第11話
オシャレなカウンターテーブルにはドリンクが2つ。
そのうちの1つはアルコールが入っており、普段から飲みもしないのに注文してしまった。
注文した以上は口を着けるのがマナー。
くいっと青い液体を喉へ通す。
カレンの俺への告白。
告白に違いないそれは、俺の思っていたのと違っていた。
結果、思いも寄らない果ての思いも寄らない結果だった。
いやはや、ややこしいな。
『私はテレル山でレベル上限を上げたら、このパーティを抜けます』。
俺が期待して待ったカレンの口から出た言葉はこれだった。
そして、俺だけに話したかった理由であるが、俺がこのパーティのリーダーであるから、脱退に際して代表者への事前の断りだそうだ。
こういうのがカレンの中にある筋らしく、どうしてもテレル山へ向かう前には伝えないといけなかったそうな。
なんかそれが、最低限の礼節らしい。
自分の勘違いによる、穴があったら入りたい恥かしさに、いつかはと心の片隅に置いていたカレンが抜けてしまう現実を、再確認させられた俺。
まともな返答はできず、とりあえず何か飲もうかと俺はお茶を濁すのだった。
「カレンはもっと、不真面目にならないとな」
粗方落ち着いた思考で出した答えである。
「不真面目ですか。……私は十分に不真面目です。みなさんに伝える覚悟がないばかりに、ずるずると引き伸ばしてしまいました。身から出た錆ですけれども、だから今、ユアやノブエさんへ伝える機会を逃してしまっています」
言って、しゅんとなるカレン。
だから、そういう物の考え方をだね、と言いたいのだけれど。
面倒な性格と言えば、それまでだが――。
カレンとしては、ユアやノブエさんにも脱退することはちゃんと伝えたい。
けれども、今回の冒険『カジノ』の主役であるユアやノブエさんの楽しい一時に水を差したくない。
じゃあ、明日にでも伝えればと思うのだが、テレル山へ向かう前に自分の脱退をユアやノブエさんへ話さないのは不誠実だ、的なことで駄目らしい。
俺の解釈だと、明日になればパーティの目的が『カジノで楽しもう』から『テレル山でレベル上限上げ』に変わる。
この変わった時点で、旅の目的の意味するところが、レベル上限を上げた後=カレン脱退 としないことが仲間への偽りになる。
たぶんこんなところで、無駄に悩んでいるんじゃないのかな。
「結局私は、自分が誠実でありたいためだけなんです。こんな風に、自分が悩んでるってそれをイッサに分かってもらって、それで私は自分を、正当化しようとしている意地汚い女なんですっ」
強い語気に驚きながらに、カレンってこんな感じだっけと違和感を覚えた俺の目が、いつの間にかカラになっていたグラスを捉える。
そうして、ある推測に至る。
「カレンの飲んだほうが、酒だった……のか」
「お酒。はい。私お酒飲みました。大丈夫れす、大丈夫です。私こっちで成人むかれてますから」
それから、カレンがテーブルへ打っ伏すのに、ものの数分と掛からなかった。
可愛い子は寝顔も可愛いくて、見てる分には良いのだけれど、
「なんだかなあ……」
である。
予想を裏切らなかった結果に、けろりとしていたユア。
チップをすべて使い切ってしまったその手には、2枚のチケットを持つ。
「はいこれ。なんか10万ゴールド分のチップ買ったら1枚貰えるみたい」
ぴらっと渡された1枚の券はクジ引き券。
「なんで俺? 2枚あるんなら、お前とノブエさんとで使えよ」
「ノブっちはイイって。カレンはあんなだし」
ユアに釣られて傍らへ目を配る。
大きな紳士の背中には可憐な紫陽花が一輪。
一杯の酒にて眠りへと落ちていたあんなカレンは、ノブエさんからおぶられる。
「……じゃあ、引いてみっかな。最近はなんかクジ運も普通のような感じだし」
俺はキョロキョロとしてウサ耳を探し、発見した赤いウサギちゃん(赤色のバニ―ガール)に券を使用する場所を尋ねた。
夢を乗せカラカラと白い玉が回るルーレットに、めくられる度に歓喜と溜息を鳴らすカード。
俺達は静かな騒がしさ、冷ややかな熱気の音を残して、別室へと移動する。
ロビーを通り案内されたそこには、俺と同じクジ引き券を手にする幾らかの客。
受付けらしき台があり、ネクタイをする男性とバニーちゃん。
こちらは黒いウサギちゃんだった。
で、その女性がテーブルに置く物体のハンドルを客に回すよう促していた。
「あー、ガチャポンだ」
「確かに、ガチャガチャだな」
ガチャリガチャリと回して、中からカプセルが出てる抽選機。
まさか、こんな場所で見るとは思わなかったが。
前に並ぶ客を見るに、取り出し口からころんっと出てくるプラスチック容器が、硝子玉に代わる以外はまさにガチャガチャで、その中にある番号に照らし合わせた物がもらえるようであった。
「それではお嬢様、どうぞお回しになって下さい」
ユアがガチャリガチャリ。
ころん。
「こちら、当カジノのマスコットでもあり街の人気者ガーマくんです。おめでとうございます」
ユアの手にカエルのぬいぐるみが渡される。
7対3でリアルな造形の方が勝っている緑の人形。
「ねえ、イッサ。ウチは、きゃー何これ、ゲロカワいいんですけど☆ とか言った方がイイのかな」
「言葉にしない気遣いもあると俺は思うぞ」
『ウサギでカエル推しされてもね』とハズレを引いたユアはボソリ言って俺に順番を譲った。
ガチャリガチャリ。
珍しく期待を込めて俺はハンドルを回す。
クジ運が良い、は言えない俺。
けれど、今日このごろは”悪くはない”とは言えそうだ。
レベル100の時のステータスポイントもよくよく考えれば、『5』は真ん中であり普通。
損得で考えれば+10のボーナスがある俺はカレンよりも勝っている。
そして、散々戦ったジュエルドラゴンからは、2分の1程度で難なく『輝く赤石』を手にできた。
なんだか近頃の俺、やっと当たり前の運になっている。そう、実感できているのだ。
だから、ハズレのカエルなんて引かねーかんな。
ころん。
カランカラン、とベルが鳴った。
「おめでとうございます。大当たりです]
鐘の音と祝福の声が鳴り止む頃になって、ようやくその意味を理解し胸が高鳴った。
驚愕といった顔を向けてくるユアを放ったらかしに、黒ウサのお姉さんからの話に耳を傾けた。
どうやら、冒険者の俺には都合の良い、『高級装備品』を引き当てたようである。
客が冒険者ではない場合の配慮か、同じの価値のある高級家具にも変更できると言われた。
高級家具――タンスとかが一瞬過ぎったが、たぶん違うだろうなあ、などと思いつつ、俺はここで高級装備品の方の内容を問う。
案の定、決められてからのお楽しみです的なことで教えてもらえなかったが、職業に合わせたものであると説明を受けた。
だったら、迷うことなく。
「変更なしでお願いします」
職業魔法使いを伝えて間もなく、蝶ネクタイの男性が横に長いケースを抱えて持って来た。
小柄なユアなら、押し込めればどうにか詰め込めそうな大きさ。
さっきから、俺よりそわそわしているからウザくていかん。落ち着けっての。
そうして、ケースが開かれる時がきた。
期待感がピークに達すると同時に俺の目に飛び込んできた物は――1本の杖だった。
「う……ん」
喜びを一気に冷ます自分が、嫌なくらいに分かる。
ローブを纏えし魔法使いが、いかにも使いそうな木の幹から削りとった大きなコブのある杖。
――確実に邪魔くさいな。
俺、軽装第一、手には何も持たない派なんだよね。
もちろん武器は持っていた方がお得なので装備しているけど、
普段は指揮棒のようなコンパクトな杖を、ナイフのように腰のベルトに掛け収納している。
「こちら古代魔道士の杖は、SPドレインが備わる大変優れた高級装備品です。おめでとうございました」
その言葉にますます顔をしかめてしまったが、とりあえずは笑顔を貼り付け、ケースはいらないと中身の杖だけを手にしてその場から身を引いた。
「良かったじゃん、大当たりなんだから、当たりなんでしょそれ」
「まあな……」
その点は素直に嬉しいけどさあ。
俺は浮かない顔でユアを見ていた。
下手に貴重なSP関連の効果が付いているから、たぶん俺はこの場所を取る長さと無駄に頑丈そうな太さを持つ棒を、捨てることも売ることもできないだろう。
この世界ってほんとSPにキビしいっていうか、よく出来ているっていうのか……SP関連のアイテム、装備、スキルは貴重なので疎かにできない。
それで、古代魔道士の杖はSPドレイン。
この世界に於いて、ライフとSPはセットである。
よってSPを持たないモンスターはいないだろうから、相手を殴れば確実にダメージ割合で自分のSPを回復できることになる(そう効果の説明があった)。
一見とんでもない武器を手に入れたようにも思えるが、魔道士たるもの後衛職である。
モンスターを殴る行為が、まず難易度高いつーの。
こいつを作った奴は、その辺りのことをまったく分かってない。
「どうせなら、増加とか軽減系が良かったよな……」
邪魔にならない小物は前提として、もしSPの容量が増加するのだったら、強力な魔法を使えてたかも知れない。
今俺の最大SPは40だから、あと10以上増えれば『ドラゴニール』の更に上の『フレイヤ』や、無属性の『プレアデス』を使用できるんだよな。
(追加スキルの-5があるから、増加ポイントは最低5以上であればなんでもいいのだが、増加系は50ポイントからスタートする物がほとんどだった気がする)
軽減なら、ポイント次第では中級クラスの魔法がSP消費なしで使える。
強敵でないモンスターとの連戦であれば、増加よりこっちの方がかなり利点があったりもする。
うーん。
どうしよう、この古代魔道士の杖……。
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