悪魔トール・デカラビア

 かたまりの魔法により、動けなくなってしまった私達。十字架の悪魔も、解かれた光の鞭から抜け出して、ぴょんぴょん跳ねて、少年の元へと戻って行く。


「全く、手間取らせやがって!」


 白兎君の頭の上にいるグニグニを掴む男の子。身体が動けないから、助け様にも動けない。


「さあ、柱を寄越してもらうぞ! グニグニ!」

「僕の魔法を使って何をするつもりなんだい?」

「知らないよ。レフィリト様の命令だ」

「悪魔には、一本の柱しかその体内に埋める事が出来ない。バルバトスの末裔よ。君のおいつきの魔法捨てなければ、柱を渡す事は叶わない。それでも僕の柱を欲するのかい?」

「え、そうなの? この柱は、バルバトス家に伝わる大事な柱だから、捨てたら御爺ちゃんに怒られるなぁ」

「柱を捨てる事が出来ないなら、大人しく帰るんだ」

「まあでも、グニグニを持って帰ったら、文句言わねーだろ? 一緒に来てもらうぞ」

「辞めてー! 助けてー!」


 助けてあげたいけど、身体が動かないんだよね。グニグニごめん。


「辞めろぉ! グニグニを返してよ!」


 白兎君が怒っている。


「ふん、弱い自分を恨む事だな! じゃあな」


 男の子が歩き始めると、銀色の髪の男の子が現れて道を阻んだ。針雨君?


「おい! 返してって言ってんだろ? 返してやれよ!」

「お前さっき、腰抜かして奴じゃん? 何? おいらとやるの?」

「腰なんか抜かしてねーし! 頭おかしいんじゃねーの?」


 やだ! 針雨君カッコイイ! そのガクガク震えてる足さえなければなんだけど。


「邪魔するなら死ねよ」

「ひっ! し……死ぬか! バーカバーカ!」


 怖いだろうな。針雨君に近付く、悪魔の男の子は足を掛けて針雨君を転ばした。

 尻持ちを付く針雨君の顔に、顔を覗きこむ。


「頭カチ割ってやろうか? なぁ? ん?」


 うわ、えげつない。相当怖いだろうな……あ、針雨君の股間が、濡れ始めた。あ——……。


「おいおい、オシッコ漏らしてんじゃねぇか? だっせぇー」


 悪魔は大きな声を上げて笑っていた。針雨君が、顔真っ赤にして目を腕で隠した。


「ロビン君。針雨君をバカにしたら、僕怒るよ?」

「きやすく、人の名前呼んでんじゃねぇよ。お漏らしマンだぜ? 笑わずにいられっかよ」

「怖いのに、勇気を出してくれたんだ! 針雨君は、ださくないし、お漏らしもカッコイイお漏らしだ!」

「お漏らしにカッコイイもあるかよ! お漏らしはダサいんだよ!」

「じゃあ、君はお漏らしした事ないんだね?」

「う……な、ないぞ……」

「本当? 僕はあるよ! 小学校2年生の時に、車に跳ねられそうになって、怖くてお漏らししたよ!」

「……。」

「それだけじゃないよ! 学校の帰り家まで我慢してたら、途中で犬に追いかけられて、お漏らしした事あるよ? 本当に無いの?」

「うるせぇ! 悪魔はお漏らしなんかしないんだよぉ!」

「本当かな? 嘘ついて無い?」

「ううううう嘘じゃねぇよ!」


 絶対嘘ついてるよね。その時、針雨君が、グランドの砂を握っていた。


「うわあああ!!」


 投げられた砂が十字架の目を狙った。そのおかげか、身体の硬直が解けて動ける様になった。


「何してくれてんだ、てめぇ!」

「うわぁ!!」

「針雨君、こっちに!」


 走って、白兎君の所へ向かう針雨君。


「まとめてくたばれや!」


 十字架が投げられる。その向かう先は、針雨君に。


「エル・ヴィウス」


 針雨君に向かっていた十字架は、いきなり方向を変えて白兎君に向かった。危ない!


ホーミング・マター

ソリッド・マター

「「固まって、追い付けぇ! 固追!トール・ハンマー」」


「うん、バインドラインは、捕まえるだけの力じゃない。捕まえる力をもっと、別の形に……」


 光の鞭が白兎君の目の前で、小さな四角形が作られた。


拘拘バインド・スクエア


 光の鞭で形を作る事で壁にした? 白兎君凄い!


「防いだだと!?」


 あの十字架が、光の壁で動きが止まっている。こんなチャンスは無い!


「放閃花二式——破竹はちく!」


 遠心力を利用して十字架目掛けて剣を、思いっきり振り下ろして叩きつけてやった。回転すると十字架の魔法が発動してしまうから、回転させないようにしてしまえばいい。物凄い音を響かせて、十字架の先端が硬いグランドに突き刺さる。十字架の目が見開くと、へにゃりと柔らくなって目を閉じた。


「おい! トール! しっかりしろ!」

「これで武器は無くなったよ? まだやるの?」

「……こうなったら!」

「——————白兎ぉー!!」


 空から帰って来たユマちゃんの空中ドロップキックが、男の子の頭にクリティカルヒットして着地した。


「まぁ凄い汗! お待たせして申し訳ございませんわ」

「大丈夫だよ。ユマちゃんありがとう」

「ところで、これは一体何の騒ぎですの?」


 踏みつけられた悪魔の男の子は、ユマちゃんの顔を見て驚いていた。


「あ、あああ姉御!? どうしてここに?」

「ん? 誰かと思ったらロビンじゃない。ワタクシの白兎に何をしているの?」

「だって、レフィリト様が、グニグニを捕まえろって言うからさー」

「それで? 言い訳は聞きたくありませんわよ? ワタクシに逆らうなら、昔みたいに、お漏らしするまで虐めますわよ?」

「うわぁ! 姉御シーッシーッ!」

「何がシーですの? ここでシーするの? ワタクシが見て差し上げますから、存分にやりなさいな。ほらほら」

「姉御、ごめんよ! おいら間違っていた」


 うわぁ、ユマちゃんも悪魔だなぁ。どうやら二人は知り合いみたい。


「こらぁ! お前等か! ブーメランを投げた奴は!」


 墓川先生が怒ってやってきた。


「「「先生、こいつです!!!」」」


 全員で悪魔の少年に指を差す。


「お前かー! ちょっと職員室に来てもらうぞ!」


 墓川先生は、男の子の首根っこを捕まえ、引きずる様に連れて行った。「助けて姉御ー!」と叫ぶ男の子を見送る事に。あーあー墓川先生、怒るとめちゃくちゃ怖いんだよね。


◇◇


 次の日。


「それじゃHR始めるぞー」

「先生!」

「何だ、針雨?」

「今日って転校生っていないですよね?」

「昨日二人連続で来たばかりだろう? そうそうこねーよ」

「よかったー」


 流石に、三人目の転校生は来なかったみたいね。


「それはそうと、針雨。お前、女子の着替えを覗いたそうだな?」

「え?」

「放課後、職員室な」

「がぁーん」


 ふと隣のクラスが騒がしい。


「なんだなんだ?」


 ドアが開かれると、ロビン君が入って来た。


「姉御! おいら、姉御のクラスがいい!」

「ちょっと! 自分の決められたクラスに戻りなさいな」

「やだやだ! おいらもここのクラスがいい」


 ああ、隣のクラスに転校してたのね。そして、驚いて私の背中まで飛んで隠れにきた針雨君が居た。

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