5-14 第三者の可能性
「ねぇ、エメリ。あの二人、この程度が限界なのかしら?」
「えぇ、エミリ。あの二人じゃこの程度が限界なのよ」
舞い踊るように〈魔操糸手甲〉を使って魔物を駆逐していく二人が口にした、安倍くんと小林くんの二人に対するずいぶんな物言い。
この言葉だけを切り取って聞いたのならら、まるで安倍くん達が弱いかのように聞こえるけれども……実はそうではない。
リンダール姉妹がちょっと尋常じゃなく強すぎるだけであって、安倍くんと小林くんもかなりの実力者である事は間違いないんだよ。
「これ、は……キツいって……!」
「ユウを見習うといいわ。涼しい顔をして魔物に臆する事すらないのだから」
「戦う力がないとは聞いていたけれど、それでも魔物達の標的にすらならないような位置取りをしているなんて、さすがユウだわ」
過大評価も甚だしい。
決して僕がいざとなったら降りかかる火の粉を払ってみせるとか考えている訳じゃないし、そもそも降りかかりすらしない。
要するに、僕だけが先程から続いている激しい戦闘を蚊帳の外から眺めているだけなのだ。
だからね、ミミル。
腰に手を当ててドヤ顔しているけれども、少なくともキミも僕も特別に何かをした訳でもないんだから、そろそろ自重しようか。
「さすがに二人が疲れるのも無理はないんじゃないかな」
「あら、ユウ。あなた、あの二人を庇うのかしら?」
「あはは、庇うつもりなんて微塵もないけどね。純然たる事実を口にしたまでだよ?」
安倍くん達がなんだか感極まったような目でこっちを見てきたり、エメリが僕に向かって訊ねてきたけれども、そんなつもりは毛頭なかった。
勝手に期待しておきながら勝手に絶望されても困るよ、安倍くん達。
ともあれ、さっきから思念体と呼ばれる魔物達が、やたらと大量発生してひっきりなしに僕ら――僕を除く――に向かって襲いかかってきているのだ。
安倍くん達はかなり本気でスキルを使って対処しているのだけれど、それでも殲滅しきれない程度に魔物が湧く。どうしようもなくなりかけて、ようやくリンダール姉妹が魔物を屠る、というサイクルが続いているのだ。
それが終わらず、延々と続くのだから戦っている本人達からしてみれば堪ったものではないだろうとは思う。傍観者な僕以外は。
「いつもこんなものなの?」
「いや、俺らも何回かここに入って間引きに参加した事はあるんだけど、こんな事は今までになかったぞ」
「あぁ、そうだな。いつもなら俺達がここに来てから湧くような魔物なのに、今日は最初から湧いてるようなのばっかりだ。奥から走ってきたり、そんなの今まではなかったはずだぜ」
「ねぇ、エメリ。そんなものだったかしら?」
「えぇ、エミリ。確かにここまでじゃなかったと思うわ」
「いちいち気にした事ないわ、どっちにしても雑魚だもの」
「そうね。大して気にした事なんてないわ」
苦労して戦っている安倍くん達とは違って余裕のあるリンダール姉妹にとっては些末な事であったらしいけれども、どうにもこの状況は
それにしても、最初から湧いている――か。
「……なるほど」
「どうしたの?」
「予め魔物がいるって事は、つまり僕らがここに入ってくる前に誰かがここに入って、魔物を間引かずに奥へと向かった可能性があるんじゃないかな」
ここの魔物には”侵入者に対して湧く”という独自のルールが存在しているはずなのに、僕らが近づいてから湧いている魔物はいない訳ではないけれど、それでも過半数程度だ。
詰まるところ、”僕らに反応して魔物が沸いている”のではなく、”予め何者かに反応して湧いた魔物が僕らを見つけてこちらへやってきている”と考えるのが妥当だと思う。
「さっきアルヴィナが扉を開けてくれたけれど、あの扉って誰でも開ける事ができるの?」
「それはないわよね、エメリ」
「えぇ、それはないわね、エミリ。あれを開けられるのは〈十魔将〉ぐらいなものだわ」
「あとは属性を冠する者達ぐらいなものだわ。あれに干渉できるだけの実力者は限られるわね」
「何かの鍵になるようなものがあったりはしないんだね」
フォーニアの王城ではリンデさんが鍵となるものを持っていたみたいだったけれど、こっちはそういう訳じゃないらしい。
二人の物言いから察するに、あの魔法陣を解除させるにはそれなり以上の実力が必要らしく、誰にでも開けられる代物ではないのは確かみたいだけれど。
だとしたら、わざわざこんな所にやって来た理由は?
もしもここに誰かがいる事が予定通りであったのなら、アルヴィナがそれを僕に伝えない理由が思いつかない。
「ここに他の〈十魔将〉が来ているって事は?」
「普通ならないわね」
「えぇ、普通に考えればないわ」
あっさりと肯定してみせるのは、どうやら経験則からきているものらしい。
そういえば、〈十魔将〉ってどんな人がいるんだろう。
僕が会った事があるのは、リンダール姉妹とヴィヘム。ゼフさんもそうだったみたいだし、あとはラティクスで出会ったアイリスとエイギル。そう考えると〈十魔将〉の内の半分に会った事がある訳だ。
でも、エイギルもゼフさんもヴィヘムも、僕にはどんな能力を持っているのかとか、どれ程強いのかとかは見当すらつかない。
レベル一っていう僕では、強者と会ったからって「……できるな」とかそんなノリで見抜いたりはできるはずもないしね。
粟立つような悪寒や殺気といったものは感じられるけれども、中二病よろしく気配がどうのとかなんて知ったこっちゃないし。
「ねぇ、〈十魔将〉で一番強いのってやっぱりヴィヘムなの?」
魔王の側近って考えると、ある意味そう考えるのが妥当だとは思ったんだけれども……リンダール姉妹は揃って首を振った。
「最強はヴィヘムじゃないわ」
「確かにヴィヘムは魔王軍の中でも五指に入る実力者だとは思うけれども、最強とは言えないわ」
「へぇ、そうなんだ。なんか意外だなぁ」
「俺もそれ気になる。誰なんっすか?」
便乗するように横合いから声をかけてきた安倍くんを一瞥して、リンダール姉妹はお互いに顔を見合わせ、頷いた。
「アレと戦えば、〈十魔将〉の誰であろうが敗けるわ」
「いいえ、戦いにすらならないと言った方が正しいわ。気がつけば、死んでいる可能性すらあるのだもの」
二人があっさりと言い放ってみせた敗北宣言は、正直に言えば意外だった。
この二人とはそれなりに付き合いがあるけれども、この二人が意外と負けず嫌いというか、他者を認めるような事は滅多にしないという事には僕も気が付いている。
二人はヴィヘム相手ですら悪びれる様子も見せないし、アルヴィナ相手にだってへりくだった態度を取る事すらない。その姿は、自分達の世界というか、そういったものだけで周りを見ている節があるように思えるのだ。
そんな二人が、あっさりと実力を認めている。
その事実に気が付いて、思わず僕は息を呑んだ。
◆ ◆ ◆
悠らが〈門〉の中でそんな話をしている、ちょうどその頃。
魔王城にあるアルヴィナの執務室には、アルヴィナとヴィヘム、そしてアイリスとエイギルの姿があった。
「……ごめんなさい、もう一度言ってもらえるかしら?」
頭痛がするとでも言いたげにこめかみに手を当てながら、険しい表情を浮かべたアルヴィナの問いかけ。今しがた齎された情報はそれ程までに看過できない内容であった。
「どうやら『氷』に連れられて、エヴァレスまでもが〈門〉の中にいるようです」
エイギルの口から改めて告げられた報告内容は、どう転んでもよろしくない代物であった。
アルヴィナは困った様子で嘆息しているが、その横に佇むヴィヘムに至っては顎が外れそうな程に口を開き、ついでに目まで見開いている。
冷静沈着なヴィヘムらしからぬ反応に思わず噴き出してしまいそうになったアイリスを目で制し、エイギルは一度咳払いしてみせた。
「陛下、エヴァレスが動くのはそんなに珍しい事なのですか?」
「へ? あぁ、そうね。二人は〈十魔将〉に名を連ねてまだそんなに経っていないんだったかしら。エヴァについてはあまり知らないのね」
「名と容姿ぐらいならば。しかし人族侵攻にも特に動きを見せようともしなかったので、その実力までは」
エヴァレスと呼ばれる少女の存在は、エイギルもアイリスも知っていた。
どこかいつも眠たげというべきか、いっそ眠っている少女。
黒い髪に羊の角を思わせるような角を頭に生やした魔族だ。歩いている最中でさえふらふらと頭を揺らし、座ればその場で眠りこけるという有様である。
それは例えアルヴィナの前であっても変わる事すらなく、アルヴィナの話すら聞こうともしないエヴァレスを、ヴィヘムでさえ叱責する事すらない。
魔族は確かに魔王の下に集まってはいるものの、そこに明確なる上下関係は存在していない。頂点たる魔王、実力者である〈十魔将〉と属性を冠する者達は一目置かれてこそいるものの、年功序列などもない横並びであるとさえ言える。
しかしアルヴィナに対してだけは違う。
アルヴィナを前にすればエイギルはもちろん、アイリスでさえ緊張から普段の男勝りな態度も見せようとはしない程だ。
それでも、いつもエヴァレスだけは変わらないのだ。
他人に対しては興味を抱かないエイギルではあったが、アルヴィナとヴィヘムのこの反応はさすがに放置しておけるはずもなく、エイギルにしては珍しい問いかけを口にしていた。
「彼女は……特別なのよ」
「特別、とは?」
ようやく紡がれたアルヴィナの答えは、しかしエイギルにとっては理解できない代物であった。
「あの子の能力は、はっきり言って常識なんてものを越えているわ。もしも戦いになったなら、ヴィヘムを含んだあなた達が三人がかりで戦ったとしても一瞬で終わるわ。あなた達の敗けで、ね」
いくらアルヴィナが常識から逸脱した力を持っているとは言えど、さすがにそれは納得しかねる物言いだ。ヴィヘムとアイリスがピクリと眉を動かすと、ヴィヘムが咳払いしてみせた。
「陛下、その言い方では二人も勘違いしてしまいます」
「あら、ごめんなさい。決して二人を馬鹿にした訳ではないの」
「そうだ。言ったはずだ、私ですらその一瞬に含まれているのだ、とな」
ヴィヘムの実力は、アイリスとエイギルの二人も知っている。
長大な刃を持つグレイヴと体術を使う近接戦闘型でありながら、多彩な魔法すらも操り、中距離戦すらも制する。魔法を主体としたアイリスや、体術のみを操るエイギルとも異なるオールラウンダーであるとも言える。
さらに正確に言うのなら、魔法ではアイリスに勝り、体術ではエイギルに勝るのがヴィヘムだ。アイリスとエイギルの二人がかりで戦ったとしても、あっさりと敗ける事はないが勝てる事もないだろう。
そんなヴィヘムと共闘したとして、それでもなお一瞬で敗けるなど、些か誇張しているのではないかとさえ思うアイリスとエイギル。そんな二人の訝しげな視線を受けて、ヴィヘムは紛れもない真実だと頷いて答えてみせた。
「ハッキリと言って、エヴァレスには勝てん。もしもヤツが本気を出せば、陛下以外の〈十魔将〉全てが束になったとて、瞬殺されるであろうな」
「ただでさえ高いレベルにステータスっていうのもあるけれど、何よりも彼女の【
「【眠りの刻】……?」
「名前通りよ。全てを眠らせ止めてしまうスキル、それがエヴァのスキルなのよ」
「……まさか……」
「えぇ、そのまさかよ。彼女は時間でさえも止めてしまえる。あなた達じゃ勝てないという理由がよく分かるでしょう?」
それは確かに、冗談では済まされない能力であった。
「止まった時間の中で何かができるはずもないわ。そのスキルを回避できたとしても、単純に彼女の腕は超一流。スキル無しの手合わせでさえ、ヴィヘムが敗ける程だもの」
「な……ッ!」
「悔しいが、エヴァレスとの殺し合いとなれば陛下以外の者では務まらないだろうな。もしもスキルを使って殺し合えと言われれば、その次の瞬間には首を落とされてしまうのだから」
「心配いらないわよ。あの子は私達と敵対するつもりもないしね。というより、単純に興味がない事には動こうとさえしないのよ。というか、あの強すぎるスキルの代償のせいで、一日のほぼ九割以上を寝惚けながら過ごしているような子だもの」
アイリスやエイギルが抱いていた印象通り、エヴァレスは常日頃から眠たげな空気を放っており、それは何も彼女が寝不足だとかそういう問題ではない。アルヴィナが言う、代償が起因しているのだ。
「エヴァのスキルは、意識的に発動するものじゃなくって常時発動してしまっている代物なのよ。彼女がスキルを使っているからこそ、あの子のテリトリーに足を踏み入れても誰も止まったりはしないのよ」
「……意図的にスキルを押さえ込んでいる、と?」
「強引に、ね。そのせいで常に体力と魔力を奪われてしまっているから強烈な眠気に襲われているのよね。あの子は周りに影響を及ぼさない為に、ああしているだけなのよ。本当は凄くお喋りなんだけど、ね。それを知っているのは、本人であるエヴァと彼女のスキルが通じない私ぐらいなものだわ」
どこか寂しげに告げるアルヴィナ。
周囲の者達とは隔絶された力を持ち、それ故に孤独であり続ける存在という意味では、アルヴィナにとってはエヴァレスは自分と似たような境遇にある存在であると言えた。
ともあれ、報告を受けたかと言って今から下手に動く訳にはいかない。
そもそも〈門〉の内部にいる魔物は、中にいる人数に比例するかのように大量発生しかねないという、危険な場所なのだ。
「とりあえず、報告ありがとう。私の方で考えてみるわ」
「はっ」
「ヴィヘム、お茶をお願い」
「かしこまりました」
短く告げたアルヴィナがエイギルらを部屋から追い出しつつ、改めて思考を纏めるように小さく嘆息する。
「……エヴァがヴィルマと一緒になって動いているなんて妙な話ね」
エヴァレスにとって、ヴィルマもまた特別な存在であった――という事実はない。ヴィルマがいくら『氷』の名を冠しているとは言えど、エヴァレスのスキルに抗える力がある訳ではないのだ。
それはイコールして、エヴァレスにとっても共に行動するというのは負担であるという意味を持っている。己のスキルを抑え続けなくてはならないのだから。
そこまで考えて――ふと、アルヴィナは悠を思い出した。
神の力でさえもスルーしてしまうという悠ならば、恐らくはエヴァレスの【
そう考えると、エヴァレスが悠に興味を持つ理由が分かるような気はした。
だが――いや、ならば、何故今なのだろうか。
ヴィルマについては理解できる。
わざわざ〈門〉の中で待ち伏せするという手段を講じたヴィルマは、エキドナに懐いていた。悠に表立って接触しようとすれば、アルヴィナはもちろんヴィヘムでさえも止めたはずだ。
しかし、エヴァレスについてはその理由が理解できなかった。
「……エヴァ。あなたが私に敵対する事はないとは思うけれど、一体どうしてそんな真似を……?」
アルヴィナの問いかけに、答えが返ってくる事はなかった。
そうした不安を抱いているアルヴィナが呟く、ちょうどその頃であった。
「エヴァレスさん、ここは……?」
「…………? 〈門〉の、中」
「なんでですのっ!? わたくし、お姉様の代わりに勇者に一言物申したいとは申しましたけれども、なんでこんな所にいるのかさっぱりですわ!?」
「……もーもー?」
「言っておりませんわっ!?」
アルヴィナらが語り合う一方、〈門〉の奥地。
ヴィルマは、目の前に佇む少女に全身全霊の力を以ってツッコミを叫んでいた。
「うぅっ、油断しましたわ……! まさかエヴァレスさんがわたくしの美しさに道を誤ってしまうなんて……! でも、お姉様とはまた異なる神秘的な美を持つエヴァレスさんが相手ならわたくしも――」
「……私の方が、可愛いよ?」
「認めはしますけれど、真顔で言われるのはなんだか癪ですのよっ!?」
確かにヴィルマもまた美少女であると言っても差し支えはないだろう。
薄い氷に水の色が映り込んだような、柔らかみのある青い髪に白いリボンのツインテール。肌はきめ細かく白い、町を歩けば十人中七八人は振り返るであろう十代序盤を思わせる美少女である。
しかし目の前に佇むエヴァレスを相手に自らの美少女ぶりをアピールできる程かと言われれば、首を傾げる者もいるであろう。
白磁のような肌、黒く艶やかな長い髪と黒曜石を思わせる黒い瞳に、魔族の象徴とも言える角は羊を思わせるようにぐるりと丸まっている。気怠げな様相もあってか、憂いを帯びたような顔はヴィルマとしても美しいと言わざるを得ない。
エヴァレスに至っては、十人中十人は間違いなく見惚れ、視線を釘付けにされかねない程である。
「それで、何故このような場所にやって来ているんですの?」
周囲には思念体の魔物がうようよと湧いている。
それらを一瞥するなり、虚空を撫ぜるように振るわれる細い手の先にいた魔物を、一瞬で氷漬けの氷像と化してみせながらヴィルマは問う。
「……ヴィルマが寝るから」
「まるでわたくしがだらしなく眠ったみたいに言いますけど、あなたのスキルのせいですわよっ!?」
ヴィルマのツッコミは決して責任転嫁や八つ当たりなどではない。
敬愛するエキドナの様子が変わってしまった事が気に喰わず、どうにか悠と会って一言文句を言ってやろうと歩いていた矢先にエヴァレスが現れ、事情を語っていたらそのままエヴァレスのスキルによって眠らされてしまったのだ。
しかしそれも、眠りと言うよりも、正確には止まってしまったというのが正しい。
とは言え、ぽわぽわと眠たげな空気を放つエヴァレスを責め続けていた所で意味などない。
ヴィルマは一つため息を零しつつも指をパチンと鳴らして氷像そのものを砕いてみせると、エヴァレスへと再び視線を向けた。
「エヴァレスさん、勇者に興味がおありなのです?」
「……ん」
「……はぁ。陛下と言いお姉様と言いエヴァレスさんと言い、魔王軍の中でもずいぶんとアクの強い方々に興味を持たれる御方ですわね、勇者は」
「……ヴィルマが、言う?」
「わたくしはちょっと百合と愛ある鞭が好きなだけのノーマルですのよっ!?」
それを人がノーマルと言うかは定かではないが、ヴィルマにとってみればそういうつもりであるようであった。
魔族随一の嗜虐趣味を持つエキドナ。
絶大なる力を持つ魔王アルヴィナ。
そして、〈十魔将〉の最強であるエヴァレスが興味を持つ存在。
それらがいかに異質な存在であると物語っているのかを、ヴィルマはよく理解している。
「……私は会わなきゃいけないの」
「それは……何やら訳ありという事ですのね?」
こくり、と頷いて肯定を示すエヴァレスの反応に、ヴィルマは再び盛大なため息を吐いた。
「いずれにせよ、エヴァレスさんとわたくしの目的は一致しているという事ですわ。ならば、わたくしとて否やはありませんのよ。ここにわざわざやって来たという事は、勇者もこの場所へとやって来るのでしょう?」
「……絶対来る」
「あなたがそう仰るのならそうなのでしょうね。でしたら、わたくしも乗りかかった船から降りるような真似は致しませんわ」
「……ヴィルマ……」
「れ、礼なんていりませんわよっ!? 真の淑女であり美少女でもあるわたくしとあなたの目的は同じですのよ! 多少の迷惑なんて気にする程のものではありませんわっ!」
「……私の方が、可愛いよ?」
「こういう台詞にまでそれは無粋というものですわよっ!?」
妙な掛け合いをしながら歩むヴィルマとエヴァレス。
二人と悠達との距離は、刻一刻と近づきつつあった。
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