ラッパ水仙、花立葵、ジキタリス

ラッパ水仙、花立葵、ジキタリス

 幼いころ、母に構ってもらえなかった私は、外で過ごすことが多かった。一日中、庭でアリの行列やらダンゴ虫やらを眺め、草を摘んではままごとをして遊んでいた。

 近所には年上の、友とはいえない仲間もいたが、私は彼らより数段年下だったので姉たちや彼らから上手くまかれて、いつも最終的には一人遊びになるのが常であった。

 田んぼでレンゲやクローバーで花飾りを編んだり、ぽこぽこと伏流水が湧いている小川のふちにしゃがみ込んで、砂をわずかに動かす水の動きに見惚れたり、さして退屈も感じず一日を過ごしていたように思う。

 この頃の記憶の中で常に思い出されるのは、我が家の庭に円形に植えられていたおびただしい数のラッパ水仙なのだ。

 庭には柿の木が何本か植えられていて、その根元の部分を丸く小石で囲んである。その小石の囲いに沿うようにラッパ水仙が咲くのだった。黄色一面に咲くのだった。

 子供心に、この時代の、このエキゾチックな花が自慢だったように思う。近所でもあまり見掛けない花の姿が嬉しくて、手折るのも勿体なくて大切に眺めていたように思う。

 同様に花立葵の群れ。濃い赤に紫、ピンク、白――。これも庭の一隅にたくさん咲いていた。 

 花は落ちて雨に濡れると、溶けたように汚らしくなってしまうのだが、まるで鼻紙細工のようにくしゃくしゃと、そして透明感がある。この花びら一枚一枚が美しく、やはりとても大事にしていたように思う。

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