ラッパ水仙、花立葵、ジキタリス.2

 そしてジキタリス。

「心臓の薬になるんよ。でも根っこには毒があるから」

 そう教えてくれたのは母だったと記憶している。何よりもこの花が好きで、大切で別格だった。

 暗紅色の小さなとんがり帽子のような花がびっしりと上まで連なり、上部の蕾は白くてまだ口をつぐんでいるが、下の方から順々に開いていくのだ。

 これも近所の、それも田舎の庭ではほとんど見かけることのない花だった。たしか暗紅色のものと白色のものがあり、毎年この花を見るのが楽しみだったように思う。

 後年、家を建て替え、庭の手入れもなされ、この花が全く途絶えてしまったことがあり、なんとも残念だった。

 ところが父が、建て替えの折に出たガレキを築山として裏庭の片隅に積み上げ、その上に土を盛り、丸太で階段らしきものを作った翌年、掘り起こした土砂の中に種が混じっていたのだろうか。この花が復活した。心のなかのパズルが一片埋まったような気がしてとても嬉しかった。

 この花は一年おきに咲く。昨年咲かなかったので『もしかして』と思い、先日庭の隅っこを見てみると、特徴のある柔らかな産毛に覆われた小さな株を見つけた。

 私が生まれる前からこの庭にあったジキタリスが細々と、しかし綿々とその種を守り続けていることに、なんとも言えない自然の力を感じる。

 そしてこれを書きながら思い出したことがある。

 今も雑草にほぼ埋まるようにして、裏庭に咲いているラッパ水仙も、この記憶の末裔なのだ。

 父もいない、母もいない、家も庭も全く当時の面影は残っていない。

 しかし、ラッパ水仙とジキタリスは、あの頃の記憶の残影なのだ。

 物寂しげな子ども時代の私に寄り添った残影なのだ。

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