第9話

無機質なわたしたち。均一であるわたしたち。オリジナルであるわたしたち。



「各機戦闘配置につけ」

鳳凰わたしが発した命令とともに宇宙の闇に紛れた跳龍ツァオロンたちがそれぞれに鳳麗ホァレイを乗せてマザーシップを飛び出していく。巨大な芋虫から射出される針の如く素早くわたしたちは群れをなしていく。


巨大な巨鯨ジゥゲイが音もなく静かに宇宙に横たわり暗黒空間を眩く照らしながらマザーシップを威圧していた。

でもそんなことはどうでもいい。

ホァレイは人類のために戦うけれど、別にジゥゲイが人類を食べ尽くしてしまったってわたしたちがクソマズいペーストを食べられなくなり、デロデロを飲めなくなり、サイトーさんの垂れ下がった眉を毎朝見なくて済むようになるだけの違いだ。


「ホァレイ、集中して戦うんだ。気をつけて」

他のわたしたちもわかっているけれど、専用回線秘密の特権を使ってすべてのツァオロンに届けられる第一管轄科学技術士長父親代わりの声はアザのあるわたしだけを特別扱いする。

実際にホァレイの中で抜きんでた強さを持っているアザのある鳳麗わたしであるところの矜恃はそれなりにあるわけだが、肝心のジゥゲイは別にわたしたちを区別も差別も特別扱いもしない。大きなお口を開けて星屑と一緒にわたしたちツァオロンとホァレイを飲み込もうとヒレをうねるだけだ。


ジゥゲイの腹の周りに旋回しているホァレイたちにわたしは一斉に巨大で殺傷力を十分に備えた機械仕掛けの杭パイルバンカーを打ち込むように指示する。わたしたちは群れでいながら大きな一匹の虎であるかのようにジゥゲイの腹に噛みつき切り裂く。音のない空間一杯に鯨の切ない鳴き声が響き渡り、わたしたちは一斉に心のうちを曇らせる。でも関係ない。

ジゥゲイは尾びれを翻してわたしたちの何人かと何匹かを同時に粉砕して有機物と無機物の混ざった屑に変える。わたしたちは同時に痛みのない痛みに悶絶し、訓練生時代の暗闇がフラッシュバックする。同時に飲み込まれた何人かのわたしたちが圧し潰される一瞬でジゥゲイの内部に穴をあけている。アザのあるわたしはジゥゲイの素早く閉じる口を掠めて鼻先を蹴り上げ、右側の大きな瞳に杭を突き立てる。鮮やかな黒い液体がわたしの乗っているツァオロン全部に吹きかかり、わたしのツァオロンを通して見ていた視界は暗闇に包まれる。

「モニタ死んだ、一時離脱する」

わたしの発した声と同時に突然の大きな振動と静寂が訪れ、とっさにツァオロンの体をできるだけコンパクトに防御態勢をとり、パイルバンカーを機体と縦方向に並行に立てる。


しばらくして落ち着いたわたしの耳には通信設備からの小さなノイズ音だけが聴こえてくる。

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