第一章 初陣

第五話 運命の出会いは突然に

太陽が出てるのにバカ寒い。今日はそういう天気であった。幸隆は弟の頼綱を落とし穴にハメたあと、草原の上に横たわり「があああ。があああ。」とケダモノも近づくことをためらうほどのイビキをかいていた。そして、そのド迫力の己のイビキで「うわ!?」 と幸隆は目覚めた。すると、突然、幸隆の脳裏に己の父親の顔がよぎったのだ。この瞬間、幸隆の心は、なぜか申し訳ない気持ちで一杯になった。それをきっかけに幸隆の目から一筋の涙がこぼれてきた。そして、それを誤魔化すように不意に冬の太陽を凝視して目をこすった。


「悪い親父。でも今の俺はこんなんだ」


 幸隆が起き上がるとデカッ腹で豪勢な着物をきて、腹のたつたれ目をした男がたっていた。その男の名前は海野幸義。小県の領主の海野棟綱の息子である。幸義はタラタラと誰が聞いてもイライラするような声で「プププ。バカだな。幸隆ちゃんはぁー」と幸隆に話しかけた。

 幸隆はボソッと「......体臭クサイ」とささやいた。

 すると幸義は一瞬、しらけた顔をしたあと「プププ。この海野幸義の、一番気にしてることをよくも言ってくれたね。 この小県の支配者の跡取り息子の僕チンに侮辱だなんて、 幸隆ちゃんも偉くなったもんだねー。腰抜けの分際でさぁー」 とイライラ交じりの声で幸隆に罵声をあびせた。

 幸隆はニヤリと笑うと「俺のクソボケな弟と仲良くしてくれて。ありがとう。七光り体臭野郎」となおも体臭イジリを続けた。

 すると泥にまみれた幸隆の弟である頼綱が幸義のうしろから姿をヒョッコリ現した。その眉間に穴ぼこができるほどに顔を歪ませていた。「口を慎め、武士の恥め。 血が怖いくせに兵法の勉強しやがって。目障りなんだよ!!あと、落とし穴は反則だからな。卑怯者の腰抜けめ!!!」

  幸隆は腹を抱えて笑い転げた。笑いすぎて目から涙をこぼすほどであった。そして、笑い終わると「うるせぇぞボケ。一生、穴にハマっとけよ!!戦いなんて卑怯なことしてなんぼだろ!!」と吠えた。

 そして、スタスタと幸隆は幸義と頼綱の間を通り抜けようとした。

 しかし、 それを許さない者がいた。「ちょっと待て、武士の恥!!」頼綱は幸隆の肩をつかんで顔をブン殴った。

  幸隆は少しのけぞり「なにすんだよ!!童貞!!!」と暴言を吐いた。

  それを幸義は小県の跡継ぎになる者とは思えないほどに嫌らしく「プププ」と笑い。そしてニコニコしながら「頼綱は優しいじゃん。俺がこんな奴の弟だったらぁー、 殴るどころか縁を切ってるぅー」と言った。

  頼綱はキッパリと「俺と幸隆はただ兄弟なだけですよ。縁なんかない!!」と言った。

 

 「あれ?腰抜けが二人いるな」


 少し離れたところから男の声が聞こえてきた。

 突然の出来事に幸義は驚いて「だれぇー!?」と叫んだ。

 

 幸義が叫び声をあげた瞬間。ダダダと何者かが疾走する音が聞こえてきた。そして、その音は徐々に大きくなっていく。

 足音が止まった瞬間。幸義は何者かに殴り飛ばされて、宙を舞った。

 

 「二人がかりで一人にたかるなんて、腰抜けすぎて笑いがでるな。 オッス!!俺の名は鷲塚佐太夫だ。よろしくな!!」

 

 吹き飛ばされてのぼせ上っている幸義をみたあと、頼綱は佐太夫と名乗る男を三度見したあと「あんた誰??」と考えるより先に言葉がでた。

  佐太夫は頼綱の問いにお構いなしに「よし!!。お前のあだ名はおクソ様だ!!!」と謎のあだ名をつけた。

 頼綱は「お、おおお、おクソ様!?」とスゴク動揺した様子だった。

 すると、佐太夫は幸隆の手を引っ張り「お前!!逃げるぞ!!!」と言って逃げ去った。


鷲塚佐太夫。彼との出会いで真田幸隆の人生は大きく動きだすのであった!?

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