第2話
僕の弟は戦場で死んだ。
弟はそれを後悔していないだろうし、僕の親も祖父母も親戚も、皆それを誇りに思っている。
どれほど機械で賄われようと、やはり戦争において人という資源は不可欠であるようだった。
状況判断力にしろ倫理観にしろ、人間のない戦場は実現し得ない。
兵士の単価は第二次大戦以降上がり続けているが、コスト面を抜きにしてもその代替物が無いのは確かだった。
ずっとそう考え、ずっと納得してきた。
僕がそのファイルを見つけたのは、蒸し暑い夏の午後だった。ラジオが、ソ連軍が協定を破りバルベルデに進行した、というニュースを騒ぎ立てていたのを覚えている。
規定により開示された、三十年以上前の古い凍結ファイルから見つけたそれは、人類の英知の到達点と言って差し支えなかった。
これを倫理的な制約なんてもので四半世紀以上も凍結していた間抜け共に文句の一つも言いたかったが、そんなことをしている時間も惜しかった。
『DIVA』というそのファイルに残されていたデータはまさしく革命的で、僅かばかりの技術的な問題点も三十年という時間が補った。
自己判断を行い成長するAIという雛型に、形だけの戦争倫理と折り紙付きの戦闘論理を埋め込む。
戦場から人間を排除し得る――少なくとも、白兵戦における死傷者の数は激減するはずだ。
『DIVA』という種は非常に拡張性が高く、簡素なAI郡にも容易に転用できた。
戦争のブレイクスルー。
純粋な願いがもたらす結果の是非など、人に知る術はない。
工事用ダイナマイトは爆弾になり、飛行機は爆撃機になり、宇宙用ロケットはミサイルになった。
『一人でも多くの人間が死なないように』。
これは、僕の純粋な願いである。
もし未来で、誰かが僕の存在を知れば、僕を咎めるだろうか。
悪戯に人は進歩すべきではなかったと。
そうならないよう願う。
ロケットはミサイルを生み出したが、ミサイルはアポロを生み出したように。
人が進んでいく事を願う。
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