未視感
この家はマンションの1Fにあった。
万が一忘れてしまった場合に備えて、掌にその名前と号室を、メモしておく。
おそるおそるマンションの階段を下りる。
途中、一人の中年女性とすれ違う。
穴の空きそうなほど相手の顔を見つめて言葉を待ったが、向こうは無表情なまま特に言葉も交わすことなく、頭を軽く下げて行ってしまった。
きっと顔見知りではないのだろう。
マンションのロビーを抜け、中庭を通り過ぎる。
ゲートを兼ねたエントランスをくぐり抜けると瀟洒な前庭があって、その敷地内の中央を通した小道を数十メートルほど歩くと、一般道路が見えてくる。
知識を欠いた自分にもなかなか裕福なマンションだと想像できた。
もしも私がこの住まいに居住しているのであるならば、この場所はいつも歩いて通り過ぎる見慣れた光景のはずである。
・・・だが、今の私には全く未知の場所の様に感じられた。
“未視感(ジャメヴュ)”・・・か。
ふと、この言葉が頭に浮かんだ。
遠いいつか、誰かに教わった気がする。
でも其れが誰なのか、今の私には知りようもない。
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