37話 人は好きな者に狂わされる ※長野業正・真田幸隆が登場
すると、
幸隆は不気味にもほどあるだろというほどにニコッと笑い「業正様、本当に完全なる独り言ですよ。佐太夫の奴が独房に入れられてから、俺、実は精神が死ぬほど病んでるんで。気晴らしに水をかぶりました。」とかなり強引に嘘をついた。
そして、業正は騙されたのか「......そうですか。」と神妙な面持ちで言うのであった。
続いて、幸隆はヒョウキンな落語家のような顔をして「そうなんです。」と言うのであった。そのあと、唐突に真剣な顔をした幸隆は付け加えるように「一つだけ聞いていいですか?」と業正に尋ねる。
業正はニッコリと笑い「なんでしょう?」と首をかしげた。
幸隆は、ずっと、ずっと疑問に思っていた「業正様は、なんで
その瞬間だった。業正はニコニコ笑いなが硬直した。
「へー。理由も言えないほどの事情でもあるんすか?」
「いえいえ。僕は、あの方が好きなんですよ。......残念なほどに。ただそれだけです。」
「ふん。そんだけで、関東管領のために命を賭けられるって正気じゃないっすね。ボケすぎますわ。」
業正は透き通った目で真っ直ぐに幸隆を見つめると「じゃあ、君こそ
そして、幸隆は、心の中でドキッとすると業正を凝視する。
業正はまたニッコリと笑うと、幸隆に語りかけるように「覚えておいてください。人は好きな者に狂わされて一生を終えるんです。それは僕だけに限ってことじゃないですよ。」と優しく笑うのであった。
「......なるほど。」
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