第9話 出発前夜は褐色少女が色めき立つ

  



      ◇ ◇ ◇




 200万ゴールド。

 それが俺達の掲げた目標金額であった。


 この金額は、俺とカレンのレベルの上限を上げるために最低限必要としたもの。

 カレンの、10前後のレベルUPさえ出来れば思い描く足りない力の分には届きそうだ、との発言から設定した。


 何かとサーシャに不満なユアとしても、ちまちまテレル山に通うより良いからと賛成してくれた。

 まあ、『大金を叩きつけて、あの巫女の鼻の穴をウリウリ開けてやるっ』と言っていたこっちが本音だろう。

 正しくは、鼻を明かすだけどな。


 ノブエさんさんから特に異論はなく、一度に運べるゴールドとして妥当じゃないかしらとのことであった。


 そんなこんなで、買値が崩れることもなく(道具屋さんからまだまだ売りに来いとさえ言われた)目標金額目指して俺達のジュエルドラゴン狩りは始まり、

ウーゴの街を拠点にするようになって一ヶ月程の頃に、その目標は達成されることになる。


 だから、さあ、いざテレル山へ! と言いたいところだが、そうもいかないのであった。


 晩飯も済ませた宿の一室。


「イッサはイイけど、カレンは大変だよねそれ。カレンの可愛さ台無しだからね」


「私としては、以前見た映画の武士のような気分を味わえるので割りと好んで着用していますが、宿のご主人を謀ることになるので、少々心が痛いですね」


 カレンは隠れ蓑笠みのかさを部屋の壁に掛けると、しかめた顔をユアに向ける。

 うーむ。

 謀る――と言えば、確かに謀っているよな。

 レベル99の料金で利用しているんだからな。


 俺やカレンは、隠れ蓑笠の隠し効果(隠れ蓑笠だけに、とかついつい言ってしまいそうになるが)

アナライズキャンセルを利用し、なるべくレベル100を知られないようにしている。


 知られてしまえば、どうしてもそのことに触れられるだろうから、余計な詮索などを避けるためだ。

 特に、冒険者ギルドと提携している宿は情報交流の場所でもあるので、噂になるのは遠慮したいところである。


 それで、宿の主人の反応で自覚してしまったが、レベル100というのは俺の思ってた以上に『ありえないもの』のようだ。

 見透かしの水晶の故障だとの進言を、簡単に信じてしまうくらいには、だな。


 けれどだからと言って、しょっちゅう宿の水晶を不良品にする訳にもいかす、日の支払い時に、蓑笠を脱ぐのを面倒そうにして隠し効果を伝え、

(ここの主人は隠し効果を知っていたようなので、話が早かった)

 有無も言わせずレベル99の最高利用料金をぽんと支払えば、万事OKであった。

 今では一ヶ月も通う宿なので、もう顔馴染みの顔パスだけどな。


 あとは宿の主人以外にも、たまにこっそりアナライズしてくる奴らの対策でもある。


 俺はそんなことはないのだが、カレン曰く『どうしてだか、たまにどこからかアナライズされることがあるんですよね』から、移動中も装備している。

 カレンがこっそりアナライズされる理由は察しはつく。

 可愛い子のステータスは、なんかのぞきたくなるものだからだ。

 などと、カレンには言わなかった。

 なぜなら、俺はアナライズを使えるので、あらぬ誤解を招かれてしまうからな。

 俺はそんなストーカー紛いなことはやらないよう……たぶん、心掛けている。


「ふふ~ん。一攫千金~十攫万金~、そこは夢とロマンの街ガーマだぜいえ~い」


「その様子だとお、今夜、ユアは夜更かしになりそうだわね~」


 と、ご機嫌なユアの未来を予言したノブエさんは、硬貨を10万ゴールドで小分けして革袋に詰める作業をしている。

 手伝いましょうかと言えば、いいのよん、私この数えている時も楽しいんだからん、とやんわり断られた。

 そこへ、凛と正座する大和撫子がいたりする。


「本当にユア、そしてノブエさんありがとうございました」


「またそれかあ。だからー、パーティのお金はみんなのものだから気にしなくていいんだってばー」


「そうそう。イッサやカレンがレベルの上限を上げることはパーティの目標だったんだから。それは私やユアの目標だったってことよん」


「はい、けれども感謝はさせて下さい。1人ではこんな大金は難しかったでしょうし、1人では途中で挫けていたかも知れません」


「カレンってば、そういうとこあるよね。意外と頑固っていうか。レベル40台のウチとしても、ジュドラは経験値ウマウマドラゴンだったから別にいいんだって。お陰でもうすぐ50に届きそうだし」


 ジュドラとはジュエルドラゴンの略である。

 と、それはそれとして、俺としてもカレンと同じ気持ちだ。


 同じパーティとは言え、なんだかんだで、ユアやノブエさんには俺達の都合に付き合わせてしまっている。

 けれども、この二人こそお人好しなんだろう。文句も言わず、二つ返事で了承し、こうして現に付き合ってくれた。

 カレンのように口に出すのは恥かしいから控えているが、感謝してるよ、ほんと。


 ありがとうな。

 んで――、


「まあ、カレン。俺達がレベル上限を上げる代わりに、ユアはユアでカジノに行くんだから、お互い様ってことだろうさ」


 そう、俺達は明日、巫女に会いに行く前にカジノがある街ガーマへ向かう。

 ここからだと2日かな。

 その日数があればサーシャのいるテレル山へ行けるが、これがパーティの予定であり、ユアとの約束だったのだから仕方がない。


「ねえねえ、もし1億ゴールド手に入ったら何買うおっか。個人馬車とか買っちゃう? それとも思い切って家建てちゃう?」


 それはそれは、楽しそうに尋ねてきやがった。

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