第19話 亡霊 <異境の序曲>

18Fに降り立つ。敵を倒しては、部屋を進み、階段を上る。それ以外にやることはない。


部屋をとりあえずすべて周ることにはしているが、強力な敵モンスターなどがいる場合には迂回を余儀なくされる。


「亡霊がさっきから10体目か」


 亡霊がとにかく多い、これが僕のようにこのダンジョンに迷い込んだ末に亡くなったかと思うと、慈悲を感じる。


僕はすべての亡霊に声を掛けるが返事はないが、4つ目の部屋にてようやく反応が聞けた。


「あの。カレンという少年ですけど、貴方の名前は?」


対亡霊用敵形文を述べると


「わたしは広島カープ大好きなの。わたしは広島カープ大好きなの・・・」


 その言葉を長々とループしている。中年女性のような声でループするように球団愛を語っている。


何を話しても結局、同じだったので、可哀そうだが成仏させてやった。


「この女性はダンジョンで亡くなって1年以内の亡霊ね。言葉のキャッチボールができていないから、半年以上は経っていると思うわ」


 年月は人間としてのコミュ力を喪失させていくんだな。時間は恐い。



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19Fにさっさと登ってきた。降りた部屋には書が落ちている。


早速升目に移動して、収集する。


 中身をすぐに除く習慣が付いてきた。馴れたものだな



『敵モンスターを一匹に限りその敵モンスターの目の前で唱えると敵モンスターは死ぬ

※有効回数1回』



「まあシンプルだけど。かなり強い書ね。どんなに強いモンスターでも一撃で屠れるからいい得物ね」


1回だけとはいえ敵を確実に一匹倒せるのは大きいな。


これで今持っている書は (現状把握の書)(螺旋階段移動の書)(敵モンスター一匹撃退の書)の三枚となった。


_________________________


19Fには相変わらず亡霊が彷徨っているがそれ以外のモンスターは見受けられない。それもそのはず。


「19Fは知り合いの助っ人が以前言っていたけど、19が逝くって語呂だから、亡霊しかいないらしいわ。馬鹿げてるわね」


 天使は笑った。


非常に不謹慎極まりない。この世界を作った人間は嫌らしい正確で嫌われ者だろう。



 この階層には落下物も多く、薬草らしきものを2個拾った。これで3個目となり状態異常には困らない。


 そして今目の前には見たことのないのようなものが落ちている。


その升目に行き拾う。


「天使。これ何?」


「お金ね。マネーね。亡霊が落としたのかしら?」


「この世界お金なんて何に使うの?商売人の一人もいないのに」


「いままで一銭たりとも拾ってこなかったの?カレン、この世界では結構な確率でお金は拾えるものなのよ。中層を越えようとして、今拾うなんてね」


 天使は驚愕はいかないものの、希有な確率に感心している様子だった。


「それで使用例だけど、超低確率で物を売り買いするがいるのよ。ヤギがキノコだったり、薬草などダンジョンの日用品を売り買いしてるのよ」


へえ、でも今のところ見たことないな


「それって、20F以降とかに出現するの?」


「1Fから低確率で出現するわ。カレンの場合、敵出現率が低だったっから出現しなかったのかもね、ダンジョンの中ではヤギは敵モンスターに区分されるのよ」


「なんで、商売ヤギが敵なの?攻撃してくるの」


「こちらが危害を加えない限りは平穏無事を貫く、草食系なんだけど、攻撃を加えた途端、『肉食八木』という名称に進化して大変なことになるわ、攻撃力は25F以降のモンスターに匹敵するわよ」


おぞましいヤギなこと。


だが、危害を加えなければ、有用なことは分かった。



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気になるお金は布袋から紙幣らしき、1と大雑把に書かれたものが5枚入っていた。


どれだけの価値があるかは楽しみにしておこう。


螺旋階段への升目に行こうと移動を始めると直線状の通路から亡霊が一人現れた。


僕は相変わらずの定型文挨拶をすると。


「コンドルまじぱねえよ。本当。コンドルは突然飛んできてよお、ドリルでぎゃああああああああああ」


「あの・・・」 あまりの絶叫に唖然とする僕。


「コンドルやめろおおおおおお。近づくなああ。ぎゃああああああああああああ。触るなあああ。ぎゃあああああ」


発狂する亡霊はあまりにも不憫に感じられたので、瞬殺した。


 コンドルって何のことかなと天使に尋ねると


「聞きたい、耳が痛くなるかもしれないけど」


僕は「後々でいいや」と言った。


あれほどまでに気がくるっている亡霊を見ると25F以降のことが不安である。


死んでもPTSDに苛まれている彼を追悼しつつ、



僕らは次の階層へと進む。



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