3-17 悠の新たな戦闘法 Ⅱ



 

 ――――そもそも、だ。




 攻撃用の魔宝石ジェム――魔石にあらかじめ刻印したものをそう呼んでいるのだけれど――を使おうとしたところで、ステータスなんていう理不尽極まりない格差が広がっているのは事実なわけで。当然ながら、そんな僕の投擲が当たるはずがない事ぐらい、誰よりも僕自身が確信している。


 詰まるところ、さっきまで投げていた魔宝石は決して攻撃用の魔宝石ではない。

 最初から、さっきまでの鬼ごっこでの僕の目的は、「世界樹を囲むように円状に逃げながら魔宝石をばら撒くため」のものだったのだ。


 魔導具には役割を指定した刻印が必要だ。

 さっきから投げつけていた魔宝石の全ては、攻撃用の魔宝石なんかではなく、大掛かりな魔法陣を発動させるための一つのパーツの役割を果たした代物。一つ一つに細かい刻印を刻み込み、それらは繋がる事で始めて魔法陣として機能する。

 これが例えば、ラティクスを守る〈エスティオの結界〉なら、巨大な魔石一つが全ての動力と刻印をまかなえていたけれど、魔石の大きさによっては刻印できる大きさだって限界ってものがある。

 アルヴァリッドに仕掛けた【敵対者に課す呪縛】や、僕がアイリスに向かって投げつけていた魔石は、その欠点を補うべく作られた僕なりの工夫だ。一つ一つの魔石に与えられる役割は小さくても、細分化と連結によって巨大な魔法陣を構築させるという方法を取っている。


 僕がアイリスに向かって投げていた魔石を、密かにアイリスの後方からついてきていたミミルが指定した位置を調整する事に、アイリスだってさすがに気が付いていなかっただろう。

 ちらりと見れば、ミミルが得意気な顔で僕を見つめながらサムズアップしている。

 うん、いい仕事をしてくれたよ。




「――【精霊化アストラル】、発動」


 どこか感覚が希薄になるような、立ちくらみにも似たような酩酊感を覚える。

 地面についた手から光の線が大地を疾走はしり、それらが先程アイリスに向かって投げ続け、転がった魔宝石同士を繋ぐかのように線が描かれていく。


 突如として現れた光の線と、その内側にいるエイギルとアイリス。

 そして、世界樹を介して姿を見せた魔族。

 僕が手に入れた、唯一にして奥の手とも言える攻撃の為の、これ以上はない程のが、そこには揃っている。


「やらせんッ!」

「そうはいかぬッ! お主の相手は妾じゃ! ブリッツ!」


 エイギルは何かに気が付いたのか、僕の邪魔をしようと動き出すも、アリージアさんがブリッツと共にそれを制するべく雷撃を放った。ブリッツの額に生えた角から放たれた青みがかった白い雷撃がエイギルへと迫る。

 さっきは片手で払ってみせるかのようにブリッツの攻撃をあしらってみせていたけれど、いくらエイギルとて、どうやら魔力障壁を強化しないとブリッツの雷撃を直接受け止められるような代物ではないらしい。

 初動から発動までの早さで勝るアリージアさんの一撃が、見事に足を止める事に成功した。


「アイリス! やらせるな!」

「――残念、準備は整ったよ。【魔力喰らいの監獄】」


 繋がった外枠とも言える円が輝きを増して――刹那、大地から鎖を模した光が世界樹から現れた魔族を次々に捕らえていく。

 それでも、さすがは仰々しい名前の〈十魔将〉とやららしく、アイリスとエイギルは素早く襲いかかる鎖を避けてみせている。

 何あれずるい。


 効果範囲の外に出ようとする他の魔族に追従するかのように、囲った光の線の外まで二人が出ようとした瞬間、光が一際強く輝いて魔族を逃がさないように障壁が生まれ、弾き飛ばされた魔族を今がチャンスだとでも言いたげに襲う、光の鎖。

 効果範囲の外に素直に出させる程、僕は優しい性格なんてしちゃいない。

 アイリスとエイギルは障壁にぶつかるようなヘマこそしなかったものの、さすがに【魔封殺の結界】という重力結界のせいもあってか、徐々に動きが鈍くなっていく。


 やがて、二人の動きを追い詰めるかのように飛びかかり続ける光の鎖が、二人の足と腕を掴んで、一斉に大地へと叩きつけた。


 完全に封殺する形となった結界の内側を呆然と見つめていたアリージアさんが、我に返る。僕に事態の説明を求めようとこちらへ視線を向けた瞬間、大きく目を見開いた。


「ユウ殿!? それは一体……!?」

「この一撃で、全てを終わらせる。多分この一撃が限界だから、後は頼んだよ、アリージアさん」


 先程発動させた【精霊化】によって、存在がまるで半透明の幽霊よろしく透けている僕の姿を見たアリージアさんに、要点だけ伝える。


 魔族を捕まえているあの光の鎖は、正式に言えば【吸魔の鎖】と名付けている。

 捕らえた相手から魔力を吸い上げる機構は、元々【敵対者に課す呪縛】で構築してあったけれど、あの【吸魔の鎖】は代物だ。

 本来の、レベル一で常人でしかない僕であったならば、大量の魔力を吸いあげる事は不可能だ。むしろ、肉体を維持していてはあまりに膨大な魔力のせいで、内部から破裂する可能性すらあるというのだから恐ろしい。


 けれど――僕が得た〈精霊神の加護〉と【精霊化】があれば、このリスクを完全に制御できる。


 今回、アーシャルさんから与えられた〈精霊神の加護〉によって僕が得た力は、身体全体を魔力で構築している精霊と同じ身体を手に入れる、【精霊化】というスキルのみ。

 神々の力によってこの世界に顕現した赤崎くん達と違い、僕はアーシャルさんから聞いた話によれば、神々の力の残滓と赤崎くん達自身によって生み出された精霊にも近い存在だ。だからこそ、この【精霊化】というスキルを覚える事ができた。

 このスキルを発動すれば、身体そのものを精霊に近づけられる。元々精霊は魔力体と言われ、魔力そのものによって身体を構成していて、特にスキルがなくたって魔力を操れる。

 これを限定的に常態化させたのが左手の手袋の正体だったりする訳だけれど――ともあれ、身体全体が今こうして幽霊よろしく透けているのは、言葉通りに僕自身の身体が【精霊化】しているせいだ。


「覚悟してね。これ、本気でぶっ放すのは初めてだから、どうなるか分かったもんじゃないんだよね」


 光の鎖に地面よって、地面に磔にされるような形で自由を奪われ、魔力を喰われているエイギルとアイリス。そして世界樹からやってきた魔族達に向かって、一応の宣言をしつつ、右手の小指と薬指を曲げて召喚。

 指を曲げることで召喚する道具につけられた番号が変わり、指定通りのが召喚された。


「そ、それは……?」


 僕の右手に召喚されたそれを見て、アリージアさんが驚くのも無理はない。

 剣と魔法の世界だっていうのに、僕の右手に召喚したのは、ぱっと見れば対物ライフルをさらに巨大化させたかのような、黒く巨大な銃身。

 その中心部に予め用意された型の位置に、初代勇者が作ったと思われる魔導銃〈特異型ノ零〉をはめ込めば、魔法陣さながらに青い光の線が銃身のあちこちへと走っていく。


 魔力を充填させる魔器が、〈特異型ノ零〉では一つしかつかないのに比べ、銃身の外についているこれは、〈特異型ノ零〉を僕のオリジナルの武器に変える為の、謂わば増幅器のような役割を果たしている。

 エキドナ戦で〈特異型ノ零〉がそのままの一撃じゃ通用しない事ぐらい、僕だって重々承知している。それを改良しただけじゃ、やはりさっきもアイリスによって防がれた。


 正真正銘の、起死回生の一手に使う為だけの武器。

 こういう時の為だけに用意した、僕の正真正銘の奥の手――の試作段階とも言う――だ。


 手に構えた魔導銃――いや、もはや魔導兵器とでも呼ぶべきそれを、持ったまま『魔導浮遊板マギ・フロートボード』で上空へと上がり、そのまま滞空した状態で集まる魔力を魔導兵器へと流し込む。


 剥き出しになった四つの魔器が、徐々に輝きを増していく。


「ぐ……ッ、クソッタレがああぁぁッ!」


 半ばヤケクソ気味とでも言うようなアイリスの放つ、炎の魔法。あちこちへと一斉に散開したまま僕とそれを阻止しようとするアリージアさんへと襲いかかった。

 アリージアさんはブリッツに跨って避けてみせ、僕はウラヌスによって魔法は完全に阻止する事に成功した。


 あと僅かで充填が完了する。

 その時だった。




 ――――ぞわりと文字通りに身の毛もよだつような気配を感じて、僕は世界樹の入り口へと目を向け、目を瞠った。




「アリージアさん、下がってッ!」


 大気を揺らすような、ドンッと身体の芯まで響くような音が聞こえてくるとほぼ同時に、僕の方でも充填を完了した魔導兵器が青白い巨大な光を放出させた。


 エイギルとアイリス、それに魔族の集団――ではなく、狙いはその手前側。

 アリージアさんへと向けて放たれた、赤くバチバチと音を立てながら迫ろうとしていた、黒く巨大な光の一撃に対する防御に回さざるを得なかった。


 互いの光が激しくぶつかり合い、強烈な衝撃に大地が砕ける。

 その光景を眼下に見ながら、けれど僕の顔は明らかに強張っていただろう。


「そんな……、押し負けてる……ッ!?」


 世界樹から突如現れた何者かが放った一撃は、魔族の魔力を奪った僕の一撃を以ってしても止まりきろうとはしない。それでも拮抗し合う巨大な一撃同士のぶつかり合いは、アリージアさんが退避する程度の時間は稼げたらしい。

 激しく光をぶつけ合った互いの一撃は強烈な爆発を引き起こし、【精霊化】が解けた僕は中空でその衝撃に耐え切れるはずもなく、情けなく後方へと吹き飛ばされて大地を転がった。


 足から離れた『魔導浮遊板』に目もくれず、痛みを堪えながら顔をあげて、さっきの一撃を放った何者かを見やる。


「――私の一撃を止めるなんて、なかなかやるじゃない」


 爆発が収まり、その一撃に呑み込まれて息絶える魔族達の、その奥。

 さすがにあの強烈な余波に無傷とまではいかなかったらしく、傷を負う姿に変わったアイリスとエイギルの、さらにその奥に――そいつは佇んでいた。


 黒い髪に、赤い瞳。

 赤黒い、可視化できる程の魔力をその身から溢れ出す、異質の存在。

 エイギルとアイリスの奥に佇み、片手を翳したまま笑った。


「初めまして、当代の勇者」


 ソレは妖艶とも言える女性だった。

 大きな瞳と、側頭部から額にかけて巻き込むように伸びた角を有し、黒く胸元の空いた、マーメイドラインのドレスに身を包んだ、異質。


 本能が、理性が。

 全てが警鐘を鳴らして、即座にこの場から逃げろと訴えているような気がしてならない。


「……魔王……」

「ふふ、自己紹介はいらないみたいね。そうよ、私が魔を統べる者――魔王アルヴィナ。何やら面白そうな気配がしてるから、きちゃった」


 アリージアさんの呟きに、僕は驚きよりもむしろ納得させられた。

 エイギルやアイリスはもちろん、かつてエキドナと対峙した時でさえ、ここまでの恐怖を身に感じた記憶はない。


 ――アレは明らかに強者だ。

 身体が震えずに済んでいるのは、無様に転がったせいで身体が鈍痛を訴えているせいで、恐怖に対する信号を遮断してくれているから、だろう。

 でも、それがかえって頭を冷やしてくれているというのだから、皮肉なものである。


「……そんなピクニック気分で来られても迷惑極まりないんですけどね。渾身の一撃を止められて、こっちはもう打つ手なんてないんですが」

「あら、そう? ――なら、これからこのまま蹂躙してしまえば、面倒な勇者を討つのも楽になりそうね」


 立ち上がりつつ、「冗談じゃない」と本音が口を突いて出ようかと言うところで、魔王と名乗る女性はくすりと悪戯でも成功させたかのように、小さく笑った。


「なんて、ね。このまま戦うのも悪くないけれど、今戦うのはあまり良くないみたいだし、遠慮させてもらうわね」

「え……?」

「陛下、何故です! 今なら――ッ!」

「黙りなさい、アイリス」


 アルヴィナの一言で、アイリスがびくりと震えるように肩を揺らし、視線を落とした。

 エイギルの言う事を聞く時の渋々と言った感じとは全く異なる、純粋な恐怖すら覚えているのではないかと思わせる意外な動きに、僕とアリージアさんは揃って目を丸くしながら、推移を見守っていた。


「エイギル、撤収を」

「……お言葉ですが、陛下。アイリスの言い分もあながち間違ってはいないかと」

「エイギルらしくないわね」

「アイリスと対立するばかりといった訳では……」

「違うわよ。――

「な……ッ!?」


 愉しげに僕を見つめながら告げる魔王アルヴィナと、彼女の言葉に目を剥いたエイギルとアイリスの視線が僕へと向けられる。


「ねぇ。あなた、エイギルとアイリスを相手に力で対抗できるようなタイプじゃないわよね? ――なのに、呼び出した肝心の助っ人がこの場所には来ていない。何かまだ布石を打たれていると考えるのだって別に不思議じゃない。そうでしょう?」


 その問いかけに、僕はどう答えるべきか逡巡した。


 今頃、赤崎くん達が防衛してくれているであろう、この〈界〉の外であるラティクスでは、細野さんがラティクス全体に使う【敵対者に課す呪縛】の為に動き回っている頃だ。

 どういう訳か、あの魔王アルヴィナは――それに気が付いているみたいだ。

 実力だけでも僕の魔導兵器と軽々撃ち合える程の実力を持ち、かつエイギル以上の思慮深さを見せ、絶対に油断してくれるようなタイプには思えない相手。


 ――お手上げだ。

 ハッキリ言って、今のまま戦うなんて事になったら、きっと僕は数十秒と保たずに二度と目覚めない眠りに就く事になるだろう。


「……魔王は絵に描いたようような脳筋的な性格でもしているのかと思っていましたけれど、随分と頭がキレるみたいですね」

「あら、褒めてくれるの?」

「いえ、皮肉ですが」

「ふふっ、でしょうね。まぁいいわ。エイギルとアイリスなら失敗はないと思っていたけれど、暇潰しに監視の目を飛ばしていて正解だったみたいね。あなた、名前はなんて言うの?」


 ……ここで「教えるわけないでしょ」とでも言ってやりたい気分だったりするけれど、あまり下手に先延ばししても、面倒事にしかならない気がするんだよなぁ……。


 諦めるようにため息を吐いて、僕は右手に未だに持っていた魔導兵器を送還した。


「……二度と会いたくもありませんけど、そっちに名乗って貰った以上、僕も名乗っておきます。ユウです」

「そう。ユウ、ね。あなたの名前、憶えておくわね」

「そりゃ有り難きってやつですね」

「ふふ、素直に光栄って言ってくれればいいのに、可愛げがないのね。でも、今回はあなたに免じてここまでにしてあげる。、ユウ。――アイリス、エイギル。帰るわよ」


 世界樹が開いた門の中へと、魔王アルヴィナに率いられて戻っていくアイリスとエイギル。そんな二人の姿を見て撤退を悟ったらしい魔族達も、僕らに向かって牙を剥くような表情を浮かべながらも世界樹へと入り込んでいく。


「……引き上げた、のか……」

「そのようじゃ。しかし……」


 戦っていれば、まず間違いなく僕らは殺されていた。

 そんな知りたくもなかった現実を突きつけられる形で、勝ちを譲られた今の状況に釈然としないのは事実だけれど――さすがに僕ももう魔力がすっからかんで、身体もさっきの爆風で叩きつけられたせいで、痛くてしょうがない。


「まぁ経緯はともかく、結果としてここで食い止めきれたのなら僕らの勝ちって事でいいよね……?」

「……釈然とせんが、一応の勝利じゃな。――っと、ユウ殿……!?」


 与えられた〈精霊神の祝福〉はともかく、【精霊化】は僕の身体から魔力だけじゃなくて、体力さえも根こそぎ奪ってしまったらしい。


 ――あぁ。今回もまた、なんだか格好がつかない勝ち方だったなぁ。


 薄れつつある意識の向こう側にそんな想いを馳せつつ、僕は文字通りに力尽きてその場に倒れ込んでしまったのであった。









◆ ◆ ◆








「気に喰わない、とでも言いたげね。アイリス?」


 世界樹という世界を繋ぐ扉を使い、リジスターク大陸より遥か南南東に位置する魔王城へと戻ってきたアルヴィナは、伴っていた二人の魔将と共に玉座の間へと戻るなり、愉しげな物言いでアイリスへと訊ねた。


「あの場所で勇者を殺したかったのかもしれないけれど、邪魔しちゃったかしら」


 跪いた二人の魔将とアルヴィナしかいないその場所に響いたアルヴィナの声は、先程からどこか弾んでいるようにも聞こえて、二人は奇妙な違和感を覚えていた。


「〈十魔将〉の二人でさえ足止めされ、更には陛下の手を煩わせるなど。万死に値しますね」

「あら、ヴィヘム。帰っていたの?」

「それはこちらのセリフでございます、陛下。ならいざ知らず、わざわざ御身を敵前に曝け出すような真似をされては困ります」


 白髪に色白の青年。燕尾服を身に纏い、アルヴィナとは異なりこめかみあたりから天を突くかのような「L」字にも似た角を持った魔族ヴィヘムの言葉に、アルヴィナが口を尖らせた。

 ラティクスの状況については、〈エスティオの結界〉から魔物が入り込んだ後、アルヴィナはスキル【千里眼】を併用した使い魔を通して知り得ていた。本来ならばそれを見ているだけで我慢するはずであったアルヴィナは、唐突に行動を開始し、わざわざ世界樹の元にまで出向いたのである。

 いくらアルヴィナとて、そこまでの真似はしないだろうと踏んで一人にしてしまったのを後悔しているヴィヘムだ。苦言を呈したくなるのも無理はなかった。


「だって、せっかく逢えたんですもの。もうちょっとお話ししたかったのに、自己紹介するばかりで終わっちゃうなんて」

「エキドナを破り、アイリスとエイギルを相手にしてもなお生き残った勇者、ですか。それ程までの実力を持っているのですか?」

「どうかしらね。の強さは、ただ腕っ節が強かったり多彩な魔法を操ったり、そういったものとは全く異なっているわ」


 そう語ってみせるアルヴィナの顔は、まるで悠を敬愛でもしているかのような陶然とした表情を浮かべている。アイリスとエイギルも「あの御方」との呼び名に思わず顔を上げてしまったが為にその表情に我を忘れたかのように見惚れ、一方でヴィヘムは困った様子で頭を振った。


「……困ったものですね。〈星詠み〉もおかしな事を言ってくれたものです」

「あら、に対してその言い方はないんじゃない、ヴィヘム?」

「その気になっているところで申し訳ありませんが、その者が勇者である以上、我々にとっては敵です」

「それは大丈夫よ」


 くすくすと、アルヴィナは妖艶な笑みを浮かべて続けた。





「――あの御方は、。〈星詠み〉の言葉は絶対よ」





 ――その時は、私が守ってあげなくっちゃ。

 そう恋する乙女もかくやと言わんばかりの笑みを浮かべながら告げるアルヴィナ。




 彼女に告げられた〈星詠み〉の言葉。




 その真意を知るのは、まだまだ先の話となる――――。


 

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