25】立ち止まり、からの加速! -1
――結局、この三日間で得たものはなんだったのだろう?
得たもの?
そんなもの、何一つない。
理塚くんと僕、たった二人での、たった一人を見つけるための捜索。それを三日間。それこそ、足が棒になるまで、という慣用句が慣用句でなく実現されたかと思うくらいに街中を、沢瑠璃さんというたった一人を探すために探し回った。時間が経てば経つほど、行ってはいけない方向へ事態が進んでいってしまう。
――けれど、そのたった一人を僕たちはこの三日間で結局見つけることができなかった。
「……見つかんねぇな」
理塚くんがメロンパンの包みを開けながら呟いた。
僕はそれを見つめながら、小さく頷く。理塚くんの言葉には主語が無かったけれど、クラスメートのいる昼休みの教室ではその方が良かったし、無くても分かりきっていた。そんな三日間を、僕たちは過ごしたのだ。
理塚くんが、野菜ジュースのパックにストローを挿しながらため息をついた。
「メルアドが分からないってだけでこんな不便だなんて、考えもしなかったぜ」
「……知ってても、返事はないだろうから意味ないけどね」
ストローがゆっくり差し込まれていくのを見つめながら、僕もため息をついた。メルアドがあっても、例えばどんなに熱いメッセージを送ったとしても、本人に見る気がなければ送っていないも同じ。結局はメールを受け取った人がすべてを左右するのであって、それは、どんな強い巨人ロボを持っていてもその力の善悪を決めるのは操縦する少年の性根しだい、ということにも似ていた。
似ているのだろうか。
理塚くんが、紙包みに入ったコロッケを手に取る。
「全力で探したら意外と早く見つかんじゃねぇか、とか思ってたけど。あいつ、どこにいるんだろうな?」
「ごめんね、僕が高いところ登れたら、まだもうちょっとしっかり探せたんだろうけど」
ぴりぴりと音を立てながら裂けていく紙包みを見つめながら僕が申し訳なささで頭を小さく下げると、理塚くんが苦笑した。
「そりゃ仕方ねぇよ。でも結局、あの思い込ませ療法もあんまし上手くいかなかったか」
「思い込ませ療法?」
「……あ。いや、あんまし気にすんな。それよりも」
コロッケにかぶりつこうとしているのを見ていた僕に、理塚くんが眉をひそめる。
「お前、昼飯食わねぇの?」
「え? ああ、昼ご飯持ってくるの忘れたんだ」
「だからお前ずっとオレの手元見てたんかよ! ずっと気になってたんだよ、言えよ視線で語るんじゃなくて!」
ったく、と悪態をつきながらも、理塚くんは封を開けていない焼きそばパンをくれた。理塚くんはやはり、基本的にいい人なのだ。
お礼を言いながら、僕もたった今僕のものになった焼きそばパンにかぶりつく。
「ふぃふはふん、ふぉの」
「まず食え。食ってから話せ、この基本をお前はなぜいつも忘れる」
「んっく。理塚くん、この三日間ありがとね」
「え? あぁ、まあ、な」
野菜ジュースを吸っていた理塚くんが、複雑そうな表情を浮かべる。
「ホントはもう少し手伝おうと思ってたんだけどな。対外試合が決まったらしくて、練習に来い、て言われちまった」
「仕方ないよ、この三日間手伝ってくれただけでも助かりました」
「けど、部活終わりも手伝えるだけ手伝うからよ」
「うん、ありがと。でも大丈夫だよ」
理塚くんは本当に人がいい。本来は理塚くんが手伝わなければいけない理由は無いのだ、理塚くんが有ると思っているだけで。だから僕はやんわりと断った。
……断った理由はもう一つある。この三日間、まったく解決の糸口が無い違和感を、もう一度考えなおしたいのだ。
「そうか、分かったよ」
もう一つの理由を知る由もない理塚くんは、
「まあそれでも、なんでも言えよ」
友達に備わっていてほしいスペックランキングで上位ランクインするだろう、押し付けがましくない優しさを押し出した一言を付け足して、野菜ジュースをずそそそ、と吸い上げた。
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