第6話
◇ ◇ ◇
ウーゴの街を出発して2日目の朝には森林地帯へ入り、昼前にはロニ森林園へ到着した。
そして、見透かしの水晶にてアナライズされる俺。
森林へ入るためには、道の入り口で待つ受付の人へ『入森料』なるものを支払わなければならなかった。
料金はレベル1つにつき10ゴールド。
俺は99なので990ゴールド。
ジュエルドラゴンの出没地が私有地なのだから、開放してくれるだけありがたく、仕方がないと言えば仕方がないので、ゴールドを支払うことに異論はないのであるが……。
俺はこういったこの世界の、レベルに応じた料金システムには不満だった。
宿屋もそうであるが、高レベルってだけでなぜか利用料金が高くなる。
なあーんか、損してる気がしてるして止まないんだよね俺。
この世界。無駄な高レベルって、確実に損だよな。
「ロニ森林園って言うくらいだから、やっぱりロニさんって人が、ここら辺全部の地主なんだろうね。絶対お金持ちだよね。間違いなくお金持ってるよね。男の人かな、女の人かな」
『玉の輿しー玉の輿しー、人生一発逆転の玉の輿し~』と自作の歌を口ずさむユアの後をついて行く。
すると木々がない開けた場所へ出る。
んで、先客のパーティがいたので、
「ども」
と会釈と挨拶を送る。
「ああ、どうもどうも。今日は良いドラゴン日和で良かったですね」
つまりは、快晴の良い天気ってことね。
職業忍者っぽい人から、脳天気に言われた俺達は歩みを止めることなく、次の”開けた場所”へ向かう。
それを繰り返すこと数回目、人影のないところにやっと出くわした。
「結構、他のパーティもいたなあ」
どうやらここは大人気スポットのようである。
まさに世界共通っていうか、儲け話は人を惹きつけるもののようだ。
「んじゃ、後はここでジュエルドラゴンがやってくるのを待つだけだな」
「ですね」
と、カレン。
そして、
「ドラゴンめ、とっとと来い。強く賢いウチが一撃で成敗してやろう。だはははは」
ユアがなんか空へ吠えていた。
変な物でも拾い食いしてたか……と、不審に思う目を向けていると、くるりと褐色少女が振り返る。
「兄貴の持ってたマンガにさあ、ドラゴンと戦うヤツがあって、なんか折角だしその主人公をマネてみた」
「へえ……あれだな。なんつーか、そのマンガ面白いの?」
「うーん、ズバリ、つまらない」
「そうか。あと……あれだな。なんつーか、あんま他所のところでは、そういうのやめておいた方がいいぞ」
「心配されなくても、ウチ、イッサと違うから。叫んだら気持ちイイかなーって思ってやっただけだし」
「あらあ、気持ち良くてヤっただなんて、なんの話をしてるの~、私も混ぜて混ぜて~」
とまあ、こんな感じでのんびり過ごしてピクニック気分を味わっていると、お目当てのモンスターが上空からやって来た。
竜系モンスター、ジュエルドラゴン。
その姿はドラゴンじゃないって言ったら、炎上すること間違いなしのザ・ドラゴン。
体長は15メートル~20メートルクラスが一般的らしい。
俺はあんな大きいモンスターを相手にする時、相手をクジラと思うようにしている。
日本人は昔、デカいクジラを獲って食べていた。
どういう方法でかは知らないが、先人達はレベルも魔法もない世界で戦い勝利した。
だから……俺もやれるだろう、ってなもんだ。
「いや~ん、ほらユア見て。イッサの目が漢の目になってるわ~」
「なんだかんだ言って、うちの魔法使いはやる時はやる魔法使いだからね。期待してるよー」
「来ます」
バサリバサリ。
土煙を上げる大地へ、尖る爪を持つ獣の足が着く。
広げていた翼を折り、ドラゴンはその突き出る口を開け吠えた。
騎士は
盗賊は獲物を狙う。
僧侶は身構える。
魔法使いは手をかざす。
「いざ、カレン・マクガレイ推して参るっ」
「君のお宝、ユアちゃんがいただいちゃうよー」
「私の魅力に嫉妬しないでね」
「俺の魔法とくと味わって逝け」
さあ、戦闘開始だ!
ドラゴンの懐に潜り込んだユアが、コマのように回転して上空へ突き抜ける。
そして、頭を逆さにきりもみ回転下降。
ズシャア、と敵を背に地へと両脚を広げて着地。
決めポーズが決まったところで、全速力ダッシュでこっちへ駆けて来る――が。
右へふらり左へふらり、と蛇行する。
「うう、キモちわるー。あの技連撃数は多いんだけど、目が回るんだよね……なんか吐きそう」
「あんま無理すんなよ。ユアも俺と同じく一撃もらうとかなりピンチなんだからよ。ほら早く俺の後ろ、後衛に戻れ」
「なんだかイッサが優しいこと言ってる……うう、キモちわるいよう……」
何に対しての気持ち悪いなのか問いただしたいところであるが、ドラゴンはそんな余裕を与えちゃくれない。
カレンがドラゴンの足元へ切り込む。
自分の足を傷めつける相手を、ジュエルドラゴンは頭部を使って振り払おうとした。
刀を盾に受け止めたカレンが、後ろへ流れる。
俺はSPゲージを確認。
よし、やはり-10は大きい。二発目がいけそうだ。
「『ドラゴニール』っ」
巨大な炎のランスが敵目掛けて飛んでいく。
いつも相手にしているモンスターなら、紅蓮の槍が突き抜けた後には消滅しているが。
ドラゴンは、残り火にその身を焦がしながら、どすん、どすんと大地を揺らしこっちへ向かって来る。
俺のSPゲージはカラッカラ。
後はまた20ポイント貯まるまで、ひたすら『ティラゴ』で敵のライフを削っていくしかない。
「と、思ってはいるもののおおおお。だらっ」
横っ飛び。
ダイブ中の足先に風圧を感じる。
どうやら頭突きは回避できた。
ゴロゴロ。
即座に起き上がり、駆ける。
止まっていてはやられるからな。
頭突き、噛みつき回避。
爪でのひっかき攻撃回避。
んで、頭突き。
飛んでは転がり、はあはあ、飛んでは転がり。はあはあ。
身体中が泥だらけになる。
んで、文字通りの七転び八起きした時だった。
正面にドラゴンの尻尾があった。
尾による地を這うなぎ払い攻撃。
――左右後ろはダメ、穴を掘って地下とかはまず無理、となれば上方だが飛び越えられるような太さ、高さでもない。
ちらり見たライフゲージは半分くらい。
早くも、回避不能に陥ってしまった。
丸太みたいな尻尾の腹が、俺を直撃する。
「はがああ」
いともたやすく吹っ飛ぶ俺は、飛びながらに思う。
車からぶつかられたことはないが、たぶんそのくらい、いやそれ以上の衝撃じゃないだろうか。
身体が木っ端微塵になっていないのは、ひとえにレベルのお陰。
レベル1でこの攻撃受けていたら、きっと飯が不味くなるような自分の身体を目にしていたかも知れない。
それはそれとして、ともかく、
「痛てええええ――ぐががが」
どっちが空なのか判断つかないようにして、地面を転がった。
「今ので……ライフ……吹っ飛んじまってる……」
ノブエさんから防御力上昇効果の技スキル掛けてもらってるし、少しはと期待したが。
さすがはレベル80以上のモンスターなのか、さすがは俺の防御力なのか。
と、悠長に分析してる暇もないよな。俺攻撃対象になってるし。
早く回復してもらわねーと、”本当に教会送り”になっちまう。
「イッサ、烈風です。ノブエさんの方へ戻って」
カレンの声に痛む身体を起こして見渡せば、ジュエルドラゴンは上空へ。
「マジかよっ」
現在俺のライフは1ポイント。
追加スキル『ふんばーる』――戦闘中一度だけライフゲージポイントの完全消失を防ぐ、つまり0ポイントなろうとした時点で、踏み留まってくれるの効果のお陰で、かろうじてここに生存している状態。
俺は一処へ身を寄せる仲間達の元へ、一目散にダッシュ、ダッシュっ。
――たあ、走ってばっかだ。
俺の身体に癒やしの光が灯る中、身動きが取れないくらいの強風が巻き起こる。
「うお。こりゃ台風だな」
顔の前で両腕をクロスさせたそこからのぞけば、浮かぶジュエルドラゴンが翼をバサバサ動かしていた。
痛みなどはないが、ノブエさんから回復してもらっていたライフゲージがジリジリと減少していく。
この世界のややこしいところに、痛み(実際に感じたダメージ)とライフゲージへのダメージ(敵の攻撃)がシンクロしない部分がある。
へっちゃらだぜって顔が余裕でできる攻撃を受けたら、半分くらいライフを持っていかれてました、とか、ライフは0に近いが体の調子は絶好調だぜ、などザラだ。
なので、ゲージはこまめにチェックしないといけない。
「良い感じで戦えていますね。この感じなら、ノブエさんのSPが完全に尽きてしまうまでには倒せそうですっ」
先に、俺の素の体力のほうが尽きそうなんすけどね。
「どうですイッサ。この調子で凌げそうですかっ」
「どうだろうな。もう『ふんばーる』使っちゃったしな。けど、凌げそうっていうか……ここは凌ぐしかないだろっ」
俺は唸る風に負けじと声を張る。
「おお、やる気~。ならウチ、効くかどうかだけど、麻痺攻撃仕掛けてみよっか。成功したら少しは楽っしょ」
「おう。助かるっ。けどあんま無理すんなよ。ドラゴンだってただの木偶じゃない。近くに俺やカレンがいなかったら攻撃してくるからなっ」
「はいはーい。分かってますってっ。最悪ウチには英雄の帰還もあるし、ダイジョブっしょ」
特性スキル『英雄の帰還』は、『ふんばーる』と同じくライフ0ポイント時に効果があるもので、教会送りにはならずにライフとSPをフル回復させる。
大層な名前に見合う効果だ。
が、しかしそれは発動したらの話。
この世界の英雄とやらは、稀にしかご帰還しない仕様である。
「は~い、全体回復するわよ~ん」
風が弱まる中 ノブエさんの『癒やしの灯火』が発動する。
ブンと広がる地面に描かれた魔法陣。
そこから揺らめく淡い光に、俺達は包まれる。
効果範囲内のパーティのライフゲージが、最大値の50%回復した。
身体は相も変わらずではあるが。
俺は息をすうっと、吸い込む。
それはどこか高揚を抑えるためのものであった。
しかし――。
瞳が爛々とするカレン。落ち着きのないユア。鼻息を荒くするノブエさん。
俺と同じく興奮状態のみんなを見てしまっては、全く意味を為さない深呼吸だった。
「よし、みんなっ。気合入れてジュエルドラゴンを倒すぞおお」
「承知」
「まっかせなさーい」
「私、頑張っちゃうわよん」
再び大地へ足を降ろしたジュエルドラゴンへ向かって、俺達は駆け出す。
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