ベクトル
萩悠
ep.0 現実と夢の狭間
「あなたは誰?」
「僕?わからない。」
「ふふっ、変な子。ねぇ、一緒に遊ぼ?」
「僕と?」
「あなた以外にいないでしょう?ふふっ、やっぱり変な子。」
ふんわりと笑う黒い髪の女の子。
その笑顔をみていると、僕も自然と笑顔になれる。
なんとなくそう思った。
―目の前が赤く染まる―
「探しましたよ。帰りましょう、 がお待ちです。」
赤い眼をした少女が血に染まった手を差し伸べる。
彼女の後ろには瓦礫と化した街ばかり。
パンッ
「嫌だっ!僕はここにいる!」
その手を払いのけ後ずさる。
「そんな事を言い出したのはそこの女のせいですね。」
そう言って、血に濡れた大剣で後ろにいる女の子を指す。
「パパッ!ママッ!
ねぇ、何で起きないの!?ねぇ!」
僕といつも一緒に遊んでくれていた女の子は父と母の亡骸に縋って泣いている。
「仕方ない、子供には手を出さないつもりでしたがね。」
何も感じないかのようにごく自然に剣を振り上げる。
「止めて!ねぇ、パパとママを返して!私を殺さないで!やめて、やめて!」
怯えた女の子は身動きがとれず、泣きながら力なく言葉を紡ぐだけ。
「止めて、ねぇ助けて!助けてよぉっ!」
必死の叫びが誰もいない街へと響く。
「余計な事を吹き込むからだ。大人しく死になさい。」
そう吐き捨てるように言い、大剣を振り下ろす。
「止めろよっ、止めろーっ!」
叫びながら女の子と剣の間に走りこむ。
―目の前が明るくなった―
赤い眼の少女は消え、この場には僕と女の子の二人だけ。
ふいに僕のカラダが透けてゆく。
涙でいっぱいの女の子は僕の目を見て言った。
「私はもっと強くなるね。みんなを守れるくらいもっと、もっと。誰も傷つかなくて良いように…。ねぇ、次はいつ会えるの?」
「僕が大きくなって…君を……護れるくらい…強くなったら…。」
「約束よ?私の名前は 。あなたは?」
「僕?そうだなぁ……。僕の名前は…。」
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