第12話

瓜二つの2人。わたしたちが互いに理解し、共有する言語。例えばそれは低音で、高音で、音ですらなく、波ですらない。



エネルギーが生まれ、消えていく。

何事も初めてがある。

わたしも初めて果実をかじる。あなたたちが果実と呼ぶそれをわたし達は果実と知らない。でも、それは果実だ。

宇宙鯨ジゥゲイの中には食べ物が生まれるらしい。それに眩しく鼓動する心臓に、引いては返すベタつく生体水。宇宙の無重力空間の中では放射状に広がるわたしホァレイの黒髪が混沌としてたなびく天然風。

目の前には古びて朽ちた機械があった。機械のかたちはツァオロンと同じか少し大きめ。わたし換算で30人分というところか。いつから鯨の体内にいるのかわからないけれど、もう動くことはないようにみえる。乗り手もきっともういないのだろう。

わたしはあぐらをかいてツァオロンに寄りかかり、眩しさから両手で顔を覆い続けていて、しきりに喉が渇いていて、目の前に転がる丸い物体から汁が流れていることに気づいて、それはもうどうしようもなく噛みついたのだった。

丸い物体は噛みつくと甘い水分が口内に広がり、口の端から漏れ、胸元を濡らし、くるぶしまでを汚した。尻を接するあたりから一帯は硬い平板のようでもあり、傾斜が所々にあるようにもみえる。そこここに乾燥していたり水気が滲んでいるような染みがあり、分岐したさまざまな突起物が疎らに足元から伸びている。それらは蹴ると揺れた。揺れると果実が落ちてくる。それ、わたし、齧って、中身飲む。

原始的な欲求を満たして、人心地がついて、わたしはわたしのツァオロンを見上げる。外面の多くはジゥゲイの歯に削られてすり減っていて、わたしは自分の身が巨鯨ジゥゲイに齧られてしまったように感じて身体を震わせる。光に当てられて温んだ外殻をそっとひと撫でする。頬をつけて火傷しそうになるまで目を瞑る。で、振り向いて本当に不思議なくらい目と鼻の先にあるわたしの跳龍ツァオロンとよく似た吠虎フォコウの前に仁王立ちで観察する。そうだ。この子の名前は。わたしとわたしのツァオロンが生まれる前のわたしたち、その一部。

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