3

 目が覚めるといつもの自分の部屋の天井。時計を見れば深夜2時を回ったところ。夢見悪ぃ。妙に生々しいし。赤い髪の騎士なんて…よっぽど映画見たかったのか俺?まぁ汗もかいて楽になったかな。

 着替えようと起き上がると、ふと人の気配に気付く。母ちゃんじゃない。コンビニに来ていた男が部屋にいる。

「お目覚めかな?」

 鍵は掛けていたはずだ。窓があってもここは12階。まさか、俺と一緒に部屋に上がったとこは無いだろうし。男と視線を交えたまま、働かない頭をフル回転させる。

「何で?」

警察に通報か。携帯は…手が届く。

「急に立ち上がらない方が良い。」

男の言葉と共に視界がぐらつく。立ち上がれず、ベッドに手を付き座る。「大丈夫か」と近付いてきた男が俺、顔を覗いてくる。俺ははっとした。あの夢で金髪に変わった青年が目の前にいる。元騎士の血を啜り、肉を食んだ男。吸血鬼。

「夢で私の記憶の一部を共有したんだ。」

男は俺の顔を触ろうとした。俺は男の手を振り払う。

「俺に触るなっっ!」

自分でも驚くような大声が出た。

「すまない。俺はお前を傷付けないと誓おう。」

男は下がり、片足を付き跪いたまま頭を下げる。映画で観るアレだ。王様とかお姫様に向かってにするみたいに。こんな状況の中でさえ、俺の思考は別次元でフル回転だ。我ながら悲しい。無視するか。いや、意思表示は明確にした方が良い。

「どう来たかは知らないけど、帰れ。」

「それはできない。お前の魂の側にいるのが私の使命だからだ。」

「何で俺なわけ?」

そう、何で俺なのか?母子家庭だが、フツーの人生を歩んできたはずだ。霊感だってない。ましてこの状況すら夢であると信じたい。

「大昔に死んだ私の伴侶の魂は何百年もの間、何度も転生を繰り返している。どうやら今度はお前の身体に転生する事を選んだらしい。転生先を私は選ぶ事はできない。」

俺だって転生される事を了承してた覚えはない。これが覚めない夢ならば悪夢だ。つーか、『伴侶』って何?

「俺が、その伴侶とかの魂が転生したってのが、何で分かるんだよ。証拠はあるのか?」

「私が誰かとも聞かないのだ。」

男は尚も跪いたまま、顔だけを上げる。

「今までの伴侶は、私の伴侶と知って喜んだのだがな。」

俺はその言葉にムッとした。

「聞く必要はない。俺はアンタに帰って欲しいだけ。」

「…」

「…」

男も俺も動かない。相変わらず頭がハッキリとしない中、目の前では正体不明の男が俺の前で跪いている。もはや非日常だ。それでも目を逸らす事はできない。男は俺を傷付けないとは言ったが、どの程度、信用できるか分からない。

沈黙が続く。こういう空気は苦手だ。

「何とか言えよ。それか帰ってくれ。」

「それはできない。」

「どうして?」

「不本意だろうが、君は私の伴侶だ。」

不本意…自分の本意ではない事、それ位知っているさ。だが、この状況を不本意に一言で済ませて欲しくはない。仰々しく言えば、忌々しき事態だ。ふと思う、不本意と抜かすこの男も俺が伴侶やらとかで不本意なのかと。問いただしたい気持ちにもなったが、深入りはしないと心に誓う。

「まずは改めて婚礼の儀を行おう。」

男は急に立ち上がると、爆弾を投下しやがった。まずはって何だよ。まずはって。俺の意思は無視なのな。

「俺、男だけど?」

「見ればわかる。そんな平らな胸の女はいない。」

日本人女子に謝れと叫びそうになる。うちのクラスの女子に言った日には学年中から総スカンを食らうだろう。

「アンタさ、何者なの?妖怪?化け物?吸血鬼?吸血鬼だったら、招いてもらった事の無い部屋には来れないよね?あれって小説とかだけの設定なわけ?迷信?あと、さっきはぐらかされた気がしたんだけど、何で俺が伴侶って分かるの?つーかさ、アンタは男の俺が伴侶で不本意じゃねーの?」

男が俺との距離を詰めようとしたように感じた俺は、矢継ぎ早に問いを投げかける。深入りしないと誓ったばかりの誓いもあっさり破り、捲し立てる。

「俺はアンタが言うように不本意だよ。伴侶だとか前世だとかの記憶もねぇーし。急に訳分かんない事並べ立てられても、こっちは知ったこっちゃねーよ。」

「よく喋る。酸欠にならないのか?」

「ならねーよ。悪かったな!」

睨み付けようとぶつかった男の瞳が光った様な気がして、俺の肩がビクッと揺れる。

「そんなに怖がらなくて良い。」

「怖いに決まってるだろ」

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或る異世界の話(壱) 霧島 月呼 @kirishima_tsukiko

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