スノー・ブロッサム

「あなたみたいな透明になれるカメレオンさんて、他にもいるのかしら?」


「恐らくおらんだろうね。我輩はここから出たことが無いので確証はないが、世界中を旅して回っている渡り燕の言うことには、世の中広しといえども、我輩ほど完全に身を透き通らせて隠れられる達人には出会ったことがないそうだ。」

人ではないと威張ってた割には、自ら達人とか言っている。


「光のプリズム反射を活用して身を隠す技術を光学迷彩というんだよ。」

エリックが得意顔で口を挟む。


「ホントに凄いわ!だって忍者みたいだもの。あらいけない、忍者なんて知らないわよね。」

そういう私も忍者こそ憶えていても、忍者が何者なのかなんてさっぱり憶えていない。


「馬鹿にしちゃいけないよ、お嬢さん。こうみえて我輩は本好きでね。世界中の書物を読み漁るのが趣味なのさ。我輩ももう少し素早く動くことが出来たなら、忍者かスパイにでもなっていただろうよ。」


「あら今でも十分カッコイイわ!でも、どうして普段から透明に隠れているの?」

私は、彼を褒めそやしてから尋ねた。


「ほらついさっき説明しただろう?彼だけが、ここで唯一監視者の目をくらまして隠れたり、誰にも邪魔される事なく自由に活動するが出来るのさ。キミに紹介しておきたくて、ボクが呼んでおいたんだ。」


「左様。我輩は透明カメレオンである。名前はまだない。」


あら、まただわ。文学好きの彼のことだから、夏目漱石先生のファンなのね、きっと。


「でも、名前がないと呼び辛いわね。」


「好きに呼んでもらって構わんよ。」


「そうね〜・・・じゃあレオンでどうかしら?」


「へぇーなかなかいい感じじゃない。」

エリックも賛同してくれる。


「ほう。我輩も気に入ったよ。素敵な名前をどうもありがとう、お嬢さん。」


「アリスよ、レオンさん。はじめまして、どうぞよろしくね。」

遂に自分でアリスと認めちゃった。でも、向こうもニックネームみたいなもんだし、構わないわよね。


「こちらこそアリス、今後とも宜しくな、」

透明カメレオンのレオンと友だちになった。


「さぁ、じゃあ早速お茶会を始めましょう!」

まず私は雪桜の樹の近くの芝生の上に、持ってきた敷物をバサッと拡げて敷いた。


「おかしいな?」

エリックが辺りを見渡して首を傾げる。


「どうかして?」

私は振り返って聞き返した。



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