バベルの塔
“里村和希”
再び、その表札の掛かったマンションの前まで来た。
「ここがキミの家か?」
「うん多分。」
「たぶんだって??中へ入らないのかい?」
「・・・あのね実は私、今朝より前の記憶が全然無いの。目を覚ましたのがこの家の庭先だったんだけど、本当にここが自分の家なのか、まったく自信が持てなくって。大体鍵も持ってないのに入れるのかしら?」
「ふーむ。ドアを入るにはまず薬を飲まなくてはならないな。」
「薬!?それ一体どんな薬?」
「冗談だよ。ここのドアの鍵は生体認証システムになっているから、もしもこの家がキミの家であるならキミの瞳の網膜で認証登録している筈さ。そこのセンサーに片目をかざしてみたまえ。」
エリックは私の瞳を、さらにドアの傍らにあるセンサーらしきものを指差して言った。
言われるままに、私はセンサーに右目をかざしてみる。
「open おかえりなさいませカズキさま。」
オートロックが解除され、電子機械音声が私を出迎えてくれた。
やっぱりハリネズミのエリックに来てもらって正解だった。
不安が一つ解消されて、内心ホッと安堵した。
「カズキ・・・それが本当のキミの名か。アリスの方が呼びやすいな。ボクはアリスと呼んでもいいだろ?」
「しっくりこないのはどちらも同じだから、お好きな方で呼んで構わなくてよ。」
私はアリスの呼び名を容認した。
以来、彼を含め、周りの人達からはアリスと呼ばれる様になってゆく。
記憶を失い、仮名“里村和希”=名無しも同然だった私は、自然とそれを受け容れることになる。
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