皮靴

皮靴

 以前にも記したように、母は医者の娘であったので、親戚縁者はその生業をしているものが多い。

 全員合わせると、総合病院の一つや二つ、それ以上はできるのではないかと思うほどである。 

 彼らは、やはり同業者同士の縁を求めるらしく、どんどんその手の親戚末裔が増していくのだった。

 さて、その中でも母の姉の娘――つまり私とは従姉にあたる人なのだが、この人はなかなかの女傑で、小さな町医者を総合病院にまで発展させた。今はその病院の他に、様々な老人介護施設も経営しているので地元では知らぬ人はいない。いわゆる時代を読んだ人、読めた人なのだろう。

 それはさておき、この女傑の娘はやや臆病質の感がする、大人しい、いかにも深窓の令嬢といった人だった。いとこといっても、母とその姉は随分年齢が離れていたので、『いとこの子どもたち』の方が『いとこ』と呼んでしっくりする年齢だったのだが。この人に至っては私よりも年上だった。

 彼女は、お嬢様にふさわしくピアノを習っており、年に一回その発表会があったのだろう。多分上から下まで、いかにも身分にふさわしい装いでその発表会に臨んだものと思う。

 で、『靴』なのだ。

 子どもというのはどんどん成長するわけで、当然靴のサイズも毎年変化する。

 発表会用に用意された上等の皮靴は、その後何度かお出かけ用に使用されたとは思うが、ほとんど新品のまま私に放出された。

 本当に申し訳ないのだが、私はこの靴が大嫌いだった。

 そもそも皮靴――しかも大きなリボンやら、エナメルのストラップやらが着いている靴というのは、それにふさわしいベルベットのドレスやレースのドレスやらが上にあって成り立つもので、小学校のつるつるてんの上っ張りに、色の褪せた姉たちのお古のスカート、薄汚れた感の強いグレーがかったゴムの緩んだソックスには、全くもって違和感があるのである。

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