姓字.2
義兄を見送り、舅を見送り、姑も見送り……そしてこの義兄の息子が新妻を伴い、婚家に跡取りとして戻ってきたのである。彼の新妻は、となり町のやはり地主の娘であり、なかなか遣り手の家系であった。
とどのつまり母と夫は体良く婚家を追い出されたわけである。分家という形で幾ばくかの田畑と、古い木材で作られた小さな家を与えられ。そして、そのとき夫は結核を患い、すでに働けない状態であったそうだ。
先程も記したが、母の最初の夫(つまり母方の長女、次女、長男、次男の父である人)は、大層仕事上でもできる人であったらしく、当時の内閣で大臣も務めた、地元の名士である事業家は、病に倒れた彼を手厚く保護して生活の面倒も見てくれたらしい。
しかし、それも彼が生きている間だけで、その後未亡人となった母は慣れない畑仕事や内職などをして、残った財産を細々と切り詰めながら暮らしていたようであった。当時を知る村の年寄りたちは、涙ぐみながら
「あの、きれいなお嬢様育ちの○○ちゃんがねぇ、畑仕事で一生懸命鍬振るっとってねぇ、可哀想で可哀想で」
と私に話してくれたことがある。
そしてそんな折に、私の父と母は出会ったらしいのだ。出会いは例の皮靴の従姉が嫁いだ先の病院であったらしい。
父方の二人の娘のうち、長姉が小児結核を患い、父の亡くなった奥さんが、この皮靴の従姉の親友であったという縁で入院をしており、父は働きながらこの長姉の世話をしていた。それはそれは惨めな状態であったと聞く。
父方の次姉はまだ幼子で、これは亡くなった妻の実家が預かってくれていたらしいが、戦後まもなくの頃であり、その後父と母が所帯を持って引き取りに行ったところ、手足はガリガリに痩せ、お腹だけが異常に膨らんでいてまるで餓鬼のようであったと聞く。
さて、なんとも説明が長くなった。その上、亡くなった夫、亡くなった妻、亡くなった母方の子ども、亡くなった父方の子ども……と、話がまどろっこしく、ややこしい。
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