7話 学校に侵略者!?

悪魔ロビン・バルバトス

 針雨君が危ない! 私と白兎君は、青い髪の男の子の前に立つ。すると男の子は、白兎君の頭の上にいるグニグニに気付いた。


「よう、グニグニ。久しぶりだな? 大人しくお前の持つ柱を寄越せよ。そしたら、ここに居る奴らを見逃してもいいぜ?」

「そうはさせないよ! 柱って何の事かわかんないけど!」


 白兎君が男の子に向かって反論している。


「俺はグニグニと喋っているんだ。柱の事も知らねー奴が邪魔すんじゃねーよ」


 見た目と違って口が悪いみたい。喋らなかったら、普通の男の子だと思うんだけどな。


「バルバトスの末裔よ。悪いけど君の提案に乗れない。柱も渡せない。どうしても引き下がらないなら、この二人が君をボッコボコにするだろう。それでもいいのか?」


 グニグニ、なんか最近偉そうになってきてない?


「おいらだって、引き下がれない。じゃあ交渉決裂って事で……皆殺しだ!」


 うわ、言う事えげつない。やっぱり悪魔なんだ。見える八重歯も、やんちゃってだけでは片づけられないよね。


 白兎君は、光る5本の指を使って、宙に魔法陣を描くと剣が現れる。


「はい、桜桃ちゃん」

「ありがとう白兎君」

「いちゃついてんじゃねぇぞコラ!」


 私は鞘を引き抜いて地面に置き、両手で刀身を悪魔の男の子に向ける。


「グニグニは渡さないよ!」

「なら、奪い取るまでだ」


 手に持っている十字架みたいなものを投げつけて来た。しゃがんで避けると、それは、空中で回転しつつ、校舎の角まで飛ぶ。そして、校舎の角が、大きな音を立てて破壊した。

 凄まじい威力だけど、投げている間はガラ空きよね。曲げた足から、一気に間合いを詰め、下段から逆袈裟切りを振るう。少年は身軽にバク宙して避ける。身軽な格好してるから、素早いとは思っていたけど、アクション俳優顔負けのアクロバットだ。

 手首を返して、もう一歩前進。同じ角度で、今度は袈裟切りに振り下ろす。身体を反らして避けられる。


「エル・ヴィウス!」


 呪文? ……何も起きないじゃない? もう、動きは捉えた。振り下ろした勢いに身を任せ、踵を返す。最後の一振りを放つのみ。


「三斬——」

「桜桃ちゃん! しゃがんで!」


 白兎君の声に驚いて、思わずしゃがんでしまう。私の頭上に十字架が物凄い勢いで飛んで行った。


「惜しい、あともうちょっとだったのにな!」


 思わず息を飲んでしまう。風を切る音が聞こえてなかった。まだまだ油断しては駄目ね。十字架は、少年の手元に戻った。まるでブーメランだ。


バインドライン


 宙に描かれた魔法陣。光の鞭が男の子に向かう。手に持つ十字架で光の鞭を弾く。


「女が戦士で、男が魔法使いか?」


 強い。このままじゃ……そうだ!


「ちょっと作戦タイムね!」

「はぁ? 何だよ作戦タイムって?」

「作戦タイム中は、作戦する時間なのだから、その間に攻撃とかすると反則負けになるからね? わかった?」

「そうなの? 待てばいいのか?」

「うん」


 私は、白兎君の隣まで足を運び、作戦を耳打ちをする。

 ふと良く考えたら、待ってもらえるなんて、悪い悪魔じゃなさそう。


「白兎君、あの十字架が飛んでる間に捕まえてもらえないかな? その間に、あの男の子の相手をする」

「うん、いいよ」


「よく考えたら、別に待つ理由なんてないよな? やっちまうか、なぁトール・・・?」

「作戦タイム終了! もういいよ!」

「んじゃー遠慮なく。うおりゃゃあ!」


 悪魔の男の子は、また十字架を投げて来る。私と白兎君は二手に分かれる。白兎君が、あの十字架の相手になっている間に攻める。

 走り幅跳びの要領で、グランドを蹴り上げ、間合いを詰めると同時に、両手で剣を振り下ろす。

 躱される。でも、勢いに身を任せて、踵を返し、左手を離して右手だけで男の子の胸元を狙う。これも躱されるのは承知の上、本命は次。

 人の形をした悪魔に剣を向けるのは、ちょっとやりづらい。痛そうだけど我慢してね? 私は男の足に向けて、振り切った剣の手首を返し振り下ろす。


「甘いぜ?」


 男の子の蹴りが、剣を持つ私の手の甲に当たる。防がれてしまった。


「お前、考え方が甘っちょろいんだよ。手加減しているつもりなのか? なんでわざわざ足なんか狙うんだよ?」

「私だって、血がドバーッとか見たくないもん!」

「だったら、鞘に入れたまま戦えばいいじゃん」

「あ、そうか」


 地面に置いてある鞘を剣に納める。今気づいたけど、この鞘、紐が付いている。紐と突起した鍔に括り付けて取れない様にする。


「これで遠慮なく、戦えるよ!」

「ったく、何か調子狂うなお前」


 ふと、白兎君の状況を確認する。光の鞭で十字架を捉えようとしているけど、なかなか早くて捕まえられてないみたい。


「エル・ヴィウス!」


 また呪文。なんなの? その呪文……そして、十字架はまたもや私の所に。まずい。


「おらぁ!」


 やっぱり来た! 男の子は地を蹴り上げて、ジャンプ蹴りを放ってくる。十字架も迫って来ている。防ぐのは十字架だ! コンクリートを壊す勢いだもん、まともに受け止めてられない。柄と先端を持って十字架を受け止める。

 物凄い衝撃の音、腕がビリビリする。そしてそれは私の身体ごと強引に弾かれる。止める事は出来ず、またもや空中を飛び回る。

 目の前には、男の子の蹴りが迫っている。これは仕方なくまともに受ける。


バインドライン


 男の子の足に、光の鞭が絡んで、皮の生地で作られた靴が、頬を蹴る寸前でピタリと止まる。


「桜桃ちゃん大丈夫? ごめんね、あれ、なかなか早くて」

「ありがとう白兎君!」

「桜桃、白兎。気を付けるんだ。あれは、バルバトスの末裔の魔法。おいつきの魔法だ」

おいつき?」

「そう、バルバトスの家系は、代々狩人の血を引いている。その理由は、物質を飛ばすと、何処までも追いかける事が出来る魔法だからさ。あの呪文は、追いかける位置を変更しているんだ」

「じゃあ、呪文が聞こえたら、狙いを変えてるって事なのね?」

「その通り、おいらの魔法は、ホーミング・マター。狙った所を、当たるまで追いかける魔法だ。エル・ヴィウス!」


 回転する十字架は、急に方向を変えて白兎君を狙った。私は白兎君の手を引っ張り、十字架を避ける。同時に、悪魔の男の子も光の鞭が解かれて動ける様になった。避けた十字架は校舎の方へと向かって行く。そしてそれは、職員室の窓を豪快に割った。


「うわーなんだなんだ!?」

「誰だ! 職員室にブーメラン投げた奴はー!」

「教頭が失神してるぞー! 救急車を呼べ―!」


 こんなに離れているのに、職員室からはそんな声が聞こえた。めちゃくちゃ大騒ぎになっている。

 そしてブーメランが職員室の窓を再び豪快に割って出て来た。


 ブーメランがこちらに戻って来る。その進路に、頭を御団子ヘアにしたチャイナドレス姿の静樹ちゃんが現れた。なんかドラの音が聞こえてきそうだ。


「私、静樹アルネ! 中国3千年の歴史を見せつけるアルネ!」

「逃げて! 静樹ちゃん!!」

「アチョー!」


 ブーメランを、華麗な足運びで躱す。腕を振るうと、カンっとブーメランから音が鳴る。まさか! 目を凝らすと透明な棒を使って、回転する十字架を叩きつけている? 静樹ちゃん実は結構凄い?


「エル・ヴィウス」


 ブーメランが、軌道を変更し、円を描く様に静樹ちゃんと所へと戻って来た。


「アチョー!!」


 透明な棒を両手で前へ構える。そして捻った!? 透明な棒は、三つに分かれて、短くなった棒との間には透明なチェーンが現れている様だった。まさかそれヌンチャクなの!?


 迫るブーメランに、ヌンチャクを叩きつける。


「アチョー! アチョアチョ!」


 ヌンチャクを振り回し、ひたすらにブーメランを叩きつけている。段々、ブーメランの速度も落ちて来た。これならいける!


「よそ見してる場合じゃ、無いんじゃないか?」


 男の子の回し蹴りが迫って来る! 剣を前へと押し出して鞘で受け止める。


バインドライン!」


 速度が落ちて来た所で、十字架に光の鞭が絡みついた。よし、武器は封じれた。


 十字架は、行きなり跳ねて、光の鞭を物とせずに、くるくると回転し始めた。十字架は、回転と共に模様が浮かび、そして強く光り始めた。魔法陣?


ソリッド・マター

「え?」


 体が固くなって動けなくなった。何これ? 白兎君と、静樹ちゃんも動けなくなったみたい。

 十字架の中心から、目が開かれている。


「まさかこの魔法は……かたまりの魔法? しまった! あの十字架も悪魔だ」

「え?」

「あの十字架は、デカラビアの末裔だ!」

「じゃあ私達、悪魔二体と相手している訳!?」 

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