第7話
映画が終わると、私はいつの間にか泣いていた。最初は主人公が高校生の男女でないことに驚いた。広告にはリメイクと書いてあったのでキャストが変わるだけで大体同じものと思い込んでいたから、間違えて別の作品を見ているのではないかと思った。
主人公の弁護士は年配だったけど、どこか夫と似ていた。女医の方もおしとやかでしっかりもので、私と似ていたと思う。少なくとも女医の行動や弁護士を見る目には共感を覚えた。弁護士は女医のことを本当に愛しているのだと思った。そのために家庭を大事にしすぎて仕事では失敗してしまっていることに、早く女医が気付いて支えてあげて欲しいと思った。私だったらもっと早く気が回ると思う。
弁護士がお互いを眺めて最後の光を見届けたがっていることに驚いた。お互い毎日眺めているわけだし、もっと素敵なものを眺めたほうがいいと思った。少なくとも私ならそうすると思う。女医も私と同じ考えだったようで安心した。やっぱり2人で同じものを眺めたいと思った。でも弁護士がお互いを眺めたがったのは、弁護士が女医を心から愛した上での想いだということが少しずつ伝わってきた。
徐々に画面が暗くなっている気がした。そういえばパンフレットに書いてあったと思う。この映画は明るさを変えずに光の印象を少しずつ変えていくことで、画面の見やすさは維持したままでも光が失われていく様子を表現しているのだとか。難しいことはよく分からないけど、とにかくよく出来ているのだと思った。
弁護士が鎖を引きちぎろうとするシーンでは、つい杖と服の裾を手で握りしめてしまった。最初はそんなに印象のなかった弁護士の顔が、いつの間にかとても頼もしいものになっていた。40代どころか30代前半でもおかしくないような力強さを感じた。上映後にもらった別のパンフレットによると、この弁護士は30代後半の俳優に特殊なメイクを施して40代後半に仕立てあげられているらしく、しかも作中で少しずつメイクを若返らせていくことで最終的に30代前半に見えるように調整されているらしい。私もそういうメイクの技術が欲しいと思った。
最後のシーンでは花畑ではなく日の入りがアップになっていた。とても綺麗だった。ちょうどダイヤを拡大したような輝きだった。ただ日が沈むだけの映像をラストに持って来るなんて、おかしいと思った。だけど、涙がこぼれていた。
映画館の帰りはそれほど高くないけど雰囲気のいいレストランへ行った。おいしかったと思うけど、何を食べたか覚えていない。映画館を出てからずっとぼんやり考え事をしてしまい、お料理を食べている時も上の空だったのだと思う。私も、夫と2人で、最後は素敵な何かを見たい。何を見ればいいのだろう? そればかり考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます