5話 夢魔をやっつけろ!

帰って来た墓川先生

 G・Wはあっと言う間に終わってしまい、今日からまた学校が始まる。私は、水奈ちゃんと一緒に学校へと向かう。


「うわああぁぁぁぁぁん! とらじろうが死んじゃったよ! うわぁぁぁん」


 大河アニメ『駆ける妖刀』も最終回を終えて、とらじろうの死に水奈ちゃんは号泣していた。


「私、墓川軍を絶対に許さない! 許すまじ墓川はかがわ 宏次ひろつぐ将軍!」

「水奈ちゃん、落ち着いて! とらじろうは、そんな事望んでない。水奈ちゃんは笑った顔が一番だって、そう思っている筈だよ」

「桜桃ちゃん」

「大丈夫。とらじろうは水奈ちゃんの心の中で生き続けているから、だから笑っていて」

「桜桃ちゃん。うん」


 水奈ちゃんは泣き止んだ後、笑顔を向けてくれた。


「とらじろうの生首ストラップが発売されたら私、一生大事にする」


 それはそれで怖いよ水奈ちゃん。


◇◇


 学校に入りHRが始まる。教室にやって来たのは、いつもの女性の先生ではなくて、紺色の短い髪をした、背の高い男性の先生だった。半袖のカッターシャツに、グレーのズボンを穿いている。


「おおー元気にしてたか? 都合により長期旅行に行ってしまっててすまんな。一応俺が、このクラスの担任って事になっている 墓川 宏次だ。改めてよろしく」


 あ、4年生の時担任だった。墓川 宏次先生だ。


「先生帰って来たんですかー!?」

「お土産! お土産!」

「今回は何処に行って来たんですか?」


「まぁ待て、落ち着け。いっぺんに言われても分からん」

「とらじろうの仇ー!!」


 ハサミを持った水奈ちゃんが、宏次先生に向かって行った! やばい! 殺し屋の目だ!

 宏次先生の手刀が、水奈ちゃんが持つハサミを叩き落とした。


「犬神? なんの真似だこれは?」


 宏次先生は、水奈ちゃんの首根っこを軽々と掴んで、捕まえた。


「とらじろうの仇! 離せぇ!」

「とらじろう? ははん、さては犬神、『駆ける妖刀』を見たんだな?」

「そういえば、とらじろうの敵の墓川 宏次将軍と、先生。名前が同じだよね?」

「そりゃそうだろう。『駆ける妖刀』は俺が書いたんだからな」

「「「えええ!!!」」」


 以外と近くに居たんだ。世界は狭いんだなぁ。


「げ……げんしゃくしゃ様でございましたか!」


 水奈ちゃん、噛んでる噛んでる。


「犬神、お前が俺の書いた物語を絶賛してくれている事は分かった。そんなお前に良いものをやろう」


 宏次先生は携帯を手にしている。あ! ストラップに手の平サイズの生首がぶら下がっている! ちょっと目がうざそうに見えるけど、とらじろうだ!


「それは!? とらじろう様の生首ストラップ!?」

「ただのストラップじゃないぞ? 見て見ろ」


 宏次先生は、生首を握りしめる。離すと……「まったりしていってね!!」と、生首が喋った。


「「「おおおおぉぉぉ! しゃべったー!!!」」」

「俺の寝首を掻かないと約束できるなら、この発売前の『限定とらじろうまったりストラップ』をお前にやろう。どうだ?」

「ははぁー仰せのままに」


 地に下ろされる水奈ちゃん。先生は自分の携帯のストラップを外して、水奈ちゃんの手に渡す。その時の水奈ちゃんの顔は、極上の笑顔だっただろう。その後ろ姿から、なんかもう身体中から花畑が放出されているみたいだった。


「犬神だけずるいぞー!」

「そうだそうだ!」

「心配しなくても、お前達にもお土産があるぞー」

「何々?」

「まずはこれ」


 教卓に置かれた箱詰めの蓋を開くと、小麦色の肌をした小さな人形が詰まっていた。緑の腰みのをしており、ハイビスカスの花の輪が首から掛かっている。


「なんですか? それ?」

「ハワイの人形焼きらしい」

「人形焼きって、これ只の肌が焼けた人形じゃない?」

「なんか間違っているよ! これ食べられないでしょ?」

「人形焼きって食べ物なのか? じゃあ次はこれ! 萌えツタンカーメン。エジプトでは人気らしい」


 宏次先生は、こけしみたいなツタンカーメンを握りしめてクラスの皆に見せつけた。うーん。何だろう、率直に言うときもかった。


「なんでも、たき火の燃料で、皆で燃やしながら、『萌えー』と叫ぶらしいぞ?」

「燃えツタンカーメンじゃない!」

「先生、絶対騙されてるよ!」


「くしゅん!」と、白兎君が小さなクシャミがクラス中を響かせた。何か、顔が赤くて、ボーっとしている。それに気付いた宏次先生は、白兎君の席の隣まで来た。


「おお、長月? しんどそうだけど大丈夫か?」

「うん、大丈夫……」

「体調が悪いなら保健室に行けよ」

「うん、大丈夫……」

「1+1は?」

「うん、大丈夫……」

「おい、者共、長月を保健室に連れて行けぇい」

「ははぁー仰せのままに!」


 白兎君は、水奈ちゃんを筆頭に、沢山のクラスメイトに連行され保健室に連れて行かれた。教室を出るその瞬間まで「うん、大丈夫……」と言っていた白兎君。本当に大丈夫かな?


◇◇


 お昼休み。白兎君が心配なので、保健室に来た。保健室の先生は居ないみたい。ベッドに向かうと、寝ている白兎君とグニグニが居た。


「あれ? グニグニどうしたの?」

「桜桃か。丁度良いところに。どうも白兎が悪魔に憑かれているみたいなんだ」

「悪魔?」

「うん、夢魔と言ってね。夢の世界の住人なんだ」


 白兎君の寝顔を見る。凄く苦しそうに息を洩らしていた。


「目に見えないから油断していた。お願いだ桜桃、君の力を借りたい」

「どうすれば助けられるの?」 

「近くで寝れば、夢の世界へリンクできるはずだよ」

「でも、こんなお昼の時間、全然眠くならないよ」

「そういうと思っていいものを持っている。眠りの杖と言ってね。振るうと眠らせる効果があるんだ」


 そう言って、グニグニが手にしたのは、どう見ても木製のバットだ。


「それ、絶対気絶させるバットだよね!?」

「いくよー!」

「待って! 心の準備が!!」


 物凄い衝撃音が頭に響くと共に、私は気を失ってしまった。

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