悪魔ノールド・ブエル


 お風呂から上がってパジャマに着替えた後、役割論者さん達の会話が気になって、こっそり家を出て公園に行って見る事にした。一応、護身用として、いつも稽古で使っている木刀だけ持っていく。


 公園に辿り着くと、トーテムポールを囲う様に、身体を上下に動かしながら踊っている人影が見えた。


「んんwwwヤーティ神よ。来たるのですぞwww」

「もっともっとですぞwww」

「運命力を高める以外ありえないwww」


 どうやら、お店に来た役割論者さん達の様だ。そして、トーテムポールの上にバスケットボールぐらいの光が現れた。何あれ!?


『我が名は ノールド・ブエル也』


 光が喋った!?


「んんwww我等役割論理の神ヤーティ神がご降臨なされましたぞwww」

「崇める以外ありえないwww」

「んんwwwヤーティ神万歳ですぞwww」


 ノールドって言ってるじゃない。話聞いて上げてよ。


「汝、緑色の身体を持つ、羽の生えた生物を持ってきたか?」


「んんwwwこちらにございますぞwww」

「ヤーティ神の為に、役割を果たしましたぞwww」


 論者さん達は、手に持っているグニグニ風船を光に捧げている。


「久しぶりだな、グニグニよ。要件は一つ、汝が持つはしらを寄越せ」


 ……柱? 柱って何?


「よもや、恐怖で声も出ぬか? ふはは、落ちぶれたな! 言い残す言葉はあるか? …………どうした? 何故何も言わぬ?」


 そりゃそうでしょ。それ、グニグニの風船だもん。


「渡さぬなら力尽くでも奪い取るまでよ」


 そう言い終えると、光は宙に円形を描く様に飛び回る。光の筋がまるで魔法陣みたいに。光は更に明るさを増す。


レイ


 そしてグニグニ風船にビームを放ち、風船は破裂音と共に公園中に響いた。


「これは偽物? 貴様等、このブエルの末裔である我をたばかったな?」


 光は、身体中からレーザービームを役割論者さん達に向けて放ちまくった。まるで暴走しているみたい。レーザーがこっちにも飛んできた!? 間一髪避けるものの、パジャマの焼けた跡が肩に残る。まともに受けては駄目だ。


「ヤーティ神の御怒りですぞーwww」

「静まるんですぞwww」


 こんな時にでも、論者さん達は笑顔だった。どうしてそこまで笑顔が絶えないのか。って、そんなことを思っている場合じゃない。役割論者さん達が危ない!


「黙れ、役立たず共め! 塵にしてくれるわ」

「待ちなさい悪魔め! 私が相手よ!」


 私の声に、振り向いたのかどうかはわからないけど、くるりと回転してきた。どの角度で見ても眩い光なんだけど、一応顔はあるみたい。


「汝。人の子が我に敵うとでも?」


「んんwwwやすら殿?」

「桜桃!」

「こいつは危ないですぞwww」

「やってみなくちゃ分からないじゃない」


 まずは先手をもらう。私は木刀を思いっきり光に振るう。しかし、木刀は光をすり抜けた。


「嘘!? 直接攻撃が効かない!?」


 光が反撃する様に、ビームを放ってきた。ちょっとこれはまずいかも! 慌てて後ろへジャンプ。私の居た地面が黒焦げに焼かれていた。


「直接攻撃がダメだったら、風圧でかき消して見るまで!」


 火じゃ無いから、効果があるかはわからないけど。でも、今はこれしかない! 一歩後ろへバックステップ。光が魔法陣を描く様に宙を飛び回るとビームが来る。更にもう一歩バックステップ。大丈夫、ビームが来るタイミングは、私の目で見切れる。

 更にビームが私を狙って来た。このタイミングで一気に畳掛ける。ビームを横に避け、助走をつけて高い位置にいる光の真横目掛けて、ジャンプして振り下ろす。 続け様に、振り下ろしを利用して身体を回転させ、次は光の真下を薙ぐ様に振るう。

 光に届かなくてもいいんだ。近くで風を起こして吹き消す様に。


「三斬花!」


 光に向けて、一気に斜めに切り上げる。一瞬、光が揺らめいた気がした。この方法なら倒せるかも!


レイ


 ビームが来た! 慌てて、木刀で防ぐけど、ビームを受けた部分が折れる様に焼かれてしまった。


「んんwww防御はありえないwww」

「相手の攻撃を許す、ゴミ技ですぞwww」


 論者さんがうざい! 気が散るから邪魔しないで!


「異教徒は導く以外ありえないwww」

「山田殿。我等が囮の役割を引きつけますなwwwその間にやすら殿に役割論理を導くのですぞwww」

「さあ、皆の衆、あの光を囲いますぞwww」


 三人の論者さん達が、互いに手を繋いで光を囲む。


「ええい、目障りだ! 消えるが良い」


 ビームを乱射させるけど、周りながら囲む論者さん達はうまくビームを避けている。なんかよく分からないけど凄い。


「んんwww任せる以外ありえないwwwやすら殿、こちらに来るのですぞwww」


 私は、論者さんの一人に手を掴まれて、その場を離れてしまう。


「待って! まだあの人達が!」

「彼らは、囮としての役割を果たそうとしているのですぞwww心配無用ですなwww生けとし生けるものは、その役目を果たすまで、死が訪れる事は無いんですなwwwもし、死んだとすれば、それが彼らの役割だった。それだけの事ですぞwww」

「でも!」

「我は、我の役割を果たすまで。やすら殿、役割論理とは元々戦闘における論理なんですなwww」

「戦闘?」


 公園の中心から少し離れた木の影に隠れる、私と論者さん。


「そうですなwww、役割とは、自分の得意な相手に居座る事が出来る事を言いますぞ。自分の不得意な相手には、得意な相手と交代すれば良いだけなんですなwww」

「つまり?」

「この場合、相手は一人だけなんで、簡単な話、光をどうにかすれば完封できますなwww」

「でも、どうすれば?」

「これを使うといいですぞ」


 論者さんは、ローブの中から手鏡を出して来た。


「鏡?」

「そうですな。光に対して役割を持てばいいんですなwwwこれなら、光を反射できて、光に役割が持てますぞwwwんんwww」

「分かった、やってみる」

「我に出来る事はこれだけですなwwwやすら殿にヤーティ神のお加護がありますようにwww」


 手鏡を受け取り、再び光の下へと駆ける。


「こっちよ!」


 振り向き様に放ってきたレーザービームに手鏡を両手で前へ向ける。鏡は論者さんが言った通り、ビームを反射させた。


「ほう……考えたな」

「これで貴方の攻撃は効きません! レイティルフィアに帰って下さい!」

「なるほど。ではこれではどうかな?」


 バスケットボールサイズの光が、野球ボールサイズの5つに分かれた!? そしてそれは、私を囲んだ。


「ちょ!? それは反則じゃない?」

「汝、辞世の句を述べながら光に焼かれよ」


 絶対絶命! 5つの光が一斉に眩く光り出す。


「……ルク……とどろけ!」


 そんな声が聞こえると、物凄い爆発音が聞こえる。一瞬にして、5つの光の内2つが消えた。


「誰だ! そこにいるのは?」


 3つの光のうち2つが、音が聞こえた方へと向かって行く。再び爆発音が聞こえると光は消えてしまった。


「まさかこの魔法! べ……」

「隙あり!!」


 小さくなった最後の光に目掛けて、半分に折れてしまった木刀を思いっきり縦に振るった。光は、かき消される様に消えた。


「倒せた! やった……」


「んんwwwやすら殿。見事役割論理を駆使してみせましたなwww」

「お見事でしたぞwww」

「これも運命力の賜物ですなwww」

「これで、やすら殿も立派な役割論者ですぞwww」


 論者さん達も皆無事みたい。でも、さっきの爆発音は一体何だったんだろう? 辺りを見渡しても、人の影は無かった。


◇◇


 二日後。


「おはよう桜桃ちゃん」


 青と白のチェック柄のポロシャツに、デニム生地のズボンを穿いた透さんが出勤して来た。何か笑顔がキラキラして、いつもの透さんに戻ったみたい。


「あ、おはようございます。透さん。今日は顔色良さそうですね」

「うん、あれから、公園も静かになったし、夢も見なくなったから快調だよ」

「それは良かったです」

「G・Wも、残り僅か、頑張らなくっちゃね。着替えてくるよ」


 そう言って、透さんは従業員用の更衣室に入って行った。あの光の悪魔をやっつけたからかな? でも、透さんが元気になって良かった。


「んんwww」


 更衣室のドアが開かれると、白いローブを身に纏った透さんが出て来た。


「んんwwwこのローブで、我も『唐辛子亭』での役割を果たしますぞwww」


 いつの間にか透さんが、役割論者になっていた。

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