第5話
彼女と私は似てるけど違う。あたかも同じであるようで、些細な違いが命取り。
○
「339 225 360」
「はい」
と、答える時に教官と私の視線が交差して、私は小さな胸に大きな誇りを抱く。
ツァオロンを一番上手く操れるのは私。そして教官はそれを理解している。
今思えば、生まれたてのホァレイらしい、可愛らしいプライドの持ち様であったけれど、プライドを持てない奴より全然マシだ。
プライドをかなぐり捨てて、泥水をすすってでも、なりふり構わずやれる奴が生き残る奴だって?
それは嘘だ。
プライドを持たない奴は早死にする。少なくとも、誇りを持たずに戦ってたホァレイは早く死んでいった。私の周りでは。
私が摘果されたての頃、教官の期待に最大限応えることが私のプライドだった。
生まれてくるホァレイの大体が最初から持っている感情。喜び、不安、不機嫌。
全部、ホァレイという自己の確立の為に埋め込まれた精神機構だ。
命令に背かないというだけでは人知を超えることは出来ない、という当たり前の結論がホァレイをホァレイ足らしめている。
ジゥゲイは私たち、つまり人類と人類に関わる全てを飲み込むべく、本能的に活動しているらしく、私たちが死ぬときなどは、大抵ジゥゲイに飲み込まれて死ぬ。
それはもう、結構、かなり、怖い。
今では、私たちはジゥゲイに飲み込まれて死ぬ、ということがどういうことか少なくとも物理現象として分かっている。
映像があるのだ。
ホァレイがジゥゲイに飲み込まれて、絶叫し、沈黙し、後から来たツァオロンによって切り開かれたジゥゲイの中から得られた映像資料だ。
そんなものを観たくて観たい奴は誰もいないはずだけど、教育プログラムはそれを私たちが知るべきだ、と規定しているらしく、観ざるをえない。
当時はかなり暗澹とした気持ちになったものだ。まるで自分自身が巨大な怪物に飲み込まれるような気分に、否応なくさせられるのだから。
私たちは、その飲み込まれたそいつのおかげで、自分がしくじった時何が起こるか予め知っている。知ることが出来るようになった、というべきか。近い、あるいは遠い未来に、いずれにせよいつか必ずお前はこのような運命を辿るのだ、と知らされる。私たちは、死を疑似体験しておくべきだと、どこかで決定されたのだ。
最初の全てが終了し、私たちは、あるいは私だけは、プライドを胸に抱く。ツァオロンに乗って、ジゥゲイを殺し尽くすか、いつかジゥゲイに飲み込まれるまで、人類の為に働き続ける。
私は違う。私だけは違う。私は決して彼女のようにはならない、そのように心の中で叫び続ける。
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