第四話 それからの源太

天文五年(1536年) 信濃しなので乱世のスタートボタンが押され 10年以上の歳月が流れた。信濃は群雄割拠し、いまだに信濃を統一する猛者は出現していない 。

 朝日の眩しさが、心地いい今日この頃。海野城うんのじょうから少しはなれた森林。そこに源太げんたの弟・源之助げんのすけがいた。今や、すっかり好青年となり、高身長で短髪のツンツンした髪型をしていた。そして、源之助は成長して真田頼綱さなだ よりつなを名乗るようになっていた。その頼綱が神妙な面持ちで目の前にひっそりと立つ小屋に立ち尽くすと、それにむかってボソッと「......ここが幸隆ゆきたかの腰抜け部屋か」と言って、小屋の扉をガガと勢いよく開けた。

  小屋の中には何のためか分からないほど大量の書物がしまわれていた。そして、その小屋の中央に本を読みあさっている一人の男がいた。彼こそが成長した源太。今は真田幸隆を名乗っていて、目つきの悪さが一段と悪化していた。そして、その幸隆が黒々したボサボサ髪をかき上げると後ろをチラリとふりむいた。

 頼綱は小屋の中に入り、年のこえた村長の演説ほどの大声で 「おい!!真田幸隆。この武士の恥。いや。真田家の恥。いや男として恥!!」とこれでもかと叫んだ。

  すると、幸隆はとんでもない小さな声で「......童貞」と意地悪くささやいた。

  頼綱は幸隆の小さな冷やかしにも負けじと、それを吹き飛ばすかのごとく「そんなことは、どうでもいい!!まだ親父の仇取る気でいんのか?このバカ野郎!!あんたごときの男が村上義清むらかみ よしきよを討てるはずない!!」 と正論をぶつけた。

 すると、幸隆は、またしてもとんでもない小さな声で「......堅物という闇の童貞」と悪魔のササヤキを繰り返した。

  頼綱は再度巻き起こった幸隆の小さな冷やかしにも負けじと「誰のおかげで。 一族が盛り下がらずにすんでると思ってんだ。 ......この俺が!!恥さらしな兄にかわって戦場で活躍してるからだろ!? 兄として一人の武士として恥ずかしいと思わないのか!!このタワケ!!」

  すると、幸隆はまたもや、とんでもない小さな声で。おまけに嫌味ったらしく「......童貞で恥ずかしい」とケラケラ笑いながらささやいた。

  それにも挫けず頼綱はこれが最後と言わんばかりに「ちゃんと返事しろ!!俺の悪口ばかり言うな!!」と快進の大声をだした。

  すると、幸隆は無表情で「......悪ぃんだけどよ。外に出てくんねえか?」と返事をした。

  頼綱は顔を歪めると「はあ?。......ふざけるなよ。俺はアンタのことを心配して!!」と幸隆に己の本音をぶつけた。

 しかし、こともあろうに幸隆は「......」と、それを無視をした。

 頼綱はあきれたように「 わかった。勝手にしろ!!俺は外に出でる!!」と言ってまた扉をガガと勢いよく開け外へでた。

 真田幸隆は頼綱が外へでると「......ボケが頼綱」と小さな声をだした。そして、それとほぼ同時に彼は物思いにふけった 「悪い親父。これが今の俺だ。初陣で血を見て気絶していらい から、周りの奴らからは腰抜け呼ばわり。......こんな俺を許してくれ」と。

 すると、外から「うわぁぁああああ」 と頼綱の大声が聞こえてきた。

  幸隆は小屋の中で「しゃぁぁあああ。ザマァァアア!!」と大物をしとめた獅子かの如くにおたけびをあげた。そして、頼綱以上の大きな音をたててガララと扉をあけた。

 そして、外には綺麗に落とし穴にハマった頼綱の姿があった。頼綱は怒って「また、こんな物ばかりつくりやがって!!ここから引き上げろ腰抜けのクソ野郎!!この武士の恥!!ゴミ!!」が目を鋭くさせて猛虎のような怒号を落とし穴から響き渡らせた。

  幸隆はニコっと笑って「小屋に着いたときは引っかかってくれなかったのにな。帰りにひっかかるなんて。ボケみたいな引っかかり方だな。マジでザマー」と頼綱をあざわらって、地上から頼綱に砂をかけた。

 頼綱は怒り心頭の様子で「...アンタという男は」と悔しさをにじませた。

 すると、幸隆は何かを思い出したかのように、わざとらしく「そういえば俺は今から昼寝の時間だった。じゃあな!!ボケな弟よ。マジメな奴だったよ。てめぇのことは一生、忘れない」と言って、その場をゆっくりと去っていった。

  置き去りにされた頼綱は「おい。アンタ!!おい!!本当に...誰かーーーー!!」と惨めに大声で誰かの助けを求めた。


  血が怖いうえに粗暴、しかも、弟を落とし穴にはめる。その上、目つきも悪い。この男こそが真田昌幸さなだ まさゆき幸村ゆきむらを輩出する戦国真田家の始祖となり。『戦国三弾正せんごくさんだんじょう』の一人と称され。甲斐の虎・武田信玄たけだ しんげんの懐刀になることを誰が予想しただろう?。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る