賣命アメノウズメノミコトだった。

「ウオー」

 異様に盛り上がる会場。

 なぜなら、登場したアメノウズメはアイドルにもかかわらずスケスケの下着姿だったのだ。

 アップテンポの曲に合わせて激しく踊るアメノウズメ。

(もうアマテラスの時代は終わりよ)

 乗り乗りのアメノウズメはブラジャーを外した。

 上下に激しく揺れるオッパイ。

 さらにパンティーを脱ぎ捨てアメノウズメはマ○コ丸出しで踊り続けた。

 まさに会場は熱狂の堝と化した。


 一方、引き篭もったアマテラスは、外が騒がしいことにイラついていた。

「なんや、うるせーなぁ。何しとるんじゃー」

 天岩戸の内からアマテラスが怒鳴る。

「あんたはもう用無し。これからは私の時代よ」

 勝ち誇ったようにアメノウズメは叫んだ。

「その声はアメノウズメ」

 アメノウズメが世代交代を狙っていることは、アマテラスも薄々感じとっていた。

 こうしてはいられない。

「お前なんかとは格が違うんじゃあ」

 怒りにまかせ、アマテラスは天岩戸の扉を開けた。と、

「捕まえたっ」

 ディレクターの天手力男神アメノタヂカラオノカミがアマテラスの手を掴み天岩戸から引きずり出した。

「なんやお前。手を離さんかいっ」

 抵抗するアマテラスを縄で縛り上げたプロデューサーの布刀玉命フトダマノミコトは、榊の枝でアマテラスの頬を張り倒し耳元で囁いた。

「お前もまだこの業界で生き残ってたいんだろ? だったら大人の事情ってのを少しは理解しろやっ」

 観念したアマテラスは、マイクを持ちステージに立った。

「みんな、ゴメンね。そして、ありがとう」

 アマテラスの言葉に、八百万のファンどもは狂喜の歓声を上げた。


 こうして再び世界は太陽の光を取り戻した。

 しかし業界のバックが事の発端となったスサノオを放っておくはずもなかった。

「この落とし前、どうつけるつもりや?」

 所詮ヤンキーではモノホンのヤ○ザの相手にはならなかった。

 スサノオは髪を引き千切られ、ペンチで全ての爪を剥がされた。

 こうして激しいリンチを受けたあと、スサノオは高天原から追放された。

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