第三話 親父の火葬

 源太げんたは気が付くと屋敷の中において布団の中で寝ていた。それに驚いて立ち上がると目の前に真田家の主君である海野棟綱うんの むねつなが呆然とした様子で立ち尽くしていた。

 そして、棟綱は後ずさりしたあと「生きておる!!源太が生きておるぞ!!......よかった」とストンと腰を抜かし、倒れこんだ。

 このとき源太は状況をまったくと言っていいほど把握できていなかったが、それは突然だった。源太の脳内回路に父・頼昌よりまさの笑顔と、ほぼ同時に彼の死体がいっぺんにながれてきたのだった。

 そして、源太は今までの人生で、表情として表したことがないほどに真剣な顔をして棟綱にたずねた。

 「......親父は。......城の皆は。......どうなりましたか?」

 棟綱は一回ツバを深いところまでゴクンと飲んだあと、ふかく深呼吸して、こう説明した。

 「戸石城は逃げ出した者を除き、ほとんどが討たれた。 それから、......戸石城は村上義清むらかみ よしきよに占拠されてしまったのだよ」

 それを聞いた源太は不可解な状態に襲われた。意識があるのに体が動かない。それから気がつくと、源太は巨大な滝と見間違うほどの大粒の涙を流していた。そして、「うわああああああああ」と棟綱の鼓膜が破れそうになるほどの大声をだしたかと思えば「あのボケ親父が死ぬ訳ねぇ!?」と大声で悲しげな地響きをたてた。それから、屋敷の柱に頭をぶつけまくった...。

 



 夜になると棟綱の居城・海野城うんのじょうからほど近い火葬場で真田頼昌と、その家臣達の死体を燃やすことになった。メラメラと燃える光景を真田源太ら海野家家臣たち一堂は何とも言えない表情で見つめていた。

 燃える頼昌を見て、源太は突然、涙がどしゃ降りの雨のように止まらなくなった。

 その光景をみて海野家の家老である長髪でデコが広い鷲塚数綱わしづか かずつなが源太にスタスタと近寄っていった。

そして、己の配下が抱えている赤子を指さして「泣くな。兄貴だろ!!弟の源之助げんのすけは凛としているのに」と叫んだ。

 源太の弟・源之助は逃げ出した頼昌の家臣たちに連れられ生還していた。

 そして、源太は数綱ほうをむき「だって仕方ねぇじゃん。こんな、あっけない終わり方あっかよ!!。さっきまで。アイツピンピンしてたじゃねぇか!!」八つ当たりの罵声を浴びせた。

 それをうけて、数綱は力強くニヤリと笑い「これを投げろ!!」と、ある銭を源太に手渡した。  

 「これは三途の川の通行料の銭。六文銭ろくもんせんだ」

 真田源太は泣きながらニコッと笑い「知ってんよ。マジメな親父が三途の川にマジメに渡るためには。こんなデコッパチが握っちまった。その臭い手垢のついた六文銭じゃダメだろ」

 その様子をみかねた棟綱は「やめるのだよ!!......火葬の最中なのだよ。」思わず二人に注意した。

 すると、源太は棟綱を涙で充血した目でにらみつける。その圧倒的な迫力に押されて、棟綱は思わず、口をつむんだ。

 数綱はクスクス笑うとバカにした様子で「そんな顔して、源太ちゃんは頼昌の死がそんなに受け入れられないのかな?」と源太をあおった。

 源太は顔を反転させて、今度は数綱を凝視「あ!?そんな訳ねぇだろ」

 「じゃあ。その六文銭を貸せよ」

 「......やめろ」

 「死が受け入れられねぇんだな」

 「ちげぇよ!!ちげぇよ!!」と勢いよく涙を流しながら言った。そして、こう続けた「俺はボケガキの源太だ。......あのマジメ君もこんな息子をもっでマジでザマーだ」

 すると、源太ににみつけられて放心状態になっていたはずの棟綱が思わず「どういうことなのだよ?」と声を発した。

  源太はとてつもない花火のような爆発的な大声で「親父には三途の川を渡らせねぇ!!」叫んだ。

  数綱はキリっとした顔で「本気で言ってんのか?」

 その問いに対して源太は大声をかっ飛ばした「マジ!!大マジだ!!」

  数綱は少し引きつった顔になり「許されると思ってんのか?」と源太に聞いた

 「わかってらぁ。条件つきだ!!」

 「条件?」

 「俺が仇を......村上義清を討ち取るまでだ!!」

 これを言い終わるまでには源太の泣き顔は消し飛んでいた。そして、彼の顔は凛とした表情に変わっていった。

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