22】立ち止まって、しまった -2

 沢瑠璃さんは、ぐいぐいと前向けて歩いていく。

 僕はその後ろをついて歩く。


 変な違和感の理由はすぐに分かった。沢瑠璃さんの背中を見ながら歩くのは、これが初めてだった。


 どうしよう、どうしよう。


 焦りと弱音だけが膨らんでいく。心のなかで綿埃のようにゆっくりとけれど確実に膨らんでいく感情はまるでゴールのない迷路のようで、どうしよう、とうねうね迷いに迷った僕がついに見つけたと思ったそのゴールはよく見るとスタート地点で、つまりはどうしよう、の答えが見つけられなかった。


 そうなると、考えることが億劫になってくる。答えが見つからないなら考えても意味ないじゃん、と思えてくる。おでんだって、たんに似たようなネコを見かけてるだけかもしれない。そうであれば、もう余計なことを考えずにこのまま沢瑠

「おい」

「うわぁ!」

 突然視界いっぱいが沢瑠璃さんのどアップに支配されて、僕はおもいきりのけぞってしまっていた。


 ずいぶんと、かなり長いあいだ僕は思いふけりすぎていたようだった。沢瑠璃さんは「ったく、私の問いかけ、どんだけ無視するんだ」と少し怒った顔で言った。


「あ……ごめん、ちょっと考えごとをしすぎちゃってて」


「気をつけろ? まあ、交通事故にあったらすぐに199に電話してあげるけど」


 沢瑠璃さんは一抹の不安ですむならすませたいほど信頼性に欠ける優しい言葉をかけてくれたので、僕は「うん、ありがとう。すぐに119にかけてね」とさりげなく修正をかけながらお礼を伝える。


「けど、ホントに気をつけてよね」


「うん、分かった」


 頷きながら。

 僕は、もう考えることを諦めることにした。さっき考えていたとおりあのネコがただおでんに似ている違う猫の可能性だってある。沢瑠璃さんのお母さんが言ったとおりおでんがもう死んでいれば、沢瑠璃さんがなぜおでんをこうして探しているのかも分からない。ただ、そんなふうに考えるのを諦めることにした。


 ……考えることに、疲れてしまった。


 おでんを探し続けるかぎり、沢瑠璃さんとこうして毎日会える。もともとの目的はそれが第一で、もともとの第一の目的が果たせるならそれでいいんじゃないか。


 僕はついにそう考えてしまって、沢瑠璃さんの後ろを歩かずにいこう、と彼女の横へいつものように並んで、難しい顔もやめて一緒に歩きだそうとした。


 ――その次の瞬間。

 僕は立ち止まってしまった――

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