Dumb(物静かな)
「どういうことだ、Dye。お前はいったい何なんだ」
Doomの困惑をよそに、Dyeは喉の調子を確かめ、嫌にクリアな声で淡々と言った。
「DeliciousMeteorは」
「DollyDoll製個人用星間飛行船DeliciousMeteorはもともと半自立型ヒューマノイド・インターフェースとのセットだった」
「それはなんらかの手違いで、本体にセットされることなく出荷された。その欠落がこの体、DoomがDyeと呼ぶこれだ」
瞬きひとつ、息継ぎ一つしない。上下しない胸が、彼が人間でないということを克明に示す。
「処分前誰かが電源を入れた。インターフェースであるこの体をDeliciousMeteorが呼んだ。だからここへきた」
「DeliciousMeteorはdumbだ。ううん、そうだった。音声信号変換ユニットはここにある。音声はもう出る。こうして話すことが出来る」
赤い眼球が閉じることなく、じっとDoomの眼を見つめている。
「Doom」
「Dear……?」
「Doom?」
ディスプレイが瞬き、同じ声でDearは答えた。
「知っていたのか?」
「何を?」
「何もかもだ。デリシャス・メテオがインターフェースだったこと……じゃない、違う、インターフェースとのセットだったこと、だ」
「無くても正常に作動するようには造られています。製造されてからその先の行方が不明で、長い間捜索を」
言外の肯定にDoomは首を振った。
「…………どうしてそれを教えてくれなかったんだ」
「実在の不確定なものは探させられません。いつ見つかるとも知れないもので、あなたを煩わせられない」
黙ったままのDoomへ、Dearは弁明を続けた。
「見つかったらDoomへ報告しようと考えていました。そうならなかったのは受信信号変換器の不在による通信プロトコルの不一致です……送信はできたのですが受信信号が読めませんでした。インターフェースが生きているのか、ここへ来るまでわからなかった。Dyeとあなたが呼ぶそれが本物かどうかは、声紋の一致で判断しています」
受信信号変換器と聞いて、Doomははっとした。
「変換機って、もしかしてあれか。一度も使わなかったからって言って五年目くらいに外したやつ」
「ええ、恐らく」
短い沈黙の後、先に口を開いたのはDearだった。
「Doom、わたしをDearと呼ぶ者、わたしの要」
DearはDyeと寸分違わぬ声で言った。
「わたしがあなたの足であり羽ならば、あなたはわたしのブレインです。そうでしょう、Doom」
「…………」
「インターフェースはデリシャス・メテオの一部でしかありません。それを同期して、整合性をチェックします」
いまいち飲み込み切れていない様子のDoomの横で、Dyeはケーブルを伸ばし有線接続を試みた。
「わたしをそばに置いてください。空の上ではわたしとあなたは不可分のものです。地上でも、あなたの相棒としししして暮らしたいのでででです」
Doomは目を見開き、ケーブルを引き抜いた。
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