ハースストーン物語 あるハンターの夢①
『ハンターかメイジで二勝する。』
いつものクエストだった。
ただテンプレデッキを組み、カジュアルへ行き、3敗2勝くらいでクエストを終える。
そのはずだった。
「ええと、確かハンターの強いカードは……」
俺はまだ慣れないハンターのカードリストを眺めながら、
サバンナ・ハイメイン、イーグルホーン・ボウなどを適当にデッキへ放り込んでいった。
順調にテンプレ通りのミッドハンターを組んでいき、あと数枚の調整を残すのみとなったとき、
俺の視界に一枚の輝くカードが映った。
『勇敢なる射手
激励: あなたが手札を持っていないなら、対戦相手のヒーローに2点のダメージを与える。』
それはTGTの新カードだった。旧神のささやきがリリースされてなお、ランク戦はおろかカジュアルでさえまったく見かけない、ぶっちゃけ産廃カードであった。
どうしてこのカードが俺の眼にこんなに輝いて見えるのか? 俺の脳裏にはこのとき、ひとつの言葉が浮かんでいたのだ――
――『ハンドレスハンター』――
――ハンドレス、「手札を持たない」という意味で、自分の手札をあえてゼロ枚に保って試合を進める戦術のことである。
遊戯王ではインフェルニティデッキなどが有名なそれだ。
この『勇敢なる射手』は、ハースストーンにハンドレスデッキの可能性をもたらしているのではないか?
『勇敢なる射手』……彼女の輝く瞳は、使ってもらう時をずっと待っているのではないか? そのエメラルドの矢で、相手を貫く時を待っているのではないか?
……彼女を使ったデッキを組まねばならぬ、と思った。
デッキ制作は難航した。
何せ手札はハースストーンの命である。
普通に戦っていては手札はまったく減らない。ハンターは手札をどんどん切っていくデッキではあるが、それでも終盤まで2、3枚はキープしていくし、
軽いカードを並べて攻めるフェイス型でも、手札が尽きるのはせいぜい6、7ターン目あたり、
むしろハンターの強さはミッドレンジ型であり、中盤からの中・大型ミニオンが強みであり、
順当にハンターで戦っていては手札が尽きるということはまずない。
せいぜいフェイスデッキに入れれば何試合かに一度効果を発動できるか、という程度である。
しかし彼女の可能性はそんなものではない。
彼女が真に能力を発揮するデッキを組まねばならぬ。
かくして俺は頭を抱えた。……
……数か月がたった。
何度も挑戦と敗北を繰り返し、ついにデッキはひとつの完成系へたどり着いた!
『勇敢なる射手』……彼女の強みとは、まったく盤面が不利な状態でも、ダメージを与えられることである。
似たカードで『鬼軍曹』『炎魔コウモリ』などがあるが、これらが働くのはあくまで場で有利をとっている場合であり、
ひとたび劣勢に回ると全く働かないという欠点を抱えている。
『勇敢なる射手』が彼らを差し置いて活躍する理由があるなら、それである。
かくしてデッキは完成した。
内容は、デッキ30枚のうち14枚が呪文などで直接ダメージを与えるカード、
10枚が「突撃」持ちなど即座に攻撃開始できるカードである。
引いて即座にダメージを与えられない補助カードはわずか6枚のみ。
マナコストは1マナが14枚、2マナが8枚、3マナが8枚。
すなわち、1ターン目から全力で相手ヒーローを殴り続け、
5、6ターン目には殴りきってしまうというデッキである。
手札、マナ、ヒーローパワー、すべてのリソースを全力で投入し、
相手が回復や防御を始める前に倒しきってしまう。そんなデッキである。
一体このクソデッキがどのようにランク戦の波をかきわけ、
数々のトップメタデッキと渡り合っていくのか?
それは続きをお楽しみ。
次回、「強敵プリースト!さらば青春のともよ」お楽しみに!
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