第10話 <異境の序曲> 進化形モンスター

5Fに降り立つと、二体のモンスターがいて一体僕の目の前に隣接していた。


「うんこ将軍やな。序盤のと違って真黒なのが特徴や」


そこにいつのはドス黒いうんこである。5歳児ほどの図体のうんこはぴょんぴょこ跳ねている。


「こいつはな、状態異常技『目眩みガス』を攻撃時に10%の確率で発射してくる。っておい」


僕はうんこを見るとつい手を出したくなるのか、見下しているのはわからないが刀でついつい先制攻撃をうんこに与えてしまった。


するとうんこは「ブシュー」とガスを噴射する音とにおいが僕に伝わると同時に、目の前が真っ暗になった。


何も見えない、盲目状態に入ってしまったらしい。


「お前馬鹿か!こいつはこう見えてもお前を確定二発で倒すことのできる攻撃力を備えているんだぞ。それに部屋端にいる、羽ライオンがお前のターンで一歩進んできている。ったく、てか俺の1ターン2行動能力を使ったって、1ターンでは『うんこ将軍』を倒せねえ。仮に俺が目眩みを受けたら、本当の終わりだぜ」


「なんとかなるよ10%の目眩みなんて。ちなみに盲目状態ってなんターンで治るの?」


「完全ランダムだ。少なくともこのフロアでは永遠に光は輝かないだろう」


まじかよ、完全に相手にイニシアチブとられちまうじゃねえか。


「まあ、俺だけでもなんとかなるだろう。お前が動かないことには、俺も動かないからお前は俺の言う通り動け。俺は棋士。カレンは駒だ」


そういうことでありまして僕は駒となりました。


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目が見えないってのは本当に大変なんだな。升目を動くだけのこの世界の中でも。


なんといっても敵が見えないのが怖いね通路では、たかしが2歩前方にいて追尾している形ながら、たかしがいきなり攻撃する際に出す、炸裂音といったら僕を戦慄させるものだ。


「たかし。敵がいるときは教えてくれよ。いきなり、驚くじゃないか」


「この程度で参られては困る」


不愛想にたかしは言った。



「部屋に入るぞ」


「うん」


通路の壁が切れた。部屋に入ったのだろう。


「あ。やっちまった」


常時、悠然としたいるたかしにしては珍しく狼狽した声を上げた


「ん?何かまずいことでもあった」


「踏んでしまった。トラップを。部屋は言って2升目で罠なんて運悪いな。何の罠なのかわからないけど、即効罠ではないらしい」


「即効罠って?」


「まあ、罠にも設置率の高いものから低いものまであるんだけど」と前置きしたうえで


「地雷なんかはよくよくあるな。HPが最大10分の1まで減る。自然回復すればいいが、お前みたいにレアな書である召喚の書など有用な書を所持していたり、強い武器防具を持っていない場合だと、厳しい局面に陥る可能性がある。

次に落とし穴だ。簡単に言えば、この階5Fで落とし穴に落ちれば4Fに落ちるってことだ。

そのほかにもいろいろあるけどな。ここで説明するべきは非即効系罠の話だ」


「逆に幸運をもたらす罠とかないのかい」


「あるわけないだろう。非即効性罠ってのは、漸次主人公にって言ったらいいのかな・・・ 具体的に言うと、フロア縮小発動罠とか怪物集合体連続発生罠とかウイルス君無限分裂罠とかあるけど、今言ったのはまれな確率のやつだ。高確率系でいうと、アイテム消滅だな。そのフロアにある、全アイテムが消滅する。有用なアイテムが落ちていたとしてもパーだよ」


「僕が持っているアイテムはなくなっていないみたいだけど」


「あくまで、フロアに落ちているアイテムだ。お前の持ってるのはなくならん」


たかしが忙しなく続ける。


「ほかにも、兎にも角にも危険なんばかりだ。 最終進化形のモンスターがフロアに放たれていたりする罠もあるし、強制終了罠の可能性もある」


「強制終了罠とは?」


「フロアにその罠を踏んだ瞬間100升の制限が与えられ、100升目を進む間に階段を降りなければゲームセットだ」


「え、仮にその罠が発動していることを考慮したら、100歩で階段そそくさと登らないといけないじゃん」


「だから困ってんだよ馬鹿」


馬鹿って。口が悪くなるたかしは本当にあたふたしている。このままではゲームセットの可能性もある。一難去ってまた一難というが、僕の場合、一難去らずしてまた一難だ。


「おいカレンもう賭けに出るしかない。俺についてこい。まだ階段のある部屋は見つけていない。残り概算して6部屋ほど残っている。このフロアの地形上一番多く階段が設置されている部屋がある。右上だ。といってもお前に方向感覚なんてないと思うが、来てくれるか」


賭けか。高校時代、言っちゃえば最近、ネットの仮想通貨をかけるサイトで僕はw杯やプロ野球の優勝チームを予想しては賭けた。結果はトントンだったが要所の場面では予想が光った。

今思うにこの状況、何の役にも立たないことが情けない。だが、当時とは違い僕にはたかしがいる。いつまで付き合うことになるのかはわからないが友人であることに否定する要素はないのだ。


「もちろん。たかし。僕はついていくよ」


「助っ人とはいえ、僕がまいた種だ。すまない」



たかしの誘導のもと、僕は歩を進めることしかできないのがもどかしい。


歩数をカウントダウンするに残り20を切っただろうか。


「あったぞ。経験が生きたな。これで強制終了の罠だったとしても、上に上がれる。強制終了の罠はこのフロアまでの効力だから」


「何も見えないけど、早く登ろうよ」


「よしカレン。ライト進行のち猪突猛進でいいぞ、左側にいる羽ライオンは俺がやっておく、第二形態の羽ライオンは少々厄介でな。俺と同じ2回攻撃ができる」


「え。大丈夫なの?」


「お前が階段を昇れば、このフロアは消滅する。敵モンスターは助っ人を含めて直近のプレイヤーに接近してくるから、俺が足止めしておくうちに上ってくれ」


僕は言われた通り右に一歩進み方向感覚がわからないことに四苦八苦しつつも、階段に向けて猪突猛進したのであった。



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