4-18 赫月の一日 Ⅱ

 工房を教えてもらった後、保管していた魔石やらを召喚して出したり整理をしている内に、開け放っていた窓から声が聞こえてきた。

 とは言っても、知っている声などでもなく、そもそも喋り声と言うよりも、感嘆に漏れた後の小さな歓声とでも言うべきかの類で、なんだか姦しい。


 何事かと顔を出してみると、エルナさんと似たような、けれど色味の薄いメイド服に身を包んだ女性達とリティさんが何やら話し込んでいる姿が見えた。


「あっ、ユウさーん!」


 リティさんが目ざとく僕に気がついたらしく、何やらこっちに来いと言わんばかりに手を大きく振っている。

 エルナさんもちょいちょいと小さく手で招いているみたいだけれど、はて。


 ちょうど片付けも一段落してるし、何よりもこのまま部屋に引っ込んでスルーしてたら怒られそうな気がする……。

 せっかくだからロボの構想でも練ろうと思っていたんだけど、ここは本能に従って大人しく工房を後にし、外へと向かおう。


「……ねぇ、エルナさん」

「はい、なんでしょう?」

「すごく、見覚えがある人がいるんだけれども」


 さて、工房から出て外にやって来た僕の目の前には、今日から僕らの屋敷で住み込みで働く使用人――という名目で連れて来られた、数名の女性達。


 ――その中にいる二人組の親子の姿に、僕は思わず言葉を失っていた。


「……何してるんです、アムラさん」

「お久しぶりです、ユウさん」


 にっこりと柔らかな微笑みを湛えた、犬人族の女性――アムラさんが、語尾に音符マークでもつくのではないかと思わせる程度に軽やかに声をかけてきた。


 かつては〈魔熱病〉に苦しみ、艶を失っていた金色の髪とやつれ気味であった顔も健康的に膨らみ、力ないイメージが強い犬耳も今では毛艶の良いピンと立った耳をしていて、耳先の白い部分がピクピクと動いているように見える。

 その横にいる真っ白な白猫幼女――リルルちゃんもまた、以前のような浮浪児寸前といった空気もなく、僕に敵対心を剥き出しにしていたのが嘘のように、ニコニコと笑みを浮かべて僕を見上げていた。


 そう、この二人はアルヴァリッドで僕と対峙した、魔族の魔狼ファムが潜伏先に選び、洗脳されていた親子である。


 ……まぁ、何してるんです――とは言ったものの、二人揃ってこの場にいる意味は正直に言って判りきってるんだけどね。

 お仕着せ――要するにメイド服に身を包んでいるって事は――。


「こうしてここにいるって事は、まぁそういう事なんでしょうけど……」

「はい、二人共この屋敷で雇いたいと思っております」


 エルナさんが以前、アムラさんに対して随分と肩入れしていたのは知っていたけれども、まさかここで再会するとは思ってもみなかったよ。


「アムラさん。アルヴァリッドでの仕事があったんじゃ?」

「ふふふ、こちらの方がお給金も良かったですし、何より暮らしが保証されていますから。向こうでは少し働きにくくなってしまいましたので、困っていた所にエルナさんからお誘いをいただいたんです」

「働きにくく?」

「はい。雇い主の方がその、少々しつこくて、ですね……――」


 困ったように頬を掻きながら笑うアムラさんを見て、なんとなく察した。


 要するに、しつこく言い寄られてしまったものの、アムラさんとしてはあまり働きたくない空気になってしまったんだろう。


 実際、アムラさんの見た目は若々しい。

 実年齢自体がまだ二十代前半で、エルナさんより少し年上なのだけれど、以前は病気のせいでやつれていてあまり気付かなかったけれど、こうして体調が戻った姿は、むしろエルナさんと同い年ぐらいに見える。


 凛とした空気を放つエルナさんとは対照的な印象なのだけれども、こうして並んでいると歳の近い姉妹に見えなくもない。


 そもそもこの世界、十五で成人な訳で、結婚も早いのだ。

 まだまだリルルちゃんも幼いし、そう考えれば僕らとそう年齢が変わる訳ではないのかもしれない。


「――それで、ついうっかり殴り飛ばしてしまったんです」

「……ねぇ、エルナさん。アムラさんって確か……」

「はい、元冒険者ですね。とは言ってもレベルは二十程度だったとは思いますが」


 うふふふ、と笑いながら殴り飛ばした宣言をしたアムラさんは、元冒険者である。

 要するに、一般人より余程強く――更に言えば、僕なら致命傷にさえなりかねない一撃を見舞った、とでも言うべきだろうか。


 さすがは元冒険者とでも言うべきか、相手の人は当然ながらに結構な怪我を負ったそうで、それを語るアムラさんは誤魔化すかのように口元を隠して笑う。


 まったくもって隠しきれていない凶悪犯罪にしか思えないよ、僕には……。


 頬を引き攣らせた僕に、エルナさんがこそっと耳打ちしてきた。


「ちなみにユウ様。アムラさんはその件で一度アルヴァリッドの警備隊に捕まり、ユウ様のお金で保釈させていただきました」

「ふーん。別にいいけど、なんでまた?」

「オルム侯爵家が直接動いてしまっては、罪を隠蔽したと思われてしまいます。身内贔屓であると騒がれても厄介ですので、一時的にユウ様が身元引受人という形にさせていただいております。事後報告になってしまい、申し訳ありません。お金の補填は私が」

「いや、うん。エルナさんには色々お世話になってるし、補填とかはいいよ。むしろ僕の色々をやってくれている訳だから、そっちは僕からって事にしておいて」

「……よろしいのですか?」

「よろしいも何も、僕としてはそれぐらいしないと顔向けできないというか、ね……」


 今回の屋敷の工房の件と言い、普段からのあれやこれやと言い、そもそも僕はまだ何もエルナさんに恩返しなんてできていないし、僕のお金ぐらいで良ければ必要なら使っても構わない。第一、僕らの生活の面倒だって見てくれている訳だしね。


 そろそろエルナさんの給料を出したり、それでも遠慮されそうならプレゼントだったりで感謝の気持ちを表してみたりした方がいいのかな……。


 ――って、ちょっと待って。


「えっと、僕が身元引受人っていうと?」

「冒険者のように一般人よりもレベルが高い者が暴行事件を起こしてしまった場合、罪はかなり重くなるのです。保釈金も一般人ではなかなか払えず、当然ながらアムラさんにはその蓄えも、親戚もいません」

「……もしかしてだけど、それって……」

「お察しの通り、必然的に奴隷落ち、という事です」


 ……奴隷、落ち?


「って事は、つまり僕がご主人様的な?」

「そうなりますね」

「エルナさん、パス」

「無理です。ユウ様への借金が返し終わるまで、所有権はユウ様以外には移せません」


 ……なんていうか、ほら。

 僕だって色々なライトノベルを読んできたり、色々なサブカルチャーに手を出してきた訳なんだけれども、まさかこういう形で自分が奴隷を買う――正確には勝手に買われてしかも押し付けられた――って、聞いた事もないよ……。


 さすがにアムラさんの前で事情について聞かされるのはともかく、ここから先は僕が口にしてしまうとアムラさん達が困る事になるだろうと判断。エルナさんの腕を引いてアムラさんにちょっと待ってもらうように告げてから、一度離れた位置まで歩いた。


「正直、僕はあまり奴隷を持ったりとか、命を預かったりっていうのは嫌なんだけれども」

「……申し訳ありません」

「――なんて、言ってもしょうがないからね。気にしなくていいよ」

「え……?」


 まさかいきなり発言を翻すとは思っていなかったのか、エルナさんが目を丸くして僕をまっすぐ見つめた。


 僕だって、沈痛な面持ちを浮かべるエルナさんを見たい訳でもないし、だからと言って奴隷を持つ事を肯定したっていう訳じゃない。


 ただ、事情があるんだったらそれはそれとして割り切る、それだけだ。


「せっかく工房も手に入ったし、新しい魔導具を作る構想もあるからね。その助手として、リルルちゃんは難しいとしてもアムラさんには手伝ってもらえるなら、悪くはないんだよ。それに、せっかくだから「よろず屋」もそろそろ動かしていこうと考えているからね」

「ユウ様……」

「エルナさんも、僕の事を考えて僕の周囲に気心の知れたレベルが高い人を置いておきたい――そうなんでしょ?」


 アムラさんとそれなりに親しいとは言え、本来エルナさんはそこまで強引な手を選ぶような人じゃないと僕は思っている。


 僕の護衛としてリティさんがいるけれど、リティさんだって少しずつエルナさんに矯正されて……――あれ、矯正の反動か僕の前ではただのポンコツエルフになっているような……――いや、うん。


 リティさんだってこれから、僕の護衛として頑張っていく事になるだろうし、僕の近くに僕が恩を売れて、かつ一般人以上のステータス所有者で元冒険者を手に入れられる機会は少なく、アムラさんはその条件に適していたからこそ、今回は少し強引な手を打ったのだろう。


 そんな事を考えて告げてみせると――エルナさんが唐突に、僕の頭をひっしりと抱き締めた。


「――ッ!?」

「……ありがとうございます、ユウ様」


 柔らかで、意外と豊満らしい胸に埋まるような形になった僕の耳に届いたのは、なんだか今にも泣き出してしまいそうなぐらい、どこかか細い声だった。


 エルナさんも多分、僕がそういったエルナさんの狙いに気付くと予想して、今回はこういった形を取ったのかもしれない。


 ――僕らはお互い、何処か似ている。

 他人を他人として割り切っている所や、本音の部分では何処か信用しきれていない所が。


 ジーク侯爵さんとのやり取り、そしてアルヴァリッドでの兄であるシュットさんや、義理の姐にあたるアシュリーさん。更には元婚約者であったらしい、エルバム公爵家の次期当主であるヴェルナーさんとの距離感と、かつて世話になったオフェリアさんとのやり取り見ていて、僕はそんな事をどこかで確信していた。


 僕が柄にもなく、さっき佐野さんに答えてしまったのは――もしかしたら、僕もどこか、変わろうとしているから、なのだろうか。







 そんな事を考えながら――僕は窒息しかけているという事実を訴えるべく、エルナさんの腕を叩いた。







「す、すみません、ユウ様っ! つい……!」


 エキドナとの戦いを終えたあの後の、まさかのベアハグを再び彷彿とさせるような勢いである。メキメキと骨が鳴っているような気がしたのは、きっと気のせいなんかじゃない。


 あの時よりも力が強いと実感させられる辺り、レベルが上がってステータスが上がったんだろうとか、そんな事を朦朧として薄れかけた意識の中で実感させられた気がした。










 ◆ ◆ ◆









 ――ディートフリート劇場。

 メインホールの舞台上では本番に向けたリハーサルが進められ、それぞれに楽しげに、しかし肌を刺すようなピリッとした空気を醸し出しつつ本番に向けた最終調整が行われている。

 演奏者にとっても、このディートフリート劇場で大勢の観客を前に演奏するというのは名誉な事であり、当然ながら誰一人として力を抜くような真似もしていない。


「いよいよッスね、モーリッツさん……!」

「……あぁ、そうだな」


 今回のコンサートで使われる魔導具関連の責任者である、病的にすら見える程に痩せ細った男――モーリッツは、舞台上を眺めながらも自らも偉業に携わったのだと実感に震えるながら声をかけてきた若い魔導技師の声に、どこか感情のない返事を返した。


「どうしたんッスか? ディートフリート劇場での公演で、しかも責任者として仕事を任されたんッスよ? モーリッツさん、いつかはやってやるって昔っから言ってたじゃないッスか」

「……うるせぇ……ッ!」

「王都内でデカい仕事があるとかで親方はそっちにかかりっきりになっちまいましたけど、今回成果を残せば――」

「うるせぇって言ってんだッ!」


 若い男に向かって、モーリッツが大きく声を荒らげた。


 日頃から、魔導技師は職人が多く、本番を控えた他の者達は何かと意見のやり取りから騒ぎが大きくなってしまい、その結果として口論に発展する事も珍しくはない。


 確かに普段ならば「あぁ、またか」と他人事として見て見ぬフリをするものだが、今日はコンサートの本番当日である。

 敏感になっている演奏者達、段取りを確認していたアシュリー。そして壇上で立っていた朱里はきょとんとしていたものの、他の者達は一様に咎めるような視線をモーリッツへと向けた。


 モーリッツはそんな視線を受けると、苛立ちを隠す様子もなく一つ舌打ちして、観客席から去っていく。


「ねぇ、何があったのかしら?」

「す、すんません! ちょっとした世間話のつもりだったんッスけど、なんかモーリッツさんが急に怒りだしちまって……」


 アシュリーの問いかけに、まだ若い魔導技師の青年が困ったように頭を掻きながら続けた。


「やっぱ、昨日の夜のアレが原因なのかなぁ……」

「昨日の夜?」

「あっ、いや、なんつーか……。モーリッツさん、昔っから実力はあったんッスけど、ウチの工房は親方が凄い御人なんッスよ。でも親方、今回は王城からの仕事を受けちまってて、このコンサートは親方が受けれなかったんッス。そこで、初めてデカい仕事でモーリッツさんが責任者って事になったんッスけど……」

「そう、なのね。でも、仕事はしっかりやってくれていると思うけれど?」

「あ、それはもちろんッス。一応、工房に帰ったら毎回親方に相談して報告してるんで、何か間違いがあったり改善点があったら、親方が指摘してくれやすんで。ただ、昨日はなんだかすっげー言い合いしてて……」


 青年の話からなんとなく背景が見えてきたアシュリーは、モーリッツが去って行った方向へと視線を向けた。


 お世辞にもモーリッツは若くない。

 実力があると青年は評しており、アシュリーが見てきた限り、これまでの仕事の対応も決して他の技師と比べても見劣りするものではなかった。


 だが、それでも自分の工房を持とうともせず、親方が今まで仕事を任せて来なかったという事は、それは何かが足りていないという証左でもある。


 魔導技師に求められる仕事は、完璧なモノを作り出す事だ。

 まして今回のコンサートでは多くの貴族なども招かれており、かなり大規模な催しとなっている以上、いくら現場を任せたとは言え、青年やモーリッツが所属する工房の親方としては、やはり口を出さずにはいられなかったのだろう。


 それが理由で口論になったのではないだろうかとアシュリーは当たりをつけた。


 ――いずれにしても、本番当日にこんな騒動を起こしてしまうだけで、次も彼に頼むかと訊かれれば答えは決まってしまうわね。


 冷静に心の中で小さく呟いて、アシュリーは手を叩いてリハーサルを再開させた。









 ――――モーリッツという男は、アイゼンから見れば二流の魔導技師である。


 魔導技師に求められる繊細な刻印には、余程の集中力が必要となる。

 スキルを得ていようとも、スキルを扱えば誰でも一様に思い通りの魔導陣を描ける訳ではなく、確固たる想像力に加えて、余程の集中力がなければ歪な線が描かれてしまう事もあるのだ。

 ましてや刻印する対象は魔石であり、綺麗な球体をしている訳でもなければ、表面には不規則な凹凸が存在しており、そこに刻みつけるというのだから難易度は尋常ではない。


 生来の気性が決して穏やかとは言い難く、性格は神経質で過敏。

 自らの作業が上手くいかなければ苛立ちを隠そうともせずに態度に表してみたり、己と向き合うような職人の世界にはお世辞にも向かない性格をしているのが、モーリッツという男の本質だ。


 それでも彼が魔導技師の道を歩んでいるのは、幼い頃に両親に売られるように丁稚として現在の工房に足を踏み入れたが故に、自らに向いている仕事というものを知らず、ただ流されるように魔導技師の道を進み続けてきたからである。


 何年も、何十年も工房で働き続けていれば、それなりの技量は身につく。

 簡単な刻印ならば正確性も増し、一般的な魔導具工房ならば一人前を名乗っても問題ない程度までは実力を伸ばす事も可能ではあったが、惜しむらくは彼が入った工房では程度はゴロゴロいるような場であり、求められるのはであった点だろうか。


 故にモーリッツは、これまで一度たりとも師には認めてもらえず、自分よりも若く経験も少ない者には次々に追い抜かれてしまった。


 若い頃は奮起し、「自分ならできる」と工房の親方に何度も自ら提案した事もあったが、その答えはいつも変わらず頭を振るばかり。


 ――どうして自分ばかりが。

 ――私にもチャンスさえあれば。


 そんな気持ちばかりが募り、いつしかモーリッツは腐り始めていた。


 いつしか自分の実力を認めさせるべく腕を磨くのではなく、ただただ「チャンスさえあれば」と周囲の環境が理由で自分は大成できないのだと思い込み、自分自身を省みようとなどするはずもなかった。


 ――しかし、そんな彼に転機が訪れたのは、およそ半年前の事である。


「――王都内で、とある事件を引き起こしてほしい」


 酒場で酒を呷り、管を巻いていたモーリッツへと突然声をかけてきたのは、目深に頭巾を被った一人の男であった。

 確かに工房では相変わらずうだつの上がらない日々ではあるものの、さすがに事件を引き起こせなどと言われても人生さえも棒に振った記憶にはない。


 当然ながら、唐突な提案にモーリッツは難色を示したが――しかし男は続けた。


「我が主は貴殿のような者を欲している。この仕事が上手くいけば、貴殿の望みでもある個人の工房を建てるお金を用立て、さらに看板に相応しいだけの名声を喧伝しよう」

「……胡散臭いな。見ず知らずの相手の、ましてやそんな旨すぎる提案に尻尾振って乗るような馬鹿はいないんじゃないか?」

「確かにその通り。しかし、忘れてはいないか? ――こういう機会をにできなかったからこそ、今の貴殿があるのだと」

「――な……ッ!」

「ハッキリ言ってしまえば、貴殿の代わりなど。ここで手を取らなければ他の者がこの好機を手にするまでだ。他の者が、貴殿よりも若い者、貴殿よりも実力がない者がこの好機を手にし、成り上がっていく様を指を咥えて見ていたいと言うのなら、話はここまでだ」


 あまりにもあっさりと、男は踵を返して酒場の外へと歩いて行く。

 その姿を見つめつつ、モーリッツは逡巡した。


 ――果たしてこのまま行かせてしまって、本当に自分は後悔しないのだろうか。

 このまま腐ってしまうのならば、いっそ男の言う通りに全てを投げ打ってでも掴みに行った方が、マシなのではないか。


 そんな考えが脳裏を過ぎったかと思えば、モーリッツは慌てて金をその場に置いて男を追いかけるように酒場を飛び出していた。






 客席を怒りに任せるかのように飛び出したモーリッツの表情は、決して怒りを孕んだものではなく、いっそ怒りとは程遠く、ほくそ笑んですらいた。


「――予定通りだ」


 ニタリと口角をあげて呟きながら、モーリッツはディートフリート劇場の地下にある倉庫へと向かっていた。


 王都内で起こる器物損壊事件は、全てに事が進んでいる。

 陽動に似たような落書きを施した箇所まで作っては捜査を撹乱させ――ついには最後の一箇所を残すのみ。


 それこそが、このディートフリート劇場の地下。

 現在では王都の北寄りに位置する劇場ではあるが、かつて王都が築かれた際にはであった、この場所。


「これで私は認められるのだ」


 劇場の地下倉庫。

 その中心地へとやってきたモーリッツが、大きな布に隠されたその場所の中心を白い塗料で繋いでみせた瞬間、それはぼんやりと淡い光を灯した。

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