皮靴.2
その頃の子どもたちは、ほとんどがゴムの短靴を履いていた。男の子は黒、女の子は赤。裸足でその短靴を履いて、田んぼだろうが小川だろうがそのままじゃぶじゃぶ入って、ぐちゃぐちゃと音を立てながら歩くのがスタイルだったのだ。
その短靴でオタマジャクシを捕まえたり、ヤゴを持ち帰ったり。それがお約束だったのだ。格好良かったのである。
しかしお嬢様育ちの母はこの靴をいつも大層喜び、
「こんないい靴、履いとる子ほかにおらんよ。大切に履かんと」
と、私がその靴を汚すのをひどく嫌がった。一度回りの子どもたちにからかわれて、その靴のまま田んぼに入ってドロドロに汚したことがある。もちろんひどく母に叱られた。
でも私は実はほっとしていた。――この忌々しい時代遅れの靴から解放される! ゴムの短靴が履ける!
「まだまだ履けたんに。もったいない!」
と、どう見ても再生不能な靴を見ながら、母が次に持ってきた物はまた皮靴だった。
「今度は大事にするんよ。こんないい靴履いてる子、他におらんのよ」
ダメにした靴よりも、一層華美な靴が出現したとき、私は心から従姉と従姉の娘を恨めしく思ったのだった。
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