【 転結の項 】
第14話 彼の出会いは彼女の再会でにゃんにゃんする
◇ ◇ ◇
蓑笠を着た男女の二人旅。
雪景色が似合いそうだよなあ、などとどことなく風情を感じながら先行く俺達の旅路は至って順調だった。
街道を駆ける馬車での移動の時、カレンはユアとパーティメールのやり取りをしては楽しそうにしてた。
宿の部屋でも、カレンはユアとパーティメールのやり取りをしては楽しそうにしてた。
そんな印象が残る旅も、ガーマを発って早5日目である。
「この峠を越えたら、村があるんだよな」
「はい。その村へ着けば、一日足らずでギルド本館があるベネクトリアへは行けます」
「じゃあ、今日はその村で宿のお世話になるな」
山間の坂を登るカレンの後ろを、えっほらえっほらついてゆく。
んで、勾配が緩くなったところで、カレンが止まっていたので、どうしたと一言。
彼女が見る先を見れば、何か蠢いていて、それはモンスターの群れだった。
地面にはアザラシくらいの大きさはあって風体も似ているが、元いた世界で言うところのイモムシのモンスターと、空にはバタバタと舞うこれまたでっかいバタフライ。
十数体はいるだろうか。
それで、そのモンスターが集まる中心で人影の獣影?
頭に耳を持ちお尻辺りに尻尾を垂らす娘こがいて、集団の外では細い棒でモンスターを叩く小柄な娘こ。
以上見るからに、モンスターに襲われている二人である。
助けなきゃな、と思った時には、
「イッサ、疾風系の範囲魔法をっ」
隣、剣を携えカレンが駆ける。
「いやでも、それだと」
「巻き込みますっ」
言って、カレンがズザっと地を鳴らして踏ん張り、構える。
剣先を後ろへ送る脇構え。
「『風月の一陣』」
横に薙ぎ払われた剣撃から、大きく広がる風の刃が放たれた。
激しく空気を唸らせ、風の刃はそのままモンスターの集団をまとめて貫く。
「ああ、やっちゃったよ」
外側にいた人は大丈夫だったようだが、中の人はカレンの宣言通り、もろに”巻き込まれた”。
「やはり、一撃では無理でした。イッサお願いします」
俺は言われるがまま、風属性の魔法を芋虫と蝶へ向けて唱えようとする。
俺がやろうとしている行為は、冒険者同士でいうところの『巻き込み』。
本来なら、一声掛けるのがマナーであるが、1回も2回も変わんないからもういいだろ。
それよか、攻撃した以上早くモンスターを倒してやるのが先決だ。
この世界からの人間への恩恵なのか(モンスター側からすれば、モンスターもそう思ってそうだが)、技スキル攻撃での人が受けるダメージはモンスターへのそれと比較すれば軽傷で済む。
だから、パーティによってはこの『巻き込み』を使い、囮を立ててそのまままとめてドーンって戦い方をする者もいるくらいだ。
囮役にはライフゲージが高い者や、痛みはあるだろうからマゾチックな者が適任だろうな。
そんなわけだから、後はあのモンスターに囲まれていた獣人っぽい子が打たれ強いことを信じて、教会送りにならないことを祈るばかり。
「『ティガルシオン』っ」
すべてを切り裂く真空の刃が発生する。
俺は消費SP40、追加スキル効果で-5の35ポイントを消費して、疾風系上級魔法を発動した。
ギュイ~ンと景気よく減少するSPゲージ。
やっぱり女の子を助ける時は、全力投球だよな。
「キミ、エロいにゃーね。ルーヴァの服、切り刻むつもりだったね、にゃ。カレレの彼氏じゃなかったら、噛み付いていたよ。にゃ」
モンスターを殲滅した岩肌の側。
今俺の目の前には、やっつけのようにして『にゃ』を付ける軽口が好きらしい獣っ娘がいる。
年の頃は俺と同じかちょっと上なのかな?
とある盗賊っ娘にはない豊満なボディと、とある盗賊っ娘にはないセクシーさを口元に感じる獣人女子だ。
が、正確にはこの世界に獣人はいないので、職業が獣人の冒険者ってことになる。
そのようにカレンから紹介された。
ちなみに服は、不思議なことに(残念なことに)ダメージを負わないんだなこれが。
つまり、彼女の冗談ってことである。
「ルーヴァ、イッサは今お世話になっているただのパーティ仲間です」
とのカレンの紹介に、
「お世話しているらしいただのパーティ仲間のイッサです。先程は特に深い意味があって、あの魔法を使ったわけではありませんので、誤解なきようよろしくお願いします」
「これこれは、にゃ丁寧にありがとうにゃね。ちなみにルーヴァの耳と尻尾は飾りにゃので動いたりしないから、期待しちゃだめにょろよ」
なんだか、いろいろ定まっていない獣人ルーヴァに愛想笑いを浮かべていると、隣から小柄な子が一歩前へ。
ローブを纏う赤髪の、どことなくおどおどしているようなその子は、ルーヴァと対象的に素朴な感じの可愛いらしい子。
「初めまして、あのボク、アキラと言います。僧侶職です。えっとボクのレベルはルーヴァやカレンさんと同じ99です」
なんだろ。
オレっ娘じゃない分マシな気もするが、変な獣人の次はボクっ娘僧侶でした。
などと、微妙な濃さがあると思いつつもこの二人、かつてカレンと魔王退治に行ったんだなよ。
実力は本物のレベル99ってことで……さっきの戦闘は、別に俺達の出る幕でもなかったような気がする。
「いやや、でも助かったよ。獣人職って単体技しかないし、アッキーも自分の回復でSP使いまくってたから、もしかするとヤバかったかもしんない」
「本気を出せばルーヴァがあの程度の相手に苦戦することはないですよ。大方貴方はモンスターが逃げ出してくれるのを待っていたのでしょう」
「んー、そうなれば良しとは思ってたけど、半々かな」
カレンとルーヴァの話に耳を傾けるも、話の内容は理解できるがイマイチ得心には至らない。
そんな俺の気持ちを悟ったのか、ボクっ娘アキラちゃんが『ルーヴァは地元の人なんです』と教えてくれる。
ああ、なるほどね、だからあんまり生き物は――。
「一応冒険者だし、ルーヴァは遠慮なくモンスターは倒せるにゃよ」
付けネコ耳がくるりとこっちを向く。
「俺に対してはネコ娘にゃんすね」
「そうにゃ。男の子はこれが好きなんだろ、にゃ」
「いや俺はその属性持ってにゃいから、別になんともにゃいっすよ」
「そうにゃのか。イササはもええににゃらないのにゃね」
「もええにはにゃらにゃいっすね」
こうやって、にゃーにゃー会話を続けることしばし。
カレンがさてと、動きを見せた。
「イッサ。それにルーヴァにアッキー。積もる話はありますが、ここでずっと立ち話もなんですし、村に行ってからゆっくり語らいましょう……にゃ」
どうやら言ってみたかったらしいカレンの初々しい『にゃ』に、俺は前言撤回突破で激しく萌えた。
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