Ⅰ 後編 魔族エキドナ襲来

1-5 魔導銃と冒険者ギルド

 僕らは平々凡々で、穏やかで和やかな高校生。

 そんな僕らが肉弾戦で魔物を相手に切った張ったの大立ち回りができるはずなど、まず有り得ない。


 それでも剣に憧れた赤崎くんと、槍にロマンを感じた加藤くん。

 そして、まさかの空手経験者である佐々木さんは、前衛を希望した。


 正直、僕には絶対に真似できない。


 ともあれ、クラスのみんなは少しずつ迷宮へと入り、レベル上げと自分のスキル育成の為に汗を流している。


 




 ――――迷宮都市へとやって来て、更に三日。





 僕だけが――まだ迷宮に入っていなかった。





「遊びにきちゃった!」

「ガキが遊びに来るトコじゃねぇっつってんだろうが!」


 僕が今やって来たのは、魔導具工房――〈アゼスの工房〉。

 迷宮都市アルヴァリッドは、先述した通りに迷宮産の魔導具なんかが目玉商品として売りに出されている。

 迷宮産の〈古代魔装具アーティファクト〉を修理したり、量産できる形態にまでダウングレードしてみたりと、多くの職人さんで賑わっているお店だ。


 ちなみに、僕に向かって叫んだのはこの工房の親方でドワーフの、アイゼンさん。名前が妙にカッコ良く、親方気質で男前――但し僕より背が低い。


「アイゼンさん。僕の武器まだ使えないんですか?」

「チッ、相変わらず人の話を聞かねぇヤツだな。おめぇさんが持ってきたのは難しい武器だからな。時間がかかるっつっただろうが」

「えー、せっかくシュットさんから貰ったのにー」

「……ったく、なんなんだ、おめぇさんは。領主んトコの坊っちゃんから〈古代魔装具アーティファクト〉なんてもん貰ってくるなんてよ」


 僕はみんなより一足先に使う武器が決定している。

 というより、シュットさんの暴走による決闘寸前の騒動のお詫びという事で、シュットさんの趣味である〈古代魔装具アーティファクト〉コレクションの中から気に入ったものを一つ貰っていいとアシュリーさんに言われ、遠慮なく凄く高そうで強そうなものを選んだのだ。


「修理費用も屋敷に回せってんだ。何しやがったんだ、おめぇさん」

「善意からの贈呈ですよ?」

「嘘臭ぇ」


 何故バレたんだろう。

 あの時のシュットさんの絶望に染まった顔は、正直見るに堪えないものがあったよ。だからそれにしたんだけども。


 あれ以来、シュットさんは僕を目の敵にするのは辞めたそうだ。

 エルナさんが滾々と説得した結果、「……敵に回したくない」と最終的に折れる形になったらしい。

 なんだか酷い言われようだ。


 まぁ変に突っかかられるよりも楽なので、詳細を訊ねる気にはならないし、放置する事にしてる。


「それで、実際進捗はいかがです?」

「……チッ、女やガキみてぇなツラしてると思えば、急に商人みてぇな顔しやがって。ちょっと待ってろ」

「はーい」


 アイゼンさんが奥に引っ込むのを見送って、僕は店内を歩きながらこの三日間を振り返っていた。


 この三日、僕はこの迷宮都市を練り歩いていた。

 クラスのみんなが冒険者の人達と一緒になってレベル上げしている最中に、僕だけがこんな風に歩き回っているのは、ここで修理している〈古代魔装具アーティファクト〉が理由なのは大きいのは事実だけど、それだけが理由ってわけじゃない。


 クラスのみんなが前向きにこの世界で生きるために日々を過ごす中で、僕だけは勇者召喚の情報を探している。

 あわよくば、あちらの――僕らがいるべき世界との繋がりを見つけるために。


 僕らは確かに死んだのかもしれないけれど、こうして生きている。

 僕はともかく、家族に未練があったり、追いかけている夢があったり、なし崩し的に向こうの世界に帰れないからと諦めているみんなも、心と生活が落ち着けばホームシックにもなるだろう。


 それでも僕らは懐かしむばかりで帰る事ができない。


 初代勇者が残した数多くの伝承を見る限り、恐らく初代勇者もまた日本人だと思われる。

 彼はまさにラノベの召喚者よろしくチート的な力を用いて魔族らと戦う一方で奴隷ハーレムを築き上げた。ファルム王国を救った勇者は、そのまま世界各国の窮地を救い、仲間と共に人々の前から姿を消したそうだ。


 権力争いに辟易として人々の前から姿を消したと言われている勇者だったけれど、最終的には自分で村を興して町を作り、やがては国を作った。封建制度の国が多い中、日本と同じ民主主義国家を。

 まぁ日本は資本主義の側面もあるけれど、それはさて置きね。


 それが今もなお残る、ヤマト議会国だ。

 最高評議会によって支えられ、決して他国を侵略せず、侵略された時のみ立ち上がる者達は、初代最高議長であった勇者――リュート・ナツメの意志を継いでいるそうだ。

 名前がいかにもなのは、きっと初代勇者も望郷の念があったのかもしれない、などと考えてしまった。


 ヤマト議会国は日本の文化を再現した国だそうなので、機会があれば行けるように情報を収集している。


 けれど、これは裏を返せば――ヤマト議会国で我慢しろ、と暗に告げるようなもの。

 つまりは、絶対に僕らは帰れないと突き付ける行為でもある。


 僕が調べた情報は、所詮気休めにしかならないし、それも分かってはいるんだけれど、ね。


「あん? なにシケたツラしてんだ?」

「失礼ですよ? だいたい、髭もじゃの密林ほど湿気てないと思います」

「失礼なのはおめぇだろうが! ……ったく、口の減らねぇガキだな。ほらよ」


 戻ってきたアイゼンさんと軽口のやり取りをして、気持ちを切り替える。


 アイゼンさんが持ってきたのは、僕がシュットさんから巻き上げた〈古代魔装具アーティファクト〉。

 ログを見ると、相変わらずフレーバーテキストさんが仕事をしている。


――――――――――

〈特異型ノ零〉

 本来、単発の威力が弱く弾数を増やす事で改良化されていく〈ガン〉シリーズの中でも、「一撃必殺はロマンだ。宇宙戦艦のお約束だし」と豪語した製作者がかなり特殊な方向にシフトして徹底して魔改造された魔導銃だったが、製作者自身が完全前衛型だった上に実用性がなかったためダンジョンに放置した逸品。

 拳銃型に拘ったため、一発しか装填できないのもまたロマンであると製作者は語った。

―――――――――――


 どう見ても初代勇者さんが制作に携わってるどころか、作った張本人だと確信している。

 だって普通、ファンタジー世界で宇宙戦艦がどうとか言わないもの。

 でも、ロマンは分かってしまう。

 男の子として非常に共感できるよ、リュートさん!


 もっとも、一撃必殺のロマンは分かるけども、多くの魔物と戦うダンジョンでは正直言って使い勝手が悪いのも事実だ。

 なのでこれは、正真正銘僕の最終兵器という扱いになるだろう。


「とりあえず今は修復が一段落したとこだ。機構と構築陣に問題はねぇのは確かだが、肝心の魔力炉に魔力を込めるための魔器がな」

「アイゼンさんの予想通り、そっちは難しいって事ですね。試作はどうです?」

「一応は試作で造ってみたんだがな。刻まれてる魔法陣があまりにも複雑で、まだまだ使えたもんじゃねぇ。一緒に保管されてた魔器じゃなきゃ伝達に失敗しちまうときたもんだ」


 そう言いながら手渡されたのは、鶏の卵ぐらいの半透明の物体だ。幾何学的というべきか、魔法陣を彷彿とさせる白い紋様が刻まれている。

 これを魔器と呼ぶのだけれど、これに魔力を溜め込み、魔導銃のシリンダー部分の当たる箇所へと魔法陣が合わさるように接触させることで、魔器から魔導銃内にある魔力炉と呼ばれる場所に魔力が充填され、発射できるというわけだ。


 なら、魔力炉に一発分を充填しておいて、魔器に魔力をストックさせれば二発分は常備できる、という考えもあったのだけれど、それも難しい。

 どうもこの魔導銃の魔力炉とやらは、中に魔力を留めておけるような性質はないらしく、一分程で全ての魔力を霧散させてしまうそうだ。


 要するに、魔器を魔導銃に当ててから即座に撃たないと使えない。

 なるほど、匙を投げたくもなる。


 加えて言えば、そもそも魔導銃という武器そのものが、実は基本的に冒険者にのだ。


 属性のある魔法とは違い、魔力を弾にする武器であるため、一般的な魔法とは違って使い勝手も悪く、弾数に制限があるという現実的な問題がある。

 FPSゲームのようにリロードすれば弾薬が手に入るわけでもないし、物資補給部隊がいてくれるわけでもないのだから。それを言えば弓も同じなのだが、弓の場合は自らの魔法を乗せたりといった応用が利く。


 そういった点から、魔導銃は一般的にせいぜいが護身用の武器だったり、以前話題にも出た『成人の儀』で子供が安全に魔物にトドメを刺せるように使われるような武器でしかないため、あまり改良も注目もされていないのである。

 

「ストックは一発。まさに起死回生の一撃になるかもしれないロマン武器ですね」

「護身用にはいいかもしれねぇが、魔物と戦うような連中が持ってたって、荷物にしかならねぇぞ。正直、こいつを使うぐらいなら汎用性のある〈銃〉シリーズを使った方がよっぽど楽だ」

「ロマンを捨てろなんて言うつもりですか……!?」

「命を捨てるよりはマシだろうが」

「心配してくれるんですか?」

「金払いが良くて面白い仕事を持ち込むヤツは退屈しねぇからな」

「……妙に現実的ですね。まぁとりあえず、修理有難うございました。持って帰りますね」

「おう、また金になる仕事持って来い」


 ツンデレかと思って期待した僕が甘かったらしい。

 現金すぎる挨拶を耳にして、僕は店を出た。




 アイゼンさんの工房を後にして、僕は本日の次なる目的地へと向かって町を歩く。

 僕が向かうのは、冒険者ギルドだ。


 そう、冒険者ギルド。


 昨今のラノベでは誰もが知る、魔物を討伐したりランクが上がったりすれば貴族なみの階級があったりする、あの冒険者ギルドである。


 ダンジョンのあるこの迷宮都市アルヴァリッドは冒険者が多く、屈強な戦士にいかにもな魔法使いなどが先程から普通の歩いていたりもして、冒険者ギルドが近づくにつれてそういった人達が多く行き交う光景には、ついつい目を輝かせてしまう。


 しばし歩き続けてようやく、僕は冒険者ギルドの扉を潜った。


 冒険者ギルドの造りは大体規格化されていて、二階建ての建物が使われる。

 これも外壁があるせいで、あまり大きくし過ぎないようにという現実的な事情があるのだが、それはさて置いて。

 僕は目の前に広がったいかにもな冒険者ギルドの中を目の当たりにして、ついつい頬を緩ませていた。


 ギルドの入り口から離れた位置には、コルクボードのような物を使った掲示板があり、依頼内容が貼り出されている。

 広間には円卓に丸椅子が数脚ずつ囲むように置かれたテーブルがあちこちにあり、正面を向けばカウンターには受付のお姉さん達が市役所を思わせるような位置取りで座っている。


 ジロリと僕を見定めるような視線を無視して、とりあえずまっすぐカウンターへと向かった。


「冒険者ギルドへようこそ。本日はご依頼ですか?」

「いえ、冒険者登録をお願いします」

「えっと、成人以下の方の登録はご遠慮してもらっているんですけれど……」

「十七歳ですので問題ないと思いますよ?」

「そ、そうですか。すみません、失礼致しました。それではこちらにまず、お名前と得意な戦闘方法、スキルや魔法を書いてもらえますか?」

「はい」


 特殊な魔法陣が薄っすらと描かれている紙を渡され、僕はさっそく空欄になっているその場所を埋めていく。


「おいおい! ガキが冒険者登録って大丈夫なのか?」

「魔物の餌になるだけだぜ?」


 そういえばこの世界に来てから、文字と言語については不思議と理解できている。とは言っても、それはこの西大陸と呼ばれる大陸で使われている公用語のみのようで、全部の言葉が分かるようなチート的な翻訳ではなかったみたいだけれど、ともあれ便利で助かっている。

 これもアルツェラ様から託された力の一つなんだろうか。


「ビビッて言い返せねぇみてぇだぜ? それぐらいにしておいてやれよ」

「ハッ、心配して声をかけてやってるだけだ! それとも、まさかこんなんで本気でビビッて震えちまってんのか?」

「あ、お姉さん。このスキルと魔法の欄って素直に書いた方がいいんですか?」

「あ、えっと、いえ、大丈夫ですよ。それより、さっきからその……大丈夫ですか?」

「有難うございます。大丈夫って、何がです?」

「いえ、その、なんでもないです」


 目を丸くしながら訊ねられても、一体何が言いたいのかよく分からなかったので、僕も用紙を埋める方向で書き続けていく。


「なんだよ、おい。無視されちまってんじゃねぇか? ハハハッ、これじゃあどっちがガキか分かんねぇな!」

「んだとっ!? おい、ガキが! 無視してんじゃねぇぞ!」

「はい、できました。これで大丈夫ですか?」

「ふぇっ、あっ、大丈夫です! 少々お待ちをっ!」


 お姉さんが紙を持ってパタパタと奥に走っていく。

 これで僕の輝かしい冒険者生活が始まるのかと思うと、感慨深いものがあるなぁ。


「テメェ! こっち向けっつってんだろうが!」

「――すみません、呼んでますよ?」

「……あぁ?」


 ズンズンと近づいてくる足音が聞こえてきたので、隣に立って受付の人と話していた、いかにも強そうな男の人の腕をツンツンと突いて、後ろを指差してにっこりと笑う。

 背中には僕よりも圧倒的にでかい大剣を背負っている、身長にして二メートルを軽々超えてそうな筋骨隆々の人が、僕の声にイラッとした様子で振り返った。


「どいつが俺を呼んでんだ?」

「この人ですけど」

「誰だ、コイツ?」

「さぁ? こっち向けってさっきから叫んでたんで、絡もうとでもしてるんですかね。ビビッてんのかとかどうとか聞こえてましたけど」

「はぁっ!?」

「……ほう。俺に喧嘩売るとは、いい度胸してるじゃねぇか」

「な……!? ち、ちげぇぜ、ゼフの旦那! 俺ぁそっちのガキに!」

「あれ? 背中向けてる間はあんなに騒いでたのに、正面向かれたらヘコヘコするんですか? まっさかー! さぁさぁ、さっきまでの威勢の良さで、ぐぐっと!」

「なんだ、テメェ。まさか俺に喧嘩売っておいて、今更ビビッたんじゃねぇだろうなぁ? おら、付き合ってやるから訓練場まで行くぞ」

「ちょっ、ちが……っ! だ、旦那ぁっ! あのガキが!」


 隣にいた筋骨隆々の人に連れられて、さっきから何やら騒いでいた人が奥に連れて行かれた。


 ん? なんだろう。

 なんかロビー内の喧騒がしんと静まって、なんか悍ましい何かを見るような目でこっちを見てる。


「いやあ、冒険者の人って怖いですね。僕が喧嘩売られたのかと思って戦々恐々としちゃいました。あ、僕は弱いので、喧嘩売ったりとかそういうのはやめてくださいね? まぁ、弱い相手に喧嘩を売るなんてカッコ悪い真似、勇敢な冒険者の方々がするとは思いませんけど」


 ここは日本人らしく愛想笑いで誤魔化そうかとにっこりと微笑んでみせた。


「……おい、アイツマジか……? マジで言ってんのか……!?」

「いやいやいや、ありゃあ気付いてたぞ、絶対ぇに。見ろよ、あの笑顔。人を陥れておきながら満面の笑みだぜ……? なんか寒気がしてきたぜ」

「おい、アイツに誰か絡んでみろよ……」

「おいやめろバカ……! 次はどんな手使ってくるか分かったもんじゃあねぇぞ……!」

「なんてひん曲がってやがる……! あそこまで堂々と他人を巻き込んでおいて、その上あんな言い方までして釘刺してきやがった……!」


 良かった、普通にまた騒がしくなってきた。

 振り返ると、さっき奥に行っていた受付のお姉さんが、なんだか震えながら僕の方を見て立っていた。


「お、おお、お待たせしました……! えっと、登録完了ですので、こちらが冒険者カードになります! そ、それと、こっちの冊子を読んで決まり事とかを確認してください……!」

「へぇ、冊子で説明してくれるんですね。有難うございます」

「ひ……っ!?」


 微笑んで挨拶したら怯えられた。

 なんだろう、すごく理不尽だと思う。


「あぁ、そうだ。幾つか質問していいですか?」

「ごごごごめんなさいっ! 陥れないでくださいっ! 止めれなかった私が悪かったですからぁっ! ごめんなさいごめんなさいっ!」


 ……結局、何も聞けないまま僕は屋敷に帰る事にした。

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